魔素病4
そこから、オルクスによるお勉強が始まった。
「魔力とはそもそも周囲にある魔素をどれだけ溜め込めるかというものになる」
「うん」
「保有できる量が多いほど周囲の魔素を溜め込むことが出来るが、その魔力を適量放出する事が出来ない者は、魔素中毒になる」
「そうならないように魔国に駐在する大使の人を交代させてるのね。流行り病もそれが原因?」
「魔国はこの地界のせいで特に魔素が濃い。だがそれ以外の場所であればさして魔素の量は多くないし、多い場所は自然と人間が避けている。とはいえ無いわけではない」
「そうなんだ」
「魔素の濃い場所は放置され、荒れ果てるか人の手の入っていない深い森などになるな」
「ふむ」
「だが、人間が住む領土を増やすうちに多少魔素が多い地域にも住まなければいけなくなったんだろう」
「え? でも魔素になれてないと病気になるんだよね?」
「そうだ。だが、野生の動物が耐性を付けているように、人間も魔素に耐性をつけることができる」
「へえ!」
「魔法の扱いに長けている者が魔素に耐性が強いというわけではないぞ」
「そうなの!?」
今完全にそうだと思いましたが!?
「魔法に長けている者は体内の魔力を操るのに長けている者だ」
「要するに?」
「魔力量が多い者は確かに魔素を保有できる量は多いが、扱えなければいつか決壊する。逆に魔力量が少なくとも扱いに長けていれば魔素をうまく逃がしてやることが出来る」
わかるようなわからないような?
「それで、耐性を付けるっていうのはどうやるの?」
「簡単だ。魔素を十分に含んだものを取り込めばいい」
「それって、普通に魔素に触れているだけじゃダメなの?」
「駄目ではないが浸透させるには直接摂取した方がいい」
「つまり飲み食いしろというわけね」
実際野生の動物は魔素が多い場所に生息しているものを食べているわけだし。
「それでも耐性が付かない者は淘汰される。人間で魔素の耐性がしっかりついている者は生き残りというわけだ。そもそも血統的に魔素に対して耐性を付けているんだろう」
つまり、流行り病の原因は魔素で、体内の許容量を超えちゃった人がぶっ倒れるわけだ。
そんでもって魔素を外に逃がせない人が死んじゃうって事かな。
「魔法薬とか治癒魔法をかけられて治るのは何で?」
「魔法の治療を受ける際、通常は自分の中にある魔力も消費する」
「通常じゃないのは?」
「相手の魔力を流し込まれる場合だな。まあ、人間には無理だろう、相手の魔力を受け入れるのに拒絶反応が出て死ぬからな」
わぁ、こわい。
「ん? でも私ってパパの魔力を貰ったんだよね?」
「魔族であれば拒絶反応に勝つ者もいる。ライラは古代宝石精霊だから拒絶反応がそもそもない」
「ふーん、そこのところがまだよくわかんないんだよねぇ」
「雑学になるから後回しだな」
「はぁい」
「とにかく、魔力を使用した治療によって体内に溜まっていた魔素が排出される。それによって中毒症状が治るという仕組みだろうな」
「人によって症状の重さに差があったり、治癒までの時間に差が出ちゃうのは?」
「それこそ魔力を放出する方法があるかないかだな。体の異常を治そうと無意識に体内の魔力を使えばその分魔素は排出されるが、そもそもそれすらできなければ自然に流れ出るのを待つしかない」
「ほむ」
「流れ出るまでに体の限界が来たものが死ぬんだろう」
「なるほど」
でも、そうなるとこの流行り病の根本的治療って無理って事?
あ、でも魔法を日常的に使えば魔素もその分放出されるって、人間のほとんどは魔法使えないんだわ。
使える人も居るから、絶対使えないわけじゃないんだけどなんていうんだろう、魔力を使用する器官っていうのかなぁ、それが違うんだよね。
少なくとも魔力を排出できる環境があれば流行り病は撲滅できなくても軽減は出来るはずで……。
「人間って、魔法が使えない人でも魔力はあるんだよね?」
「そうだな」
「その魔力って普段はどうやって放出してるの?」
「人によるな。魔法を使うものはそのまま魔力として使うだろうが、魔法が使えない者は……ああ、そういえば祈りという形で昇華しているとも聞いた事があるな」
「祈り?」
なんともアバウトなものだけど、魔法を使えない人が病気や怪我をした時に無意識に自然治癒の為に魔力を使うんだったら、祈りで魔力を放出してもおかしくはない、のかなぁ?
