入学式当日5
「私が偽物かなんて、私の付き添いで来ている父である魔王に聞けばすぐにわかりますよ」
「確かに魔王は本物でしたけどぉ、娘なんているはずないですよぉ」
「ライラ様は数年前にお生まれになった古代宝石精霊でいらっしゃいますわ。魔王陛下の魔力を持つ正真正銘の姫君ですのよ。これも王侯貴族全員にしっかり周知していますわよね」
「えぇ、シオンそんな事聞いてないしぃ」
眉間にしわを寄せて言うシオン様に、リリス様が淑女の困ったような笑みを浮かべたまま、チラリと私を見て来た。
はいはーい。
「その様子だと、もしかしてペオニアシ国王も私の事を知らないのかもしれませんね」
「それは執政者としてあるまじきことですわね。いくら元老院が厳選した書類仕事しかしていないとはいえ、現在国で最も重要な事を理解できない国王など……」
「はぁ? 今最も重要なのは継承権争いですよぉ。お姉様ってば自分が負けそうだからってぇ、話題をすり替えようとしてますぅ?」
継承権争いをどうにかしたところで、魔王であるオルクスの機嫌を損ねたら一発アウトなんだよ。
「継承権争いと言えば、南部の方は随分と民が生活に困窮していると聞きますが、南部統括のシオン様は今後どうするつもりですか?」
「えぇ? そんなのシオンに関係ありませんよぉ。皆が居れば問題なく解決できますぅ」
できねーよ。
ゲームじゃあるまいし、実行ボタンを押して数分後にはい完成とはいかないんだよ!
現在進行形で人は生きてるんだからな!
シオン様の感覚だと、『フルフル』と同じように攻略対象者を集めて領地発展の計画を提案してもらって、その中から好感度が上がるものを選べばいいのかもしれないけど、そんな簡単じゃないから!
食料一つ上げても、軽く調べただけで貴族に納める分を引いちゃったら、領民が生活するのには足りないんだよ?
餓死者は各領主が炊き出しをしてなんとかしのいでいるけど、死人が出ていないのが不思議なレベルなんだからな?
富んでいる領地はお前の後見を務めている伯爵家が主で、その他一握りの領地だけだぞ?
ちょっと調べた私ですらこれだけのことが分かるのに、シオン様の傍に侍ってるバカボンボン共はそんな事も知らないのかしら。
それともなにか? 自分が良ければ領民の事なんかどうでもいいのか?
なめんなよ?
「まあ! シオン様にそこまで頼られるなんて、皆さんはきっと素晴らしく優秀なんですね。同じ第一貴族科で学び合えることが今から楽しみです」
私の言葉に9人の攻略対象者が気まずそうに目を逸らす。
「ああ、貴族科以外に通う方もいますよね。ふふ、そちらではきっと最高の成績を修めるんでしょうね」
「ライラ様、確かに他の学科に通う方もいますが、シオンの後ろに居て貴族科に通う数人の皆様は第二貴族科に所属しておりますわ」
「あらそうなんですか? ごめんなさいね、シオン様が頼りにしているようなので、てっきり第一貴族科だと思っていました」
うふふ、知ってましたけどねぇ?
講堂に残っている生徒なんかが全員こっちに注目しているから、わざと言ってますけどなにか?
リリス様も私の意図を素早く察知してくれて、ナイスアシスト!
