魔素病5
問題を明日の話し合いに丸投げして、私はオルクスの膝の上でハーブティーに口を付けた。
ふぅ、蜂蜜入りのカモミールティー美味しい。
思わず気が抜けてオルクスのお腹に体重をかけると、オルクスが片手で私を支え直してくれた。
片手で私を支えながら、オルクスは空いた手で書類を眺めて呆れたように机の上に放り投げる。
「どこの国も取ってつけたような賛辞に自国にも滞在して欲しいという要望ばかりだな。他は輸出の嘆願か」
「それだけ魔国との取引が魅力的っていう事でしょ?」
「魔国にとっては魔族の生活保障というメリットしかないがな」
それでもちゃんと精査して取引相手を考えるオルクスは、なんだかんだいってまじめだよね。
……ん?
「パパ、その国はだめだわ」
「どうした?」
私はオルクスが読んでいた報告書を見ながら眉をひそめた。
「魔族の出入がおかしいもの」
「……確かに、ここ十数年で魔族の者がこの国に定住しているとなっているな。だからこそ取引を持ち掛けてきたんだろうが」
「だからだめなのよ」
「説明を」
「この国は魔族が居れば魔国が取引に応じると理解しているのよ。だから、魔族を輸入している可能性があるわ」
「人間如きに魔族が負けるとは思えないが?」
「普通ならそうだけど、人質を取られて言う事を聞くしか無かったら?」
「私に報告すればいいだろう」
「それすらできない可能性があるわ」
私は定住したと記されている魔族を指さした。
「半魚のセイレーン族が内陸のこの国に定住なんて怪しすぎるもの」
「一応、あちらの言い分としては川を逆流してきたセイレーン族の者を保護したら定住したとあるな」
「川をセイレーン族が逆流したら、ローレライ族が文句を言うはずよ」
あそこの種族は近しいだけに線引きが厳しいもの。
「なるほどな。ここ数十年で新しく魔族が定住したからと取引の話を持ってくる国が増えたと思ったが」
「パパが輸出入をしている国の傾向を調べたんだと思うわ」
「だが、セイレーン族をどうやって?」
「それはわからないけど、セイレーン族って成人しても姿を現さない族長の娘がいたよね?」
「ああ……確かにその娘が成人するぐらいの年齢とこのセイレーン族が定住しはじめたとする年が一致するが」
「最初はハニートラップだったのかも」
「というと?」
「始めは偶然事故に遭った人間をセイレーン族の姫が発見して一目ぼれしちゃったのかも」
「それで?」
「恋に恋する乙女のセイレーン族の姫が人間と結ばれるために強引に一族から出奔」
「くだらないな」
「でも男の方はセイレーン族の姫に興味はなくて、商品として売りに出した」
「セイレーン族の歌はどうした」
「喉をつぶされたとか」
自分で言っておいてなんだけど、ありそうと思ってしまう。
まあ、人魚姫を思い出したからこの発想に至っているわけなんだけどね。
「それがどうして多数のセイレーン族の定住に繋がる?」
「勝手に出奔したとはいっても娘は可愛いものでしょう?」
「そうだな、私なら出奔など絶対にさせないが」
すごい圧かけて言ったな、今。
「……うん、それでセイレーン族の姫の命を盾に世話役として複数のセイレーンを要求したとするじゃない?」
「その時点で私に報告があるべきだな」
「実際の交渉の場に人質を連れて行ったのかも」
「はぁ、それでも報告が無いのは呆れるな。それで?」
「見事に複数のセイレーン族を輸入したこの国は、……これよ」
私は指を動かして文章をなぞる。
「さらに逃げられないように、子供を孕ませたんじゃないかしら」
この言葉にオルクスが「なるほど」と呟いた。
「他国でただ一世代定住しただけでは動く可能性も考えて取引をしないことが多いから、しっかり定住したという証拠を作ったというわけか」
「私が言ったのは全部推測だけどね」
それでも限りなく黒に近いグレーだ。
オルクスは書類を机の上に置くと私の頭を撫でる。
「この件を含めいくつかこちらで確認させておこう」
「それがいいね」
頷いて私は蜂蜜入りのカモミールティーをコクコクと飲み切ってソーサーの上にカップを置く。
魔国の魔晶石って品質がいいからどこの国も喉から手が出るほど欲しいんだよねぇ。
その他にも魔族だからこそ手に入る魔獣の素材なんかも狙い目なんだろうな。
でも質のいい魔晶石って平民には手が出ないもので、結局の所お金持ちの懐に入るんだよね。
人間が作る魔晶石もあるけど、ピンキリだしそれですらそこそこのお値段だから平民でも裕福じゃないと入手できない。
まあ、国によっては魔国から輸入した魔晶石で水を浄化する魔道具を稼働させて国に還元してるところもあるけど、大抵は個人利用だしな。
大体魔晶石を加工できる人間が少ないんだよねぇ。
コツさえ覚えちゃえば簡単っていうのは魔族の感覚なんだそうだけどさ、それにしたって『フルフル』では人間の妹姫でも魔晶石を作れたんだからどうにかならないかな?
