タタトル茶の効果
※<>の中の言葉は日本語です。
第一貴族科のクラスに行くと、なぜか当然のように前の席が空けられている。
ふむ、空いている席数と位置的に私とリリス様の分よね。
そんでもって、席の付近に柔和な微笑みを浮かべて佇んでいる攻略対象の一人。
「リリス様、そういえばお名前は幾人か聞いてますけど、紹介はまだしてもらってませんでしたね。あちらの方を含めてご紹介していただいても?」
「もちろんですわ」
リリス様はそう言って空いている席に到着する前に、入学式の時から傍に居る数人を紹介してくれる。
攻略対象ではないけど、私達を除けば成績上位者だし、ちゃんとわきまえて行動できそうだし、なによりもリリス様に忠誠を誓っていそうなのがわかる。
特に女子な!
「それで、あちらに居るのが……ジンジャー様、こちらにいらしてくださいませ」
そう言ってリリス様が声をかけると、柔和な笑みを浮かべたまま近づいてくる。
当然のようにリリス様の隣に立つと私に対して頭を下げた。
「こちらはジンジャー=マルリオット様、わたくしの父方の従兄弟ですわ」
「初めまして、ご存じだとは思いますがライラ=ブランシュアです」
「お初にお目にかかります。先日まで母の祖国に留学していたのですが、高等学院に入学するにあたり帰ってきた身でございます」
うん、知ってる。
王弟の長男で幼い頃から母親の祖国とこの国を行ったり来たりしていたけど、国交を深めるという意味で三年間の留学をして、高等学院の開始に合わせて帰ってきた。
ステータスは人間としてはトップクラスで高いけれども、戦闘ユニットとして使うよりは参謀としてバフ効果を期待して配置した方がいいキャラクター。
領地経営や外交でそのスキルが輝くタイプでもあるね。
しかし、リリス様との距離が近いな。
「ジンジャー様はわたくしの幼馴染ですのよ」
「そうなんですか」
いや、それにしても随分と親し気じゃない?
<もしかしなくても、本命ですか>
<元老院に王家優位を保ちつつ共存していくには最良の相手ですわ>
<恋愛感情は?>
<一応婚約者がいる身ですのでノーコメントですわね>
<なるほど>
恋愛感情はあるけど、それを表に出すとジルド側に攻撃材料を与えるってことね。
「よろしいですか?」
「どうなさいましたの、ジンジャー様」
「入学式の時から思っていたのですが、リリス様とライラ様が時折使用する言語はどこのものですか?」
あー、日本語だもんなぁ、どうしよう。
そう考えてリリス様と視線を合わせて頷く。
「秘密の暗号言葉ですわ」
「そうですね」
「いつの間にそんなに親しくなったんですか?」
「先日のお茶会で気が合いましたし、その前もお手紙のやりとりをしていました」
「そうなんですか」
嘘じゃないからいいでしょ。
日本語は転生者特有の特殊言語だとは思うけどね。
魔国の力を使って色々な言語を調べてみたけど、確かに日本に近い文化はあるけど日本語や漢字はなかった。
私の方もヴァンスたちを紹介してそれぞれ席に着くと、自然とリリス様の隣の席になる。
「それにしても、シオン様とそのお友達は想像以上ですね」
「情けない事ですわ。きっと父の影響を受けていますのね」
「ペオニアシ国王ってそんなに仕事をしないんですか?」
「元老院から回ってきた書類にサインだけはしています」
「内容の確認は?」
「していたら、少なくともライラ様に無礼を働くなとシオンに注意はしたと思いますわ」
「なるほど」
まじでサインしかしてないのか。
元老院の傀儡にされてそうだけど、調べた感じでは元老院のほとんどは亡き王妃派だから、ちゃんと政治を行っているみたいなんだよね。
<元老院とどのぐらい関わってます?>
<月に一度の定例会議には出席していますわ>
<ペオニアシ国王はもちろん……>
<参加しておりませんわね。一応参加要請は出していますわ。シオンにも>
