入学式当日6
面白そうに笑うシオン様にリリス様の背後に控えている人達の空気が鋭くなった。
「良かったですねリリス様。お友達や協力者に手伝ってもらっても、シオン様は文句がないみたいですよ」
「そうですわね。そもそも文句を言う方がどうかと思いますけれども、こんな大勢の前で堂々と宣言してくれて助かりますわ」
私とリリス様がきっぱりとそう言った事で、今後協力者に手を貸してもらっても文句を言えない状況を作り出した。
文句を言ったらそれこそ、「自分が負けそうだから難癖をつけた」と言うような物だよ?
シオン様とその取り巻きが理解できていると良いけどね。
自分達で評判を落とすんだったら、好きにすればいいんじゃないかな。
「ところで、シオン様」
「なんですかぁ?」
「先日もリリス様が私を紹介してくださいましたし、先ほどの新入生代表挨拶の際にも名前を呼ばれましたが、私の名前は覚えてもらえましたか?」
にっこりと微笑んで聞くと、シオン様は焦ったように視線を彷徨わせた。
「まさかとは思いますけど、大切な入学式の最中に他の事に気を取られて何も聞いていないということはないですよね?」
「当たり前じゃないですかぁ、シオンをバカにしてるんですかぁ? お姉様と同じであなたも意地悪ですねぇ」
「では、私の名前を答えてください」
「それは……、じ、ジルド様ぁ」
「……ら、ライラ様ですよシオン様」
「そ、そうですよぉ、ライラ様ですよねぇ。忘れるわけ無いじゃないですかぁ」
「フルネームでお願いします」
「え……」
シオン様は再びジルドを見るけれども、今度はジルドも焦ったように他の攻略対象者を見た。
この様子だと本気で知らないな? 魔王の娘って言ってんだから想像出来そうなものなのに、それもわかんないという事か。
それを受けてリリス様にちらっと視線を向けると、小さく頷かれた。
「まあ! まさかとは思いますけれども、本当にわかりませんの? 貴女が乱入してきた大切なお茶会でしっかりライラ様をご紹介させていただいたのに忘れるなんて! シオン、貴女は魔国にどこまで不敬を働けば気がすみますの?」
「な、なんでそうなるんですかぁ? そうやってシオンを陥れようとしてるんですねぇ、ひどいですぅ」
「そ、そうだぞリリス! シオン様に言いがかりをつけるな!」
「ジルド様だって同じですわ。魔国の姫君であるライラ様のお名前が分からないなんて、絶対に必要事項として周知された伝達事項を無視しているという事ですわよ!」
「なっ……そ、それはきっと家の者がおれに伝え忘れたんだ!」
「それでは、ジルド様の家に確認を取らせていただきますわ。ライラ様や魔王陛下がいらっしゃる事とその情報は全ての王侯貴族に周知するよう王命が降りていますもの、それを伝え忘れたなど、王命に逆らっているのと同じですわ」
「お、お父様はそんな王命出していないですよぉ」
「元老院から回された書類にサインを施したのは紛れもない国王陛下です。まさかとは思いますが、国王陛下は内容も確認せずにサインをしていますの?」
「そんなのシオンが知るわけないじゃないですかぁ。書類なんてぇ、臣下がチェックしているからぁ、適当にサインしちゃえばいいってお父様が言ってましたしぃ」
シオン様の言葉に取り巻きになった攻略対象者以外がドン引きする空気を出した。
まともに貴族教育を受けていれば、書類の内容も確認せずに適当にサインをしていいわけがないと知っている。
はっきり言ってしまえば常識だ。
シオン様の言葉に元老院がどうして設立されたのか、理由を詳しく知らない人も嫌でも事情を察してしまったんだろうね。
今のペオニアシ国王に政治は任せられない。
そう判断するには十分な言葉だったもんなぁ。
ペオニアシ国王がシオン様を寵愛しているのは内外にも自他ともにも有名な話だし。
「そういえばシオン様」
「な、なんですかぁ?」
「南部では随分物価が上がったそうですね」
「ふぅん、そうなんですかぁ、それがシオンと何か関係ありますかぁ?」
大ありだよこのお馬鹿。
「南部と言えばシオン様が統括をしていますよね。あまり物価を上げると民の生活が苦しくなりますよ? そもそも物価を吊り上げるにはシオン様が南部統括として許可を出したのではないのですか?」
「さぁ? シオンはお父様の真似をしてぇ適当に書類にサインしてるだけですぅ。難しい事とかわかりませんしぃ、シオンの仕事じゃないですからぁ」
お ま え の 仕 事 だ !
