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栄えある舞台()

※<>内の言葉は日本語です。


 お茶会とは、ただお茶を飲んでお菓子を食べ、キャッキャウフフと笑っていればいい物ではない。

 服装一つ、仕草一つ、言葉選び一つが試され比べられ、そして評価される。

 ましてやほぼ初対面で互いの動向を窺うお茶会において、些細なミスはそれこそ自分の背後にある存在を含めて噂の的に繋がる。


<二度目の乱入……>

<しかもお父様とジルド様付きですわね>

<謹慎処分中ですよね、三人とも>

<そうですわね。ジルド様がどうやって城に来たかは後で詳しく聞きますけれども、あとの二人は城の中だから外に出ていないと言い張りそうですわ>


 ありえる、と思わず目の前で三文芝居が続けられるのを見てため息を吐き出しそうになってしまう。

 今日はリリス様が留学生や他国から戻ってきた高等学院の令嬢を招いてのお茶会で、私を含め他国の要人がいる以上失敗は許されないお茶会、だった。

 そう、だった(過去形)。

 腹の探り合いという和やかな会話をしていたところに、突然怒鳴り声が聞こえたかと思うと、護衛騎士に怒鳴り散らしながらペオニアシ国王とシオン様、そしてジルド様が乱入してきた。

 護衛騎士は何とか止めようとしていたけれども、ペオニアシ国王が連れて来た護衛騎士に邪魔をされたり、国王の邪魔をする者は一族もろとも処刑するなんて言われているうちにここまでの侵入を許してしまったみたい。

 この件についてはリリス様が<後でお仕置きですわ>と日本語で言ったので結構怒っていそう。

 でもリリス様個人で雇っている護衛騎士や使用人、影以外は国の所属だし、一応国王に強く出られないのは仕方がないのかもしれないよ?


「お姉様っどうしてこんなひどいことが出来るんですかぁ! ジルド様がシオンを好きだからってぇ、嫉妬なんてひどいですぅ」

「醜い嫉妬でシオン様を悲しませるなんて! お前はどこまで醜いんだ!」

「お姉様はぁ、自分が継承権争いで有利になるようにぃ、シオンを学校に行かせないようにしたりぃ、お友達をいじめるんですねぇ、あんまりですぅ」

「お前のせいでおれは廃嫡になるかもしれないんだぞ!」


<え、まだなってないんですか?>

<ジルド様がライラ様に無礼を働きましたので、婿入りする予定だった姉君の婚約者が婚約白紙を求めたそうですわ。妹君の婚約者も同様ですわね>

<巻き込まれ事故を避けたんですね。跡継ぎ問題に困ったのはわかりますけど、問題が大きくなる前に廃嫡しちゃった方がいいと思いますよ?>

<ええ、わたくしもそう思いますわ。実際あちらからジルド様の籍があるうちに穏便(・・)婚約解消(・・・・)して欲しいと言われておりますもの>


 はーん? 婚約破棄なら慰謝料その他もろもろやらないといけないけど、婚約解消ならそれも省けるから、それ狙いか。

 婚約期間中に相手が廃嫡して婚約がなくなったとなれば、そういう相手を婚約者として選んだ側の問題が追及される。

 ましてや今回はジルド様のあからさまな浮気と私への不敬。

 穏便に婚約解消(・・・・・・・)出来たとしても無傷じゃすまないよね。

 すでに娘の婚約者に逃げられかけているわけだし。


<不思議な事にあちらが勝手に(・・・)わたくしの陣営にはライラ様が付いていると思い込んで(・・・・・)いまして、わたくしの陣営につけば穏便に婚約解消をしたことも踏まえて、ダメージを最小限に出来ると計算しているようですわ>

<ああ、魔王の娘に不敬を働いても、私と懇意にしていると思っているリリス様に協力することで心証をよくしようという計算ですか>

<そこは貴族らしい計算というところですわね>


 でも、それだったらなおの事さっさとジルド様とリリス様の婚約を無かった事にした方がいいんじゃないかな?