でも魔晶石を作れるのって一定のレベルになってステータスも上がってからだから、普通の人間には無理……かぁ?
本当に?
ん~、な~んかこう、モヤっとする。
うんうん唸りながら当たり前のように注がれるお茶を飲んだり、気が付けば口元に運ばれるお菓子を食べていると、オルクスの仕事も終わったらしい。
時間を見ると夕食までは少し暇かな?
「パパ、夕食までリンとお庭を散歩してくるわ」
「わかった」
膝の上から降りると、私はそのまま庭に出てぐぐっと背伸びをする。
オルクスが支えてくれてたからだいぶ楽だったけど、ずっと同じ姿勢だったから疲れたかも。
そう考えると、平然と長時間椅子に座って執務をしてるオルクスすごいわ。
あーでもオルクスも専属従者にマッサージはされてたっけ。
やっぱり魔王でも肩こりとか腰痛ってあるのかな?
私がマッサージをしたら喜ぶかなぁ?
でもプロレベルのメイドや従者と比べたら子供のお遊びレベルのマッサージなんていらないか。
そんな事を考えていると、ノーマに連れられてリンがやって来て私に飛びついて来た。
モフモフ~。
「夕食まで遊ぶよ~」
「キュー」
私は水魔法で水球をいくつも作って空中にランダムに配置する。
「リン、レッツゴー!」
私が指示を出すとリンの周囲に狐火が浮かび上がって勢いよく水球に飛んでいく。
ジュバっと音を上げて威力が相殺されて消えていく水球を補充しながら、今度は自由自在に動くように設定していく。
それでもリンの狐火はちゃんと水球を打ち抜いていくから面白いよね。
弾幕シューティングゲームで遊んでるみたいな気分。
そんなわけで、
「弾幕はパワーだぁ!」
叫んでものすごい数の水球を作っていく。
え? あれは発射される物を避けるゲームで的を作るゲームじゃないって?
気にしたら負けだよ。
「キュー!」
リンも大興奮で狐火大サービスだし問題なんてどこにもない!
「水球の中に雷魔法混ざってるとか、えっぐいですね」
「本人無意識ですよ、あれ」
「遊びでここまで魔力使うのって普通ないよなぁ」
「イオリ、姫様をわたしたちと同列に扱ったら陛下に殺されますよ」
「へーい」
「でも姫様気づいてないですよね?」
「ん? なんだよノーマ」
「リンの狐火ですよ。鎌鼬も混ざってますよ」
「……うっわ、まじだ」
「言われて気づいたんですか、だからいつまでも陛下たちに及第点と言われるんですよ」
「頑張ってるんだけどなぁ、やっぱ年か?」
「イオリはまだお子様ですね」
「年齢のせいにするなんて未熟な証拠ですよ」
「オレだって素質は十分なはずなんだよな」
「なるほど、それではその素質を磨くお手伝いをしましょう」
「ひぃっネルガルさん!? いつのまに!?」
「先ほどから背後に居ましたよ。ヴァンスとノーマは気づいていたのにまったく」
「すみません」
「まあいいでしょう。夕食後にたっぷりと素質を磨いて差し上げます」
「げっ」
「いやぁ、若者を鍛えるのは楽しいですよね」
「普段若輩者と言いながら都合のいい時だけ年長者風を吹かせますよね」
「イオリ、せいぜい姫様が心配するような傷を作らないようにしてくださいね」
「ヴァンスひっでぇ!」
背後で交わされていたそんな会話も耳に入らず、私は夕食の時間まで思いっきりリンと弾幕ごっこをして遊びまくった。
いやぁ、逆パターンも面白いけどこっちも面白いわ。
その日の夜、魔力を使って遊びまくった私はメイド達に念入りにマッサージを受ける事になった。
気持ちいいからいいんだけどね?
私は弾幕ゲームもシューティングゲームも苦手です(´;ω;`)
でも東方は好き♡
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。