「あとは、簡単なものとして……」
そう言ってオルクスが今度は無色の石を目の前に差し出した。
「触れてみろ」
「ん? ぅわ!?」
触れた途端に石が割れて粉々になった。
なんで?
「このように魔力を吸うものもある」
「いや、すぐ壊れたら意味なくない?」
「壊れたのはライラの魔力量が多すぎて石が耐えられなかったからだな。人間が魔素に耐えられずに死ぬのと同じだ」
同じかぁ、無機物と人間が同じかぁ。
知ってるけどオルクスって本当に人間とかどうでもいいと思ってるよね。
「あの石ってどこで採れるの?」
「私が始末した土地で採れるんじゃないか?」
「なぜに?」
「滅ぼした時に魔素を根こそぎ使ったからな。不毛地帯なのは魔素がなくて何も育たないからだ」
「それなら砂漠地帯でも採れるんじゃない?」
「砂漠地帯にも生命体は存在しているから不毛地帯ではない」
つまり、生命体も存在できないレベルで滅亡させたんですか、そうですか。
改めてオルクスのチートを実感しながらも、あの石を使えば流行り病対策になるんじゃないかとも思う。
そもそも、不毛地帯に罹患した人を連れて行けばって、病人にそんな真似は出来ないか。
しかし問題は不毛地帯がどこの国からも忌み地として避けられているせいで周囲に国どころか集落の一つもない事かなぁ。
石を運び出そうにもまずその手段がないわ。
いや、魔族を使えば多分簡単に出来る気もするんだけど……。
「不毛地帯って弱い魔族が近づいたらどうなるの?」
「魔力を吸い上げられて消滅するだろうな」
ですよねー! そんな気がしたんだよねー!
魔力を吸い取る石があるんだから、不毛地帯に居るだけで魔力が吸われるんだって思ったんだよ!
しかし、そうなると魔力保有量の多い魔族が必要なわけかぁ。
うーん、人間の為に石ころ集めする魔族は居ないだろうな。
時間をかけて魔素を多く含んだ飲食物を摂取してもらって魔素への耐性を持った人間を増やすにしても、何世代計画なんだって話だよねぇ。
オルクスに頼んで小規模な不毛地帯を新しく作ってもら……うのはやめるとして。
他に何かいい方法はないかなぁ。
要するに魔力を外に放出する方法かぁ。
祈りでも放出されるんだったら、他にも何か方法がありそうなんだよね。
「そもそも、魔力の保有量が多い者が現れる事があるといっても所詮は人間だからな」
「実際はそんなに多くないの?」
「本当に魔力の保有量が多い純血の人間の子供は、そもそも産まれない」
「どういうこと?」
「人間でも魔素は生命エネルギーの一つだ」
「うん」
「本当に魔力の保有量が多い者は、胎児の時点で母体の魔力を吸いきって母子ともに死ぬ」
「うっわぁ……」
「胎児にしてみれば栄養補給の一環だからな。悪意も何もない、生きるための手段だ。結局死ぬが」
「やるせないねぇ」
ん? でも『フルフル』には魔法に長けてる攻略対象もいたよね?
魔力の扱いに長けてるっていうだけじゃなくて、ステータス的に魔力量も多い人がいたはずなんだけど?
「先祖に魔族でも混ざっていれば、魔力保有量が多い半人間が生まれてもおかしくはないがな」
「半魔族じゃなくて半人間?」
「先祖返りと言うほどの力があれば半魔族と言ってもいいだろうが、そうでないなら半人間だな」
「線引きは何処?」
「純粋に能力だ」
「ドルドア様はどっち?」
「あれは半魔族だな」
そこら辺は感覚っぽいなぁ。
ハーフでも能力が低ければ半人間扱いされそう。
しっかし、この事をリリス様たちに伝えてどんな反応をされるかだよねぇ。
私の低能な頭じゃ良策が浮かばないわ。
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