「もしかしたらシオンが第二貴族科だから一緒に居たくて、わざと成績を落としたのかもしれませんわ。そうでなければ常日頃からご自分は優秀だと自負なさっている皆様が第二貴族科なんてありえませんわ」
「そうなんですか。そこまでシオン様と一緒に居たいなんてすごいですね」
「ジルド様はわたくしの婚約者ではありますが、常にシオンを優先しておりますもの、中等学園に入学するまではそれなりに交流もありましたが、今では決められた交流のお茶会も不参加、誕生日にプレゼントどころかカードの一枚すら贈ってくることもなく、中等学園の時からシオンにも婚約者がいるのに、まるで自分こそが婚約者だと言うように傍に侍っていますのよ」
「それはすごいですね、婚約者のリリス様をそこまで蔑ろにしてまでシオン様に付くなんて、シオン様はきっと成績では表すことが出来ない優秀な魅力があるんですね」
「ええ、一部の方々には本当に熱狂的に慕われていますわ」
「でも不思議ですね、先日のお茶会での出来事について、父が正式に抗議をしたはずなんですけど、謹慎処分すらなかったんですか?」
「そこはわたくしも気になっておりますの。元老院の方々はわたくしの父とシオンに厳重注意と同時に謹慎を命じているはずですのよ。てっきり入学式だから特別に参加しているのかと思ったのですけれども、シオンの様子だと違うようですわね」
「父にあまり厳しい事を書かず、あの時の無礼は今後ないように気を付けるようにと言う程度で留めて欲しいとお願いしたのですが、それがもしかしてよくなかったのでしょうか?」
「いいえ、元老院はちゃんと対応しましたわ。シオン、貴女はお父様に何か言われませんでしたの?」
「えぇ? お父様も怒ってましたよぉ、シオンは悪くないのにぃ偉そうにして国王であるお父様に命令するなんて不敬だって言ってましたぁ」
「今日は入学式だから特別に外出許可が下りましたのよね?」
「はぁ? なんでシオンが出かけるのに許可が必要なんですかぁ? お茶会だってお出かけだってぇ、お父様がシオンの好きにしていいって言ってくれてますぅ」
つまり、オルクスの抗議を受けて元老院が動いたけど、ペオニアシ国王とシオン様はまるっと無視しているわけね。
本当に死亡フラグを立てるのが好きだな。
「リリス様、私はとてもびっくりしています」
「同感ですわ、わたくしも驚いておりますもの。魔王陛下からの抗議を蔑ろにするなんて、この国を滅ぼしたいのでしょうか? そんな者と継承権争いをしているなんて、何とも情けないですわね」
「心中お察しします」
私とリリス様の会話にシオン様は訳が分からないと言うように頬を膨らませた。
「もしかしてぇ、お父様とシオンが知らないオジサンに怒られたのってぇ、お姉様やあなたの仕業ですかぁ?」
「「は?」」
「継承権争いに負けそうだからってぇ、人を頼ろうとするなんて最低ですぅ。自分の力で戦わないなんてぇ、やっぱりお姉様は女王に相応しくありませんよぉ」
攻略対象者におんぶにだっこする気満々のお前が言うのか?
リリス様も同じ考えのようで困ったような笑みを浮かべてはいるものの、目は侮蔑に染まっている。
「つまりシオン様は誰にも頼らずに自分の力だけで継承権争いを勝つという事ですか?」
「当たり前じゃないですかぁ」
「では、今後の南部の荒れ果てた領地の再建方法もご自分で考えるんですね」
「なんでシオンが考えるんですかぁ? 皆が考えてぇ、シオンはそれに許可を出すだけですぅ」
自分の言っている事の矛盾にも気づかないのか?
「ごめんなさいシオン様、私にはシオン様の思考が複雑すぎて理解できません」
「ふーん、それは仕方がないんじゃないですかぁ? シオンは天才ですからぁ、凡人には理解できないんですよぉ」
理解したくねーよ。
「でも、シオン様の理論で行くと協力者の助力や提案を得るのは当然なんですよね?」
「そうですよぉ、シオンの魅力に惹かれて集まってきた人のアドバイスを聞いてあげないなんてぇ可哀想ですぅ」
「つまりリリス様も同じですよね。リリス様に協力なさっているかたの助力や提案を受け入れる事は、何一つ間違っていませんよね」
「そうですねぇ、お姉様の周りに集まる人なんてぇ、シオンに目を向けられない残りかすみたいな人ですけどぉ? そんな人の力なんてたかが知れてますよねぇ」
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