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魔素病

※<>内の言葉は日本語です。


 シオン様や前国王の抹消が終わり、慌ただしかったペオニアシ国内も緩やかに次代(・・)の女王が行う統治へ舵を切り始めている。

 一部の貴族のみ(・・)が富をむさぼっていた南部は、そういった貴族の不正が暴かれて追い落とされ、必死に領地と領民を守っていた貴族がやっと日の目を見ることが出来るようになった。


「だーかーらー、まずは水質改善ですって」

「我が国に源流がいくつあると思っていますの? 水は一年やそこらで浄化されるものではありませんのよ?」

「北部は早いうちから森を育てて(・・・)いるからいいですけど、南部はそうじゃないですから、まずは森を育てましょうよ」

「魔族の方からすれば森を作る事は簡単かもしれませんが、人間の魔法師が短期間で森を作るとなれば死人が出ますわ」


 私とリリス様の前には沢山の文字や記号、イラストの描かれた紙が散乱している。

 前世での知識チートが期待できない私は、それでもなんとか無い知恵を絞って領地運営とか外交の提案をするけど、しっかりばっちり前世知識チートのリリス様には勝てない。


「それに魔法の力でゴリ押しをしたところで、継続できなければ意味がありませんわ」

「むぅ」


 折角のファンタジーな魔法が使えるんだから、それを使えばいいのにと私は思うんだけど、リリス様は魔法を使える人間(・・)は極一部なのだから魔法に頼ってばかりではいけないと言う。

 正論なだけに反論が出来ない。

 私が子供じみた提案をどんどんしていくけれども、次々に却下されるか欠点を指摘されてしまう。

 前世は研究者で政治にも口を挟むほどの有識者ってどんなチートよ。

 詳しくは聞いていないけど、リリス様の前世は相当なお偉いさんだったらしい。

 ただ、女性という事もあってあまり表で活躍できなかったんだって。

 前世の世界では男女差別がどうのとか言ってた気がするけど、結局は女性には一歩控えて欲しいっていう男尊女卑が残ってたんだよねぇ。

 そのくせ女がいないと何もできないとか、矛盾だわ。

 リリス様はこの世界で国王の娘として北部を任されることを思い出して早々に、前世ではできなかった革命を起こしたそうなのよ。

 適応力とバイタリティーすっごいわ。

 そもそも、そんな偉い人がなんで死んだのかって話なんだけど、事故死だっていうのが本人談。

 乗ってた車が事故に遭ったと思う(・・・)って言う事なんだよね。

 いきなり衝撃があってすごく痛かったから、その時に死んだんだってケロリと言われて、逆に私が驚いた。

 私の知る限りニュースでそんな事故の話はなかったから、私が死んだ後に起きたのか私が見逃してたのかな?

 とにかく、転生したリリス様は前世で出来なかったことをしまくった。

 まず、女は男を立てて家で大人しく家事や育児をすればいいと言う考えをへし折ったそうだ。

 加えて貴族と平民の間にあった少子化についても対策をとった。

 血統重視の貴族はともかく、働き手である平民の方は比較的楽だというのがリリス様のお言葉。

 言い方は悪いけど、とリリス様が行った政策は「産みの母」と「育てる機関」を分ける事だった。

 もちろん自分の子供をそのまま育てる場合でも十分に補償金を出しているみたいだけれども、純粋に子供を産む(・・・・・)ことに報酬を支払っているんだって。

 そして、生まれて実の親に育てられない子供は専門の施設で育てられることになるの。

 ここで、乳母と世話係の女性の仕事が出来る。

 リリス様曰く、育児をしている専業主婦の年収は前世で単純計算しても最低500万は行くそうで、養ってやっている(・・・・・)と豪語している夫の年収を実際は超える計算になることが多いらしい。

 ベビーシッターさんはわからないけど、確かにお手伝いさんを雇うとそれなりの金額になるから、専業主婦(・・・・)として家事をしていればそれなりの時給になるよね。

 養ってやっている(・・・・・)なんて、お手伝いさんを雇用して、家事も育児もしなくていい(・・・・・・)環境にいる奥さんに対してだけ言ってもいいというのがリリス様の考えらしい。