<典型的な自業自得の自滅タイプですね>
<わたくしとしてはその方がやりやすいですわ。共通の敵がいた方がまとめやすいですもの>
<ですよねー>
教師が来る前にリリス様と日本語で状況を話していくと、ジンジャー様はすでに外交の一端を担っていて、リリス様陣営の中核に居るらしい。
王弟は国王になるつもりはないけれども、かといって現国王をよく思っているわけではないので、まともなリリス様のバックアップに力を注いでいるとのこと。
国の事を考えたらそうするしかないよね。
そもそも、ペオニアシ国王が真実の愛とかいうわけの分からないものと、国王の座を両方手に入れたくて亡き王妃と結婚したわけだし。
しかも白い結婚を続けるなら王太子の座も危ないってなってからやっと亡き王妃と閨を共にしたとも聞くんだよね。
その結果リリス様を懐妊して、その数か月後にシオン様を側妃が懐妊したわけだ。
亡き王妃は王女とはいえ一人子供を成したからその後の閨は断り続けたらしいけど、側妃は何度も閨を共にしてもシオン様以外妊娠しなかったみたい。
いや、正確には懐妊しても流れたらしい。
そこに陰謀がないとは言わないけど、そのせいで側妃亡きあとはシオン様に王位を継がせようと国王が躍起になったんだよね。
その結果がこの継承権争いなわけだ。
とはいえ、中等学園時代ですでに南北の領地の発展具合は差が開きまくり、攻略対象も有能な人はリリス様が確保済みなわけなんだよね。
うーん、一応継承権争いの期間は高等学院が終了するまでって公示されているけど、その前に決着が着きそうだわ。
オルクスには『フルフル』の期間はペオニアシ国に滞在していていいとは言われているけど、ここまで酷いと思っていなかったからな。
期間前に終了となると私のスクールライフの危機だわ。
うーん、高等学院の期間を全うする方向で説得を開始した方がいいかな。
なんだかんだ言ってオルクスは私を魔国から出すのに反対しているし、説得はちょっと面倒かも。
「そういえば、三日後がお茶会でしたね」
「はい、予告していた通りに女生徒の一部を集めてのものになりますわ」
「ジンジャー様はシオン様のお茶会に出席したんですよね? どうだったんですか?」
私がリリス様の隣に座っているジンジャー様に尋ねると、柔和な笑みを浮かべてはいるものの、困ったように眉を寄せてしまった。
「シオン様を悪く言うのはどうかと思いますが、姫としてもう少しマナーを学んだ方がいいと思いましたね」
「具体的には?」
「僕の趣味ではありませんでした」
わぁ、色々な含みを持った言葉だなぁ。
第一貴族科にいる高等学院から登場する攻略対象は三人、ジンジャー様とドルドア様、そして……。
「他の方も同意見ですか?」
「さあ? 僕達が交流する暇を与えずにひたすらご自分の不幸自慢をなさっていましたので」
「そうですか」
「リリス様が如何に悪辣非道かと訴えていましたが、信じた人は駄目でしょうね」
「シオン様への印象はどうですか?」
「甘やかされて育ってきたんだな、とは感じましたね」
「なるほど。……リリス様、どう思います?」
「効果がなかったか、それを使用しても上回る立ち居振る舞いだったのだと思いますわ」
うーん、確かにタタトル茶ってあんまり好感度は上がらないけど、第一印象が良くなるぐらいの効果はあるはずなんだよね。
その効果を打ち消すレベルで酷かったって事かな?
「ねえ、ジンジャー様」
「なにかな?」
「シオンのお茶会で出されたお茶は召し上がりまして?」
「あぁ、あの甘ったるいお茶か。僕は一口で無理だったよ。茶葉をケチったのか薄さを砂糖で誤魔化したような味だったね」
その言葉に私とリリス様は思わず顔を見合わせてしまった。
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