栄えある舞台()3
※<>内の言葉は日本語です。
「おおそうだ! シオンが女王になれば夫は何人でも持てる! ジルドよ、何も案ずることは無いぞ!」
「そういえばそうですねぇ、うふふ、ジルド様よかったですねぇ」
「シオンもジルドの婚約については心配しておった。しかし、無事にお前の方から婚約破棄を宣言し、あの愚か者に瑕疵があったとなれば問題なくシオンの夫の一人として迎え入れることが出来る」
「よかったですぅ。シオンはぁジルド様がただの婚約解消だとぉ納得しないからぁ、お父様にぃジルド様から言い出した婚約破棄以外はぁ認めないで欲しいってお願いしたんですよぉ」
ああ、やっぱり婚約解消が進んでなかったのってペオニアシ国王が書類を止めてたのか。
シオン様としては婚約破棄されたリリス様を笑いたいってところかなぁ。
そのせいでジルド様は間違いなく廃嫡、いや、婚約解消した時点で廃嫡だけど、とにかく高等学院も退学することになるし、城に来ることも出来ない平民になるんだよねぇ。
魔王の娘に不敬を働いた元公爵子息を養子にする家とか、よっぽど……いや、シオン様が自分のシンパに働きかければワンチャン?
ジルド様以外は私の存在を知らなかった雰囲気だけで直接は何も言っていないから、謹慎の後はどっかに養子の希望もあるかもしれないけど、ジルド様を迎え入れるメリットって、シオン様が女王になった時に限るんだよなぁ。
「シオン様、おれの為にそこまでしてくれるなんて! そのお優しい心はまさしく民を導く女王に相応しい物です! 魔女であるリリスには到底真似できません」
「そんなぁ、シオンは当然の事をしただけですぅ」
「もう婚約者ではないので名前を呼び捨てにするなどと言う事はしないでいただきたいですわね。このような事貴族マナーの基本ですのに、まさかそのような事も出来ないのでしょうか?」
「なっ! おまっぐはっ」
学習能力ないな。
「きゃぁっお姉様ひどいですぅ、どうしてジルド様を苦しめるんですかぁ。そんなにシオンにジルド様を取られたのが悔しいんですかぁ? でもぉ、お姉様みたいな意地悪な人はぁ、捨てられて当然ですぅ」
「まったくだ、お前のような高慢な女はそもそも王家に相応しくない。くたばったあの女が余計な事をしなければ今ごろはシオンが王太子として君臨していたのに忌々しい」
「お父様ぁ、シオンはぁ女王なんて荷が重いですけどぉ、皆に協力してもらって頑張りますぅ」
「うむ、やはりシオンは素晴らしいな。多くの者に慕われる姿はまさしく女王そのもの。そこの悪女にはできまい」
そう言って高笑いするペオニアシ国王と、恥ずかしそうにしながらも全く否定しないシオン様。
親子だわぁ。
「婚約者に見向きもされないお姉様はぁ、これからぁ一人寂しく暮らすかもしれないですけどぉシオンはそれってぇ可哀想だと思うんですぅ」
「なんと! こんな悪女に慈悲の心を向けると言うのか!」
「だってぇどんなにひどいお姉様でもぉ家族ですからぁ、幸せはお裾分けしないと可哀想じゃないですかぁ」
「やはりシオンは天使だな」
「シオンが女王になったらぁお姉様にはシオンのお手伝いをしてもらおうと思うんですぅ。そうすればぁ、シオンが皆に愛されてる女王だってわかってぇ、お姉様も幸せですよぉ。あ、そうだぁ、結婚できないのは可愛そうですからぁ、ほら、あの、えーっと、とにかくシオンに無謀にもぉ婚約の申し込みにきたぁ、あの商人と結婚させてあげるのはどうですかぁ?」
「おお、あの身の程知らずのヒヒ爺か。ふん、悪女にはふさわしいかもしれんな。シオンの役に立てるのだから光栄に思うべきだな」
ヒヒ爺っていうってことはご年配よね。
しかも話の内容だと貴族でも王族でもない商人。