 ……まさかとは思うけど、いや、まさかいくらペオニアシ国王でもそこまで馬鹿……かもしれない。


「シオンが気に入っているジルドが不憫だとは思わないのか! お前は母親に似てなんて冷酷なんだ! 可愛い天使のようなシオンを少しは見習ったらどうなんだ!」

「お父様ぁ、そんな事言ったらお姉様が可哀想ですぅ。愛されて育ってこなかったお姉様はぁ性格が悪くなっちゃっただけなんですぅ、お姉様は悪くありませんよぉ」

「なんと! こんな非道な姉を庇うなどシオンはなんて慈悲深いんだ!」

「シオンはぁお姉様とも仲良くしたいんですぅ、でもぉ、お姉様はシオンに意地悪ばっかりでぇちっとも仲良くしてくれないんですよぉ」

「ああ、なんて可哀想なシオン!」

「ジルド様だってぇシオンと仲がいいからってぇ、お姉様がぁおうちの人に悪口を言ったに決まってますぅ。シオンはぁそんなジルド様を助けたくてぇ協力してもらってぇジルド様に来てもらったんですよぉ」

「シオン様はなんてお優しい! まさに牢獄としか言えないあの家からおれを救ってくれた女神です!」


 公爵家で謹慎しているだけだよね?

 本物の牢獄を知らないのかしら?

 そう思って淑女教育の一環で見学させられた(・・・・・)魔国の牢獄を思い出して遠い目をしてしまう。

 あれは死んだほうがましだと思えたわ、うん。

 実際、ジルド様はやつれるだとか目の下に隈があるという事もない。

 健康そのものっていう感じなので、食生活や睡眠で苦労していたという事もないよね。

 そもそも謹慎して一週間もたってないけど。


<協力した人って誰でしょう? シオン様の取り巻きは同じく謹慎処分中ですよね?>

<頭の痛い話ですが予想は出来ていますわ>

<あら>

<ジルド様の乳母が国王派ですわ。具体的に言うのであれば一目ぼれをして婚約者候補になったのはいいけれどもわたくしの母には勝てず、せめて側妃にと思っていたらシオンの母君にその座を取られたと聞きますわ>

<つまり、ペオニアシ国王に未練たらたらで気にかけてもらうために犯罪に手を染めると>

<恋は盲目ですわね>

<乳母って事は旦那さんもいますよね?>

<そうですわね>

<離縁の手続きが始まりそうですね>

<彼女の夫はロマリス公爵家の執事の一人ですので、当たり前ですが離縁ですわね>


 廃嫡予定の子息を助けるために当主に逆らった妻を抱え落ちはしないってわけか。

 そもそも、その結婚自体が政略で愛情があるかどうかも微妙だしな。

 未だにペオニアシ国王の気を引きたいと思って行動する時点でアウトだよ。


「ああ、国王陛下! 今までは亡き正妃様のお心を汲んで耐えてきましたが、おれはもう我慢できません! 女神であるシオン様に対する非道な行いをする悪女、いいや、魔女リリスとの婚約破棄を認めてください!」

「うむ、亡き王妃のわがまま(・・・・)のせいで将来有望なジルドを失ってしまったら国の損失だ。国の姫であるシオンが気に入っているそなたの願いを聞き届けるのは国王として当たり前のことだな」


 胸を張って言うペオニアシ国王に私達は冷めた視線を向ける。

 リリス様がスっと手を差し出すと、お付きのメイドが当然のように書類とペンを差し出した。

 わぁ、準備万端。

 しかもなんでかロマリス公爵家当主のサイン入り?


<ないとは思いますが念のためジルド様が婚約破棄を宣言した時用にと、穏便に婚約解消を進める条件に書いていただきましたの>

<謹慎させてるから婚約破棄なんて言い出すはずがないと思ってたわけですね>

<乳母が脱走の手助けをするとは思わなかったのでしょうし、仕方がありませんわね>


 リリス様とのんびりとそんな会話をして書類の内容をさりげなく確認する。

 慰謝料を監視不行き届きなロマリス公爵家に一括(・・)要求するのね。

 この金額だと公爵家でも領地を売らないと厳しいんじゃ……ってそれが目的か!

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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[一言] さっさと放逐していれば傷は浅く済んだでしょうに。 判断の遅れ、本人が婚約破棄を言い出しただけでなく、公爵家に席がある内にさらに魔王の娘への不敬を重ねるというダメージがマシマシになる結果を招い…
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