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魔素病2

※<>内の言葉は日本語です。


 ともあれ、話し合いを進めていくとそれぞれの国で割合は変われども同じ症状の流行り病で毎年死者が出て、定期的に大流行して大量の死者が出る事には変わりはないっていうのが分かった。

 でも、魔国ではそんな話聞いた事ないんだよなぁ。

 魔国は当然魔族がいるわけだから、人間と体の構造も違うわけで、同じように考えちゃ駄目なんだろうけど、なんか引っかかる。


「でもこの病の厄介な所は、通常の熱さましや鎮痛剤で症状の緩和は出来ても根本治療にはならないところですね」


 スタンス様が持っているペンを揺らしながら言う。


「根本的な治療には魔法薬を飲むか、魔法師による治癒しかないんですよ。平民ではまず手が出ないので症状を緩和しながら自然治癒を待っているうちに亡くなるっていうのが慣例ですね」

「確かに、我が国でもこの病の対策に治癒魔法を使える魔法師を増やして対策に当たってはいるけれど、どうしても貴族が優先されてしまうかな」

「貴族の方が症状が軽くて治しやすいっていうのもありますよね」


 各国の留学生が自国の対策や現状を伝えてくる。


「平民でも症状の重さは人それぞれですよね。一晩で治癒する人もいれば、一週間苦しんだ末に亡くなる人もいます」

「症状は同じでも重篤具合の差が何なのかが分かりませんのよね。年齢というわけでもありませんもの」


 全員が首をひねる。

 水質改善、土壌改善、栄養面改善、衛生面改善、どれを行っても流行り病の状況は変わらない。

 平民病というには貴族の中にも罹患する人が居るから一概に纏められない。


<一度罹ったらもう罹らないというわけでもないんですよね>

<場合によりますが毎年患う方もいますわ>

<はしかとかおたふくとかってわけでもないんですね>

<予防接種をしようにも原因がわかりませんのでどうしようもありませんわ>


 ウイルス的な物でもないなら遺伝子的な物?

 それにしては各国で平民貴族問わずっていうから範囲が広いなぁ。

 人間特有の遺伝子的な病気?


「……動物」

「はい?」

「動物にはこの病は発症してないんですか?」

「発症しますわ。特に家畜などに発症すると人にうつるわけではないのですがやはり大変ですわね」

「家畜……ペットとかも?」

「ええ、発症しますわね」

「野生の動物はどうですか?」


 私の言葉に座っている全員が目を合わせて首を傾げる。


「野生の動物であの病で死んだものは発見されてない、かな?」

「そもそも野生動物の死体が珍しいですからね」


 その言葉に考える。

 見つかっていないだけかもしれないけど、家畜やペットは罹患して野生動物は罹患しないっていうのはどういう仕組み?

 色々書かれた書類を眺めて眉を寄せていると、


「この地域では被害が少ないですね」


 と耳元でヴァンスが呟いたので顔を赤くして耳を押さえてしまった。

 くっそぉ、相変わらずいい声だなっ。

 しかし確かにヴァンスが指をさした地域では毎年流行病の被害が少なく、他の地域で大きな被害が出ても少ない被害で済んでいることが多いようだった。

 そのことを踏まえて、一度各国での病の流行の発生場所と被害の割合を比べていく事でその日は話し合いが終わった。


 屋敷に帰って今日のディスカッションの内容をオルクスに話すと、オルクスは関心がなさそうな顔で「ああ、魔素のせいだな」とあっさり言ってのける。


「どういうこと?」


 私を膝の上に乗せたオルクスが私の頭を撫でながら続けた。


「魔国に駐在している大使が定期的に交代しているのは知っているな」

「うん」

「あれは魔国に漂っている魔素に人間が耐えられなくなって倒れないようにしているからだ」

「そうなの!?」

「そもそも、魔国に滞在できる大使は魔力保有量が多い者をこちらで(・・・・)選別している」

「初耳だわ」

「それでも、まあ五年も持てばいい方だな」


 オルクスの言葉に魔国に駐在する大使が定期的に交代しているのにはそんな理由があるのかと驚いてしまった。

 いや、定期的に人が替わってるのは知ってたんだけどね?

