入学式当日3
時々日本語を交えつつ、リリス様と和やかに会話を続けていよいよ入学式が始まろうとした時。
「やだぁ、ジルド様たちがおしゃべりしちゃったからぁ遅くなっちゃいましたよぉ」
ばkゲフンゴフン、シオン様が講堂に入ってきた。
「もぉ、いくらシオンと一緒に居るのが嬉しいからってぇ、これからもずぅっと一緒なんですからぁ、うふふぅ困っちゃいますぅ」
「そうは言っても、シオン様の魅力に惹かれた者が早速現れたじゃないですか。もちろん、シオン様が女王になる為に彼らの協力が必要ではありますが、そのせいでおれとの時間が減ったらと思うと胸が締め付けられそうです」
「やだぁ、シオンはちゃぁんと平等に仲良くしますからぁ、心配のし過ぎですぅ」
「なんと! シオン様のお優しさには胸を打たれますね」
「シオンはぁ、意地悪なお姉様と違って気遣いが出来ますからぁ」
声でけぇな。
この講堂広いのにシオン様達の声がよく聞こえるわ。
あんまりな登場に講堂に居る人が驚いて黙ったのも原因だけどね。
「んん? あれぇ、シオンってばなんか注目されてる感じですかぁ? やっぱりぃ、皆はシオンが気になっちゃうんですねぇ」
「当たり前じゃないですか、シオン様は陛下のご寵愛の深い姫なのですから。どこかの誰かとは違って、その愛らしさに惹かれないわけがありません。この調子なら、期間終了を待たずに女王の座は決定したような物ですね」
「そんなぁ、お姉様だって一生懸命がんばってますよぉ。でもぉ、シオンに意地悪やひどい事をするばっかりでぇ、本当にちゃんとしてるかはわかりませんけどぉ」
「ああっなんてお可哀想なシオン様! おれ自身の婚約者とはいえ、シオン様を苦しませるような事をするなんて、天に背くような事だと理解できない愚か者ですね」
「ジルド様ってばぁ、そんな風に言ったらお姉様が可哀想ですよぉ。婚約者のジルド様までシオンの味方になっちゃってぇ、嫉妬してるんですよぉ、気の毒ですよねぇ」
この会話を聞いてシオン様につこうと考える馬鹿は、後で寝返ろうとしてもリリス様の陣営に入れないな。
ジルドはこんな大勢の前で、婚約者と対立している妹の方についてます。継承権争いなんかしなくても女王に相応しいのは妹姫ですって言ってるようなもんだからな。
気遣いが出来る、お優しい妹姫は平然と姉姫の婚約者を誑し込んで堂々と仲の良さを見せつけて、罪悪感を抱くどころか、見下してるって宣言してるよ?
「でもぉ、この間のお茶会はぁとぉっても楽しかったですぅ。やっぱりぃ、いきなり留学してくるとかぁ、高等学院から始めるってぇ不安ですもんねぇ、シオンが親しくしてあげなくちゃいけませんよねぇ」
「シオン様のお茶会に出席できるなんて光栄な事ですよね。そのような者達にお心を配られるシオン様は本当に天使のようにお優しいですね」
「もぉ、言いすぎですよぉ。でもぉお姉様なんてぇ、魔国から来た訳の分からない人としかお茶会しなかったんですよぉ」
いや、現時点で最も重要な事だし、私が言うのもなんだけど、何をおいても最優先すべきお茶会だからな?
「しかもぉ、シオンがお茶会をしたからぁ、真似してお茶会を企画したみたいですけどぉ、女の人しか集まらないみたいですぅ。うふふ、お姉様の意地の悪さがぁ色んな人に知られてる証拠ですよねぇ」
令嬢や姫君しか集まらなかったんじゃなくて、その人たちだけを招待してるんだよ。
「そういえばぁ、学院に来る時にぃおっきい馬車が邪魔でしたぁ。お姉様の馬車じゃなさそうでしたしぃ、護衛っぽい人もいましたけどぉ、学院に来るだけであんな物々しいことをするなんてぇ、常識を知らない人がいて困っちゃいますぅ。でもぉ、見た事ないあの馬はいいですねぇ、なんかかっこよかったですぅ。シオンが貰ってあげたら喜びますよねぇ」
「シオン様に求められるとは、法外の喜びですね」
ああ、私が乗ってきた馬車か。
魔国の国王にこの国基準の常識を求めるなよ?