「面倒な事はぁ、皆に任せちゃえばいいんですよぉ。そうですよねぇ、ジルド様ぁ」
「そっそうだな。シオン様を女王にすべくサポートするのがおれたちの役目だ」
ところでずっと気になっているんだが、シオン様はジルドにばっかり話しかけているけど、自分の婚約者は無視なの?
攻略しておきながら放置なの? 確かにステータスはジルド様より数段劣るけどね。
ついでに言えば公爵家同士での序列も下だけど、一応婚約者なんだから、頼るんならそっちじゃないの?
ジルド様もさも自分が本当の婚約者ですっていう感じに横に立ってるよね?
婚約者は文句言わないの?
そう思ってシオン様の婚約者を見れば、そこには嫉妬の感情は見て取れず、ただひたすら困っているように目を彷徨わせている。
なるほど、中等学園で攻略した中ではジルドが一番のお気に入りなわけね。
リリス様の婚約者を奪ったっていう優越感も含まれていそうだなぁ。
「それではサポートをするジルド様は、南部の物価上昇についてどう思いますの? ぜひとも意見を聞かせて欲しいですわ」
「そ、それは……。物価が上昇したのは収穫量が落ち込んでいて、仕方がなかったんだろう」
「まあ収穫量が減っていますの? それは大変ですわね。原因はわかっておりますの?」
「へ、平民が怠けているからだろう! だ、だから物価が上がっても自業自得だ!」
「なるほど、ジルド様はそのようにお考えでしたのね。他の皆様やシオンも同じ考えでして?」
リリス様の言葉に、シオン様は周囲を見た後に頷き、他の攻略対象もおずおずと頷いた。
「南部では一部の領主だけが裕福に暮らしているとも聞きますわ。それに、その他の領主が自分の領地を回復させようと動いていても、上の許可が下りないと嘆いているとも聞きますわね」
「そうなんですかぁ? 大変ですねぇ、シオン同情しちゃいますぅ」
「ああ、なんと慈悲深いお言葉なんでしょう!」
だめだ、このバカ共は。
期間を全うせずに南部崩壊で継承権争いが終了する未来しか見えない。
「南部統括のシオン様はそんな領主の皆さんに対して動かないんですか?」
「えぇ、領地の運営とかシオンわかりませんしぃ。分かる人がするものじゃないですかぁ。そんな風にシオンを責めるとかぁ、あなたってひどい人ですねぇ。流石はお姉様の取り巻きですぅ」
「あらリリス様、私はリリス様の取り巻きになってしまったみたいですよ」
「わたくしも驚いてしまいましたわ。わたくしがライラ様の取り巻きになるならともかく、逆の立場になるなどという発想、凡庸なわたくしには思いもつきませんわ」
「取り巻きなんていう関係じゃなく、リリス様とはぜひとも仲良くしたいと思ってますよ」
「そう言っていただけて嬉しいですわ」
その瞬間、講堂内がざわついた。
魔王の娘は姉姫陣営に付く気でいる。
そういう意図を含んだ会話だから仕方がないね。
「それでシオン様、初めのご質問の私が何者かはご理解いただけましたよね?」
「え、えぇ……魔王の娘、ですよねぇ? でもぉ、シオンはぁ魔王に娘が居るなんて知りませんでしたからぁ、仕方がないんですぅ」
「知らないから仕方がないですか。なるほど。それが許される環境なんですね、お可哀想に」
「はぁ!?」
にっこりと微笑んでそう言って、リリス様と視線を交わすといら立っているシオン様を慰める集団から離れ、遠い位置にある出入り口から講堂を後にした。
入学式が終わりました٩(๑>∀<๑)۶
次回から第一貴族科に居る攻略対象者&リリス陣営の人との顔合わせ!?
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