 前世でも任期みたいなので人が替わるっていうのがあったから、それだと思ってたのよ。


「じゃあ、人間や家畜が病にかかっちゃうのは魔素のせい?」

「魔国ほどじゃないにしても魔素はどこにでもあるからな。影響を受けるんだろう」

「十数年に一度の割合で爆発的に流行しちゃうのはなんで?」

「普通に魔素量の流動だな」


 当たり前のことを言うようなオルクスに、私はそりゃあ魔族には発症しないわけだとため息を吐き出した。

 ん? でも……。


「野生動物は発症しないの? 死体とかが見つかってないだけ?」

「日ごろから魔素を多く含むものを摂取して耐性をつけているだろうし、魔素に弱い個体は淘汰されて行く」

「ほむ……」


 となると、流行病の被害が少ない地域の人って日ごろから魔素を多く含むものを摂取してるって事?

 なんで?

 う~んと頭をひねっていると、オルクスが手の動きを止めて私を包み込むように抱きしめる。


「どうしたの?」

「高等学院は楽しそうだな?」

「うん、魔国で勉強してた時も楽しかったけど、いろんな人と話し合いをして成果を出すって達成感があるよね。意見も色々あって面白いし」


 最初は魔王の娘っていうこともあって遠慮されている部分もあったけど、少しすれば節度は守りつつ普通に接してくれるようになっている。

 中にはお付き合いをするのは微妙だな、って思う人もいるにはいるけど、概ね問題はない。


「ノーマたちからの報告でもライラが充実した表情を浮かべていると」

「そうだね、前世では味わえなかった充実した日々だね」


 ビバ! スクールライフ!

 確かに憧れていた放課後にお友達と寄り道をするとかは出来ないけど、一緒にお昼を食べたり、体力を気にしないで休み時間におしゃべりしたり、まさに夢のスクールライフ!

 うっとりとどんなに毎日が楽しいかを語ると、オルクスが私を抱きしめたままため息を吐き出した。

 なんぞ?


「お前が心の底から楽しんでいるのは魔力を通じてわかるが、そんなにいいものか?」

「前世からの悲願だもん。友達を作って遊ぶっていうのがね」

「……それで、友達とやらは出来たのか?」

「うっ……」


 そこを突かれると切ない。

 私の立場上、気軽に友人を作れないのは仕方がないんだけどね、皆わきまえてるせいで線引きされてるんだよ。

 一番仲がいいのがリリス様かなぁ。

 リリス様は友達だよね? 友達って言っていいよね? なんだったら転生仲間でもいいけど。


「あまり気安く接する者が増えるのも問題だが、ライラの望むスクールライフには友人は欠かせないのだろう?」

「そうだねぇ」


 親友とか憧れてたなぁ、前世。

 病院で過ごす事が殆どだった私に、同年代の友人なんていませんでしたし!

 同じように入院してる患者さんと仲良くなっても、お互いいつ居なくなるかわかんなかったから、友達って程親しくしなかったしね!

 いや、仲良くしてた人が完治して退院していくのは素直にいい事だと思ってたよ?

 でもなんていうのかなぁ、置いて行かれる側の気分って複雑なのよ。

 あえて言うなら担当のお医者さんとか看護師さんとは仲良くなったけど、あれはあの人たちの仕事だしな。

 お友達とも違うよね。

 この世界に生まれてからも、魔王の娘っていう事で丁重に扱われているけど、お友達はいない……。

 うーん、そう考えるとやっぱり転生仲間のリリス様が一番お友達に近いのかも?

 これはあれか、「お友達になってください!」って告白すべきか?

 でも「ごめんなさい」されたら凹んで登校拒否どころか魔国に帰る自信があるぞ。

私は水ぼうそう以外なってません、やばいですね。゜(゜´Д`*゜)゜。


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― 新着の感想 ―
[一言] そこまで心配しなくても、ライラとリリスはお互い「第一印象から決めていました」という感じなので、問題なく成立するのではないでしょうか。
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