私だっておかしいとは思うほどに厳重だけど、それを他人がここで口に出したらそっちが終わるぞ?
しかし、話しながらシオン様達は前の方に進んできているけど、ご覧の通り前の席は全部埋まってるんですが?
「お姉様ってばこんなところにいたんですかぁ?」
「何か問題がありますの?」
「べっつにぃ? あ、でもぉシオンが座る席がないんですぅ、そこをどいてくれますかぁ?」
「空いている席にお座りなさいませ。遅れて来たのだから当然ですわよね」
「ひどいですぅ! お姉様ってばそうやってシオンを虐めるんですねぇ!」
いきなり何を言い出しやがった?
「リリス! シオン様に嫌がらせをするなんて、お前はどれだけ最低なんだ!」
「今のどこをどうすればわたくしが嫌がらせをしたことになりまして? 教えていただきたいですわ」
「シオン様が望まれているんだぞ。喜んで差し出すのは姉として当たり前だろう! お前には人の心が無いのか!」
「そうですか。まさかとは思いますがこの状況を見て、わたくしと周囲に座っている方々にも席を移動しろとはおっしゃいませんわよね?」
「シオン様とおれたちが座るんだぞ。お前の取り巻きどもを含めて席を移動するのは当たり前だろう!」
「もういいんですぅジルド様ぁ。お姉様はぁシオンが悲しむのを見て喜んでるんですよぉ。かわいいシオンのお願いを聞いてくれないとかぁ、本当にひどいですよねぇ」
「ああ! お可哀想なシオン様! リリス! お前はこんなに悲しんでいるシオン様を見て何とも思わないのか!」
「下らないとは思いますわよ」
「お前! いい加減にしろ! 女王に相応しいのがシオン様だと陛下に認められているからと嫉妬して、このようにシオン様に嫌がらせをする等、王族として恥ずかしくないのか!」
「進んで席を譲られるならともかく、ギリギリまで遊んでいてやっと講堂にやって来て、状況を考えずにただ我儘をいう妹や、それを押し通そうとするジルド様が婚約者であることは恥ずかしく思いますわ」
そうだよねえ。私でもこんなのが身内に居たら恥ずかしいわ。
「ひどいですぅ! お姉様はどうしてシオンにそんなひどい事ばっかり言うんですかぁ? そんなにシオンが憎いんですかぁ? でもぉ、お父様に愛されてるのもぉ、ジルド様が大切にしてくれるのもシオンなんですぅ。人の気持ちは他人にはどうしようもないんですぅ、だからぁ、シオンに嫉妬しないでくださいよぉ」
好感度上げのアイテムを使っている疑惑があるヤツが言うセリフじゃないな。
「でもぉ、シオンは優しいからぁ、今回はその席をお姉様に譲ってあげますぅ」
「そんな! いずれ女王になるべきシオン様が後ろに下がらなければいけないなんて!」
「しかたがないですぅ、お姉様が意地悪してくるのはいつもの事ですからぁ」
「ああ、なんてお可哀想なシオン様! ここにいる全員、シオン様がお優しく健気な事は身に沁みてわかった事でしょう。そしてリリスがどれだけ残虐非道なのかも!」
全く分からんが?
「お姉様は誰にも愛されないからぁ、愛されてるシオンに嫉妬してるだけなんですぅ。本当に可哀想ですよねぇ。でもぉ、シオンは優しいからそんなお姉様でもぉ許してあげますよぉ」
そう言って悲しそうというよりは愉悦に満ちた顔をして、取り巻きの攻略対象を引きつれて離れていった。
なんというか、継承権争いが本格的に始まった初日に、学院内に悪評振りまいたようにしか思えないんだよなぁ。
既に攻略されている人も大概だけど、この現場を見たり聞いたりした後に妹姫陣営に付くって判断した人がいたら、将来終わってるというより人として終わってるとしか思えない。
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