穴の開いた豪華客船3 ジルド視点
倒れ込んで来た存在を咄嗟に避けると、床に転がったソレはおれの乳母のメロナだった。
「メロナ!? どうして!」
「うぅ、ジルド様……」
おれの声に反応はしたものの、意識はまだはっきりしていないのか床に転がったまま起き上がらないメロナを慌てて起こす。
「なにがあった! どうしてここに?」
「う……ジルド様を逃がした後、私は夫につかまって、旦那様に尋問をされて」
「なんだって!?」
「それで、夫にはその場で離縁を告げられて」
「そんなバカな!」
「ショックのあまり気を失って、気が付いたらここに……手足がしびれて体が思うように動かないのです」
「ああっなんてことだ!」
メロナはいつだっておれの味方で、理不尽にも家に監禁されていたおれを救い出してくれたというのに、こんな仕打ちを受けるなんて!
くそっ、あんまりじゃないか!
メロナは今までこのおれに仕えてくれた優秀な乳母なんだぞ。
夫である執事が父上に重用されていたのは、メロナの功績があってこそじゃないか。
それを離縁だなんて、愚かにもほどがある!
あんな家に俺の大切な乳母を置いておくことなんて出来ない!
「メロナ、今からシオン様と国王陛下の所に行って父上たちの所業を訴えるぞ!」
「国王陛下に?」
おれの言葉にメロナの目に力が宿る。
メロナも今回の不当な扱いを訴えたくて仕方がないんだろう。
いままで誠心誠意仕えてきたのにこんな仕打ちを受けたならそれも仕方がない事だな。
「ああ、未来の王配の乳母をこんな風に扱ったんだ、父上たちには罰が与えられるだろう」
「国王陛下が私のために」
まだ頭が思うように動かないのか、うっとりとしたように呟いたメロナを立たせると、おれは誰もいない廊下を歩いて太陽の宮に向かった。
太陽の宮に到着するといつも以上に増えている門番がいたが、俺の姿を見てすっと道を開ける。
ふん、そうだよな。
たかが門番が女王の王配になる俺に道を開けないはずがない。
厳重な警備はシオン様が女王に確定したから、最後のあがきでリリスが何かしないように気を付けているんだろう。
慣れ親しんだ太陽の宮の廊下を歩いて行くと、見慣れない護衛騎士がいるので、やはり警備を厳重にしたのだとわかる。
いつも通り勝手に応接室にいくと、シオン様に来訪したことを告げるように命令して、お茶を用意させて待つことにした。
慣れない場所に来ているからか、それともたかが乳母の身分で太陽の宮に足を踏み入れたことに委縮しているのか、メロナはしきりに髪を気にしたり服をきにしたりと忙しない。
「メロナ、緊張するのはわかるが、シオン様も国王陛下も気さくでお優しい方だからそんなに気を張らなくていい」
「国王陛下がお優しく素晴らしい方なのは存じております。で、ですがやはり少しでもよい印象を持ってもらった方がいいですから」
メロナの言葉におれは思わず感動してしまう。
俺の為に少しでも国王陛下に好印象を抱いてもらおうとするなんて、本当に気の利く乳母だな。
緊張しっぱなしなメロナと、いつも通りリラックスした体勢のまましばらく待っていると、ノックも無しにドアが開く。
「シオン様!」
そこには顔を青褪めさせたシオン様と国王陛下が居て、後ろに居る護衛騎士に背中を押されるように応接室に入ってきた。
咄嗟に立ち上がってふらついたシオン様を抱き留めると、いつものように自分の隣にエスコートして座ってもらう。
「ジルド様ぁ、皆がひどいんですよぉ。シオンが魔王の姫に不敬を働いたとかぁ、破廉恥な事をしたとかいってぇ、太陽の宮から絶対に出ないようにって言うんですぅ」
「そんな横暴な!」
「それだけじゃないんですぅ。お父様もぉシオンと同じようにぃ太陽の宮に閉じ込められちゃってぇ国王の仕事もしないでいいって言われたんですよぉ」
「ありえません!」
「本当ですぅ、意地悪そうなオジさんたちがぁいっぱいきてぇ、お父様に色々サインさせた後にぃ、後は引き受けるからぁ次の指示があるまでぇ太陽の宮で大人しくしろっていってましたぁ」
「そんな……本当なんですか、国王陛下」
「ああ、本当だ。元老院の屑どもがこのわたしから仕事を取り上げていきおった」
「なんてことだ……。すぐにその者達に処罰を与えましょう! この国の国王陛下に対してあまりにも不敬が過ぎます! 陛下が今まで寛大な心で見逃していたからつけあがったに決まっています」
「まったくだな。しかし、サインさせられた書類にわたしが政治的活動を行えないという誓約書があった。公務も出来ない為王族としての最低限の生活保障はされるが、今までのような暮らしは出来なくなる」
「ひどいですぅ、シオンもぉ学院に行けないだけじゃなくてぇ、お友達を呼ぶことも禁止されたんですよぉ」
「なっ、非常識にもほどがある!」
「お友達もぉなんか家の人にぃ謹慎とかぁ廃嫡ぅ? されてるみたいでぇ会いに来てくれないんですぅ」
「他の奴も!?」
「シオンもぉ、なんか慰謝料? とかでぇ、皆からもらったドレスとかぁ宝石とかぁ取り上げられちゃったんですよぉ」
「そんなバカな!」
「もうシオンには必要ないからとかぁ勝手な事言ってぇ持っていかれたんですぅ。シオンの衣裳部屋にはぁ粗末なドレスしか残ってないんですよぉ」
そう言ってシオン様がポロポロと泣き出してしまう。
なんてことだ、これもリリスの仕業に違いない。
ああ、だからシオン様が今着ているドレスはいつもよりも飾り気のないものなのか。
どんなものを着てもシオン様は美しいが、やはりシオン様の美しさを引き出すには誰よりも豪華なドレスが似合うと言うのに、それを取り上げるなんて、まさに悪女としか言いようがないな。
「ジルド様ぁ、シオンはちゃんとしたドレスが欲しいですぅ」
「もちろんすぐに……」
贈らせていただきますと言いかけて、廃嫡されて自分の自由になるお金がない事を思い出す。
「実は、その……おれも父上に廃嫡されてしまって」
「え?」
「それで、シオン様と国王陛下にどこかの家に養子にしてもらえるよう口利きをして欲しいんです」
そう言って二人を見ると、シオン様は驚いたような顔をした後に眉間にしわを寄せて目を潤ませた。
「そんなぁ、もしかしてぇそれもお姉様の嫌がらせですかぁ? シオンがぁジルド様と仲がいいからぁ、婚約破棄の腹いせに廃嫡させないとぉ家をつぶすとか言ったんですかぁ?」
「おれもそうじゃないかって思ってます。でも、父上はもう俺を廃嫡したって言うし。とにかくこのままじゃ高等学院に通う事も出来ません」
「そんなぁ、それじゃ困りますぅ。お父様ぁ、ジルド様を養子にしてくれる家を見つけてくださいよぉ」
すぐさまそう言ってくれるシオン様の優しさに感動しつつ国王陛下に視線を移すと、そこには難しい顔をした国王陛下がいた。
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