 だからこその乳母制度(・・・・)家事代行制度(・・・・・・)なんだって。

 家事代行制度に関しては男女問わないらしいけど、乳母制度に関しては女性に限っている。

 これは性差別じゃなくて区別なんだって。

 リリス様曰く「男でも母乳が出るようになったら雇いますわ」だそうだ。

 すごいところは、そこまで制度を作っておきながら家庭(・・)を蔑ろにしないところ。

 自分の子供を自分の手で育てる家庭にも、乳母制度や家事代行制度を使わない家庭にも、ちゃんと主婦としてのお給金が入るようにしているんだよね。

 もちろん厳しい監査はあるみたいだけど、北部はリリス様の制度のおかげで平民の人口は緩やかに増えて行ってるんだって。

 今はまだ子供だけど、あと十年もすれば立派な働き手が順調に増える計算らしい。

 増えすぎた人口はどうするのかと聞いたら、十数年に一度の割合で流行り病の被害が大きくなって大勢の平民が亡くなるから、増えすぎる事はあまり考えていないといわれ、先ほどの話し合いに戻る。

 リリス様も感染症予防の為に手洗いやうがいをするように教育(・・)しているけど、それでも平民には毎年少なからず流行り病で死者が出る。

 そこに十数年に一度の大流行で被害は甚大なんだそうだ。

 貴族にそこまで被害が出ないのは、高額な魔法薬を購入したり治癒魔法を受ける事が出来て早期治療が出来るからだって。


「だいたい、毎年死者が出ているのに加えて十数年に一度の割合で大流行って、どんな流行り病なんですか」

「わかりませんのよ」

<黒死病やインフルエンザも疑ったのですが、それでもありませんでしたわ>

<ほかにも天然痘とか色々あるじゃないですか>

<もちろん可能性を思いつく限り調べましたわ。死体の解剖もしましたのよ>

<症状が同じなら同じ病気ですよね?>

<そうだと思いますわ>

<なんかこう、共通点とかないんですか?>

<平民が多く発症して死亡する、ぐらいですわ>


 リリス様の言葉に二人でうーんと頭をひねる。

 栄養価の高い食べ物を食べたり環境を整えても病で死ぬ。

 しかも全員が同じ症状。

 平民に多いとはいえ、貴族にも多少の被害は出るし死者も時には発生する。

 特殊な病や前世でよくあった流行病でないならなんだろう?


「やっぱり水じゃないですか?」

「同じ水を使った平民や貴族で無事な人がいますのよ。それに先ほども言いましたけど、水質改善は簡単に出来ませんわ」

「じゃあ食べ物?」

「それは否定できませんけれども、それですと北部と南部(・・・・・)でこの病で亡くなっているかたの割合がほぼ同じなのが納得できませんわ」


 その言葉に、確かに栄養価だけで言うなら明らかに優れている北部と、生きるのにギリギリだった南部が同じ割合で流行り病の死亡者が出るのはおかしいと理解する。

 でも、じゃあなにが原因なのよ。


「それにこの流行り病は我が国のものだけではありませんわよ」


 その言葉に、私とリリス様の話を聞いていただけだった他国の留学生の人たちが頷いた。

 原因不明の流行り病に悩まされているのはどこの国も同じらしい。

 外交を兼ねた次代を担う若者による意見交換会。

 明け透けに言えば、発展した北部の内情を探る会。

 どこの国も人口が緩やかに減少傾向にあるらしく、首脳陣は頭を抱えているんだって。

 リリス様の考えた制度は平民(・・)には魅力的だけど、血統重視の貴族にはあまり評判は良くないというか、受け入れられていない。

 そこは考えがあると言うのがリリス様。

 なんでも、下の土台からしっかり作らないといずれ崩れるらしいので、今はその土台作りなんだって。

 今はなんとなくなあなあにされている愛人とか側室制度をガッチガチにして、養子縁組の制度もしっかりさせるって目を輝かせたリリス様は、執政者向きだよ、うん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前世では研究者で政治にも口を出せる有識者で更に行動力に溢れ、それでいて思慮深さも備えているとはとんでもない人ですね。 リリスの知識とライラの人脈が合わさればすごいことができそう。 リリスは…
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