穴の開いた豪華客船4 ジルド視点
「シオンの頼みは聞いてやりたいが、元老院の者共のせいで今は自由がきかないのだ」
「そんなぁ、ジルド様が平民になっちゃうなんて可哀想ですぅ」
俺の為に国王陛下を説得しようとしてくれるシオン様に感動していると、何を思ったのかメロナが急に立ち上がった。
「メロナ?」
「無礼を承知で発言をお許しください国王陛下、シオン王女殿下」
そう言って深々と頭を下げる姿は何度も見ている貴族の淑女らしい立派なものだ。
流石はおれの乳母だと思って感心していると、国王陛下が何かを思い出すようにメロナを見る。
「メロナ? メロナ=バドアーク伯爵令嬢か?」
「いえち「はい、覚えていてくださり光栄でございます国王陛下」
は? メロナの家名はシャルノートだろう。
「結婚した夫には理不尽に離縁を言い渡され、きっと実家のバドアーク伯爵家にも連絡がいっております」
あ、ああそうか。
結婚して家名が変わっていたのか。
「我が家はしがない伯爵家です。ロマリス公爵家に睨まれない為には私のような年増女は捨てられてしまいます」
メロナは涙を浮かべる。
「私を憐れに思ってくださるのなら、どうか国王陛下の傍で仕えさせてはいただけないでしょうか」
「は? メロナ、お前は何を言っているんだ?」
「ジルド様、私はきっと家に帰っても門前払い、紹介状の無い年増女を雇ってくれる家もないでしょう。このままではみじめに路地裏で死に行くしかありません」
「そんなっ」
「けれど、私は幸運にも今こうして国王陛下にお会いする事が出来ました。これはきっとシロッカ様のお導きです」
シロッカ様って、シオン様の母君の名前だよな?
どうしてここでその名前が?
「そうか、そう、だったな。学園や学院でもお前はシロッカの良き相談相手だったと聞いている。孤立していたシロッカに良く話しかけて優しくしてくれていたと」
「ええ、さようでございます」
そうなのか? そういえば、国王陛下とメロナは同い年だったか?
なら、学院なんかで顔を合わせていてもおかしくはないのかもしれない。
「ロマリス公爵家ではジルド様の乳母として、その後は上級メイドとして仕えておりました。国王陛下のお傍に仕えるのに問題はないと自負しております」
「それは……」
「それにっ昔の思い出話をして陛下と時間を過ごすことが出来れば、給金など必要ございません」
「思い出話……そう、か……そうだな。今ではシロッカの話を出来る者はもういないと思っていたが、そうか、お前がいるのだな」
思い出話をするだけで給金がいらないなんて、メロナはなんて謙虚なんだ。
「国王陛下、メロナは優秀なメイドです! きっとお役に立ちますよ!」
「そうか……そのぐらいなら、この太陽の宮に不当に追い出された淑女を保護するぐらいなら問題はないだろう」
「ではっ!」
「ああ、メロナをこの太陽の宮に迎え入れよう」
「ありがとうございます国王陛下! 誠心誠意、全身全霊をかけて国王陛下にお仕えいたします」
「うむ」
よかった、メロナの方はこれで問題はないな。
あとはおれの養子先か。
国王陛下が思うように動けないとなると少し時間がかかりそうだが、その間平民として暮らすなんて冗談じゃないぞ。
「養子先が決まるまで、おれもここに住まわせてください」
「は?」
おれの言葉に国王陛下が変な声を出した。
「あぁ、それって素敵ですぅ。ジルド様に会うのにぃ面倒な手続きとかいらなくなりますしぃ、シオンも学院に通えなくて暇ですからぁジルド様に相手になってもらえると嬉しいですぅ」
「む、そうか……昔はシロッカも居たのだし、一人増えるぐらいはかまわないか」
国王陛下の言葉にシオン様が嬉しそうに目を輝かせ、おれに抱き着いてくる。
「ジルド様ぁ、シオン嬉しいですぅ。お姉様よりシオンを選んでくれるだけじゃなくてぇ、シオンの傍に居てくれるんですねぇ」
「当たり前じゃないですか、おれはシオン様の永遠の味方ですよ」
「うふふ、嬉しいですぅ」
シオン様が女王に就任するまでまだ時間はあるのだから、それまでの間ぐらいゆっくりとしてもかまわないだろう。
そういえば他の奴も謹慎されていたり廃嫡と言っていたか?
つまりシオン様の傍に居るのは名実ともにおれだけ。
いつものようにおれが優先されるとはいえ、他の奴に譲る必要もないという事か。
女王就任までの間に懐妊させてしまうのは流石にまずいが、懐妊さえしなければ問題はない。
おれは順風満帆な人生になる事を確信してほくそ笑んだ。
その日の夕食、おれは食卓に並んだ料理に思わず眉を寄せる。
今まで何度も太陽の宮で食事をしてきたが、明らかに料理のランクが落ちている。
味が悪いわけではないが、全体的に華美さが足りない。
「シオン様、その、料理が今までの物と違うようですけど……」
「そうなんですよぉ、なんかぁいきなりこんな料理になったんですぅ。割り振られた食費がどうのとか言ってましたけどぉ、怠慢ですよねぇ」
「食費を気にするなんて、平民や貧乏貴族じゃあるまいし」
「シオンもそう思いますぅ。だからぁ、生意気な料理長を首にしたんですよぉ、でもぉ料理は元に戻らないんですよぉひどいですよねぇ」
「国の至宝であるシオン様にこんなものを食べさせるなんて、料理人は何を考えているんだ」
忌々しそうに言うとシオン様は悲しそうにうつむく。
「もしかしてぇ、これもお姉様のせいかもしれないですぅ。オジさんたちはぁお姉様に感謝しろって言ってましたからぁ」
「感謝!? この扱いに感謝ですか!?」
「ぐすん、皆はきっとぉお姉様に騙されてるんですぅ。シオンはぁそんな人を救ってあげたいんですぅ」
「なんと清いお心なのでしょう! 大丈夫ですよ、悪女リリスはシオン様が即位なさったらすぐに排除しましょう!」
「だめですよぉ。お姉様にはぁいっぱい反省してもらってぇ、シオンの傍でぇお手伝いしてもらわないとぉ」
「むっ、確かにそうおっしゃってましたね。まったく、あの悪女はシオン様に感謝するどころか最後の悪足掻きをして、本当に醜いな」
不本意ながら並んだ食事に手を付けて、シオン様と楽しくおしゃべりをしながら食事を終えると、用意された客室に向かう。
そこでも違和感を覚えた。
何度も使っているこの部屋は、こんなにも質素だったか?
前はもっと装飾品もあって煌びやかだったはずだ。
部屋を間違えたのかとも一瞬思ったが、数えきれないぐらい訪れているこの部屋を間違えるわけがない。
模様替えでもする予定があるのか?
その可能性もあり得ると思いつく。
国王陛下には悪いが、シオン様が即位したらこの太陽の宮はシオン様が主になる。
隠居する国王陛下は別の宮に引っ越すのが慣例だ。
それに合わせて王配になるおれに相応しい部屋にするために模様替えをする可能性は十分にある。
今回おれがここに来たのは予定外だったのだし、準備が整っていないのも仕方がないのかもしれないな。
それなら仕方がないと使用人を呼びつけて夜の支度を終えると、いつも通りシオン様の部屋に向かった。
ざまぁしてる気がしない(´;ω;`)
でも、最終的にはちゃんと物理的にもざまぁされますのでご安心ください!
穴の開いた豪華客船は8まで続きます。
うち7はシオンの独白なので正直読むのがしんどい……(当社比)
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。