政略結婚にしてももっとましな相手がいるだろうに、光栄に思えとか馬鹿すぎて笑えるわ。
<ちなみに心当たりはありますか?>
<シオンが贔屓にしている商人だと思いますわ。最近国王陛下もシオンも個人予算が随分心許無くなって支払いが厳しくなっていると聞きますもの>
<金がないなら体で払えと>
<婚約の申し込みな分まだましですわね>
王族が借金奴隷になるとか、国の恥だもんなぁ。
その前に処分されるだろうし、存在したという記録そのものを抹消されるだろうけど。
しっかし、三文芝居を続けている三人はこのお茶会に参加しているメンバーを理解してないんだろうな。
国内でも有力な貴族の令嬢と、他国の要人。
挙句の果てに魔王の娘という私がいるお茶会で、名乗りもせずにいきなり三文芝居を始めたからな。
余興だったよごっめーん()じゃすまないんだよねぇ。
「そういえばリリス様、あちらの二人はどなたですか?」
「あら、そういえばライラ様の前で発言する許可も貰っていませんが、そもそも残りの二人は名乗ってすらいませんでしたわね」
分かっているだろうに驚いたように言うリリス様に役者だなぁと感心してしまう。
でもそれに乗っちゃう、面白いから。
「まさか二回も続けてお茶会を台無しにしようとする人がいるなんて思いませんでした(訳:お茶会に乱入するとか常識なさ過ぎですね)」
「国王陛下も行動力があって困ってしまいますわ(訳:止めるべき大人が率先して乗り込んでいる時点で駄目ですわね)」
「サプライズなお芝居とはいえ、練習不足……いえ、台本が問題でしょうか?(訳:つまらない見世物も飽きましたね)」
「ふふ、まさか主催者のわたくしも知らないサプライズが用意されているとは思いませんでしたわ(訳:迷惑以外の何物でもないので早く立ち去って欲しいですわね)」
「シオン様は以前紹介してもらいましたけど、残りの二人は紹介されてないですね(訳:名乗りもしないでこの私の前で勝手に話し出すとか、自分の立場を理解してない人が国王してて大丈夫ですか?)」
「お芝居に夢中で周囲が見えていないのかもしれませんわね(訳:夢の中の住人に何を言っても無駄ですわ)」
「サプライズにしても、口上があるとよかったんですけどね(訳:そもそも発言の許可を与えた覚えはありませんけどね)」
「お芝居が終わったらちゃんと態度を改めると思いますけれども、いかんせん役者が問題ですわね(訳:普通は土下座して泣きながら許しを請うべきですわね)」
「まさか自己満足してそのまま幕を下ろすなんてありませんよね?(訳:このまま満足して帰ったら改めて抗議文送られますよ)」
「そこまで自分勝手だとは思いたくないですわね、仮にも血が繋がった存在ですもの(訳:アレと血が繋がっているとか恥以外のなにものでもありませんわ)」
「そういえば、リリス様はあちらの役者の方はご存じですか?(訳:面倒だからそろそろ紹介してもらえますか?)」
「ええ、国内では自分の事を知らない人はいないと思っている方々ですわ(訳:あんなあほを紹介するとか面倒ですわ)」
「そうなんですか? 魔国出身の私は知らない人ですね(訳:この場で自分が一番偉いと勘違いしてる馬鹿に飽きました)」
「でもあちらはまだお芝居に夢中のようですわ(訳:紹介して欲しいと言う素振りもありませんわね)」
「お芝居の余興はもうお腹いっぱいですね(訳:いい加減現実に帰ってきて欲しいんですけど?)」
「それには賛成いたしますわ(訳:はあ、あの人たちに関わるのが面倒ですわ)」
リリス様はそう言ってチラっとまだ三文芝居を続けている三人を見て、パンと手にした扇子をテーブルに叩きつけた。
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