魔素病3
実際問題、魔王の娘の友達ってかなりのステータスだよね?
なっておいて損はないと思うんだけど、その分他に恨まれるっていうリスクもあるのかぁ。
特に外交問題が絡んでくると利益も絡んでくるわけで、純粋に友情を楽しめる機会も少ないよね。
ん? あれ? つんでない?
これ、友達100人出来るかなルートつんでない?
そんなルートないけど!
「私のビバスクールライフ計画が……」
「ライラは私の娘なのだから、思うように過ごしていいんだぞ」
「いや、結構思うように過ごしてるよ?」
「聞いた話では高位の令嬢は親にドレスや宝石を強請って甘えるそうだ」
「どこ情報なの!?」
「ネルガルだな」
ネルガル! また余計な情報をオルクスに吹き込んだのね!
「それなのにライラはドレスも最低限でいいと言うし、宝石だって強請らない」
「もう十分にドレスはあるし、宝石……装飾品はパパが作った魔晶石のもの以上ってないんだもん」
いや、これはマジな話だよ。
オルクスが加工した魔晶石一個で、魔国の魔王城の照明系統と気温管理設備系統の数十年分のエネルギーを確保できると思う。
加工する原材料の魔石が高純度っていうのもあるんだけど、オルクスの加工技術がずば抜けてるんだよなぁ。
私が作ったのもそれなりだけど、あくまでもそれなりだよ。
そんなそれなりの魔晶石を使った装飾品をオルクスは愛用しているんだけどね。
ちなみにこの事を知っている私達の周囲の魔族はものすごく呆れた顔をしてくる。
理由を聞いても「仲が良いのは良い事です、多分」と濁されるんだよね。
よく、お互いの瞳の色の宝石を身に着け合う事で愛情をとかいう小説は読んだけど、私とオルクスが身に着けているのは色も形も様々だもんなぁ。
お揃いの装飾品もあるんだけどね。
「私が作った魔晶石をプレゼントすれば仲良くなれるかなぁ」
ぼそりと呟くと、部屋の空気が凍った。
というか実際に部屋が凍った。
え? は? ちょっと意味が分からない。
私なんか変な事言った?
「自分で作った魔晶石を贈りたい相手がいるのか?」
「え? 友好の証として、ほら、手作りのお揃いのものとか身につけてたら仲良しっぽいじゃない?」
そう言うとますます室内が凍って……あ、冷気に耐え切れずにカップにひびがっていうか、割れてるなこれは。
中身のハーブティーが凍ってるからこぼれないのは不幸中の幸い?
「私と揃いの装飾品を持っているだろう」
「うん」
「不服なのか?」
「なんで?」
「他にも自分で加工した魔晶石を使ったお揃いの装飾品を持ちたい相手がいるのだろう?」
「うーん? そうしたら仲良しっぽいって思っただけだけど?」
「必要ない」
「はへ?」
「ライラが自分で加工した魔晶石を使った装飾品を私以外の誰かに贈る必要はない」
「そうなの?」
「ああ」
オルクスはそう言って私の頭を撫でると、腕に抱きかかえたままソファーから立ち上がった。
カシャン、と音がしたのでそちらを見ると割れたカップが今度こそ崩れてソーサーの上に転がり、薄く色づいた液体が広がっている。
気が付いたら部屋の中の温度も戻り凍り付いていた物も元に戻ったみたい。
「陛下が意味を伏せるから姫様が不用意な発言をなさるんですよ」
ヴァンスが呆れたように後ろをついて来ながら言う。
伏せるってなんぞ?
そう思っていると、ヴァンスと一緒に付いてきているナムタルがおかしそうにクスクスと笑う。
「陛下は姫様が可愛くて仕方がないのですよ。他に渡したくないぐらいに」
「それは分かる気がするけど」
馬鹿とか超ド級とかが付くほどに過保護だもんね、オルクスって。
それで、その事がさっきの部屋の凍結と何か関係があるの?
「言われて不愉快な思いをするぐらいなら、いっそ隠さずに言ってしまった方がいいと思いますけどね」
「ナムタル、どういうこと?」
「余計な事を言うな」
「これは申し訳ございません。けれども私の忠誠は姫様にございますので、姫様がどうしても知りたいと願うのならお教えしてしまうのも一興、いえ、必然ですよ」
私、気になります!
目を輝かせてナムタルを見ると、にっこりと微笑まれた。
「教えても構いませんが、陛下から罰を受けてしまうかもしれませんね」
「パパ!」
「……はあ、言っても構わん」
「ありがとう! パパ大好き!」
そう言ってぎゅうっと抱き着くとそのままナムタルを見る。
「本当に仲がいいですよね。些かよすぎのようにも思えますが」
「駄目なの?」
「駄目ではない」
「陛下に聞いていませんでしょう?」
呆れたようにナムタルが言うけどオルクスは無視して歩き続ける。
「姫様、自分で作った魔晶石を使ったお揃いの装飾品を贈り合い身に着けるという事は」
「という事は?」
「魔族の間では相思相愛という意味なのです」
「へー」
…………へ?
「そうしそうあい」
「はい。ですので、姫様と陛下は仲がよすぎるぐらいに仲がいいと常々思っております」
「そうなんだー」
「ちなみに、相手が作った魔晶石を使った装飾品を欲しいと強請るのは、言外に『プロポーズして欲しい』と言っているようなものです」
「へえ……そっかー」
じゃあなにか? 数年前の私はオルクスに『プロポーズして♡』って言ったと同じか?
どこのファザコンだ?
いやまて、オルクスも私に加工した魔晶石を使った装飾品を贈るように言ったよね?
オルクスは意味を知ってて言ったんだよね?
どこまで親バカなの!?
娘は嫁にやらねぇぞっていう周囲への威嚇なの!?
「ライラはまだ生まれたばかりなのだから、恋愛など早い」
威嚇決定発言キター!
「姫様への贈り物でも、特定の意志をもって加工した魔晶石を使用したものは弾いていますよね」
「ライラに相応しいものではない」
「姫様に相応しいものとは?」
「私の作り出す魔晶石以上のものを作れたら認めてやることを考える」
ムリゲー……。
ナムタルたちも呆れたような視線をオルクスに向けてるし、ヴァンスなんて珍しくげんなりした顔をしてる。
「そこまでやって、認めるのを考える止まりで実際は考えないんでしょう、陛下」
「さてな」
ネルガルの言葉にオルクスはそっけなく答えると執務室に私を連れて入った。
私を抱っこしたまま座ったオルクスは、いくつかの書類を引き寄せると机の上に広げていく。
相変わらずこういう細かい魔法もオルクスは得意だよね。
私も出来ないことは無いけど、ここまで当たり前にってなるとまだ難しいかな。
「さてライラ」
「なぁに?」
「魔素に侵された人間や動物の病の話だが」
「あ、覚えてたんだ」
完全に話題を変えられたからどうでもいいって流したのかと思ったよ。
「魔国は魔素が多いのは知っているな」
「うん」
「どうしてかわかるか?」
「そういう土地だからでしょ?」
そう習ったんだけど違うの?
空が赤いのも、昼なのに真っ赤な月が昇るのも、全部魔素がたまりやすい土地だからでしょ?
「魔国の底には地界の入口がある」
「なにそれ」
「言ってしまえば天界の対になる場所。魔素の発生源だな」
オルクスはそう言って白紙の紙に絵を描き始めた。
……絵、だよね? なんかこう、なんともいえないけど、絵なんだと思う。
なんか、ただ親子(義理)がいちゃついてるだけのような気がして来た……。
ライラのお相手これに勝てるの!?
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。




