入学式当日2
※<>内の言葉は日本語です。
講堂の中に入ると、リリス様と一緒に居るせいもあって余計に人が頭を下げる。
慣れたくないわぁこの感じ。
<こんな風に頭下げられるのがうざったいです>
<ほとんどの者は魔王の姫君に不敬を働いたと言われて殺されたくないのですわ>
<私はそんな傍若無人じゃないですよ>
<周囲が……>
<ですよねー>
コソコソとそんな会話をして空いている席を探すけど、当然の事ながら道が開けられて前に進むしかなくなる。
高等学院の入学式がどんなものなのかは知らないけど、前の方に座っちゃったらあくびとかしないように気を付けないと。
って、最前列に座ってた人! 立ち上がって「席を譲ります、こちらにどうぞ」みたいに下がらないでいいから!
とか内心で思いつつ、イオリが最前列に進んでいくから仕方なくついていく。
うふふ、最前列のど真ん中が席とか、何この拷問。
「ライラ様は注目の的ですわね」
「出来れば目立たないようにスクールライフを楽しみたかったです」
「無理ですわね」
「知ってます」
<それにしても、シオン様は今ごろイベントですかね?>
<あの子の事ですからそうだと思いますわ。中等学園の時も着々とイベントをこなしていましたもの>
<それでも9人を攻略するとなると>
<ええ、イベントを飛ばしての好感度アップアイテムを使用していると考えられますわね。あの子が転生者だと100%確信を得たわけではありませんけれども>
<90%は確信してますよね?>
<断言できない以上、偶然という可能性も残しておくべきですわ>
<なるほど。そういえば婚約破棄イベントは起きそうですか?>
<探っていますけれども、まだ起こす予定はなさそうですわ>
<それは残念です>
<わたくしは早めにして欲しいですわ>
<リリス様から出来ないんですか?>
<ジルド様のご実家の領地はなにかと便利ですのよ>
<なるほど>
リリス様から婚約破棄を言い出すと、そのままシオン様派に寝返る可能性があるけど、ジルド様から一方的に意味も分からず婚約破棄をされれば、慰謝料代わりの賠償としてリリス様の陣営につくようにさせることも可能か。
その場合ジルド様は籍を抜かれて放逐かな?
シオン様が気に入っているなら、ペオニアシ国王にお願いしてどこかの貴族に養子縁組させるかもしれないけどね。
元老院の影響力が強いとはいえ、国王派がいないわけじゃないからな。
シオン様の統括領地を南にしたのだって、国王派が南に多いからだろうし。
それぞれの後ろ盾が南北に分かれていたから、建前に使うには都合がよかったんだろうな。
話をしていると、先ほどリリス様の背後で頭を下げていた人達がリリス様の横の席に座っていく。
あ、ヴァンスたちは私の隣の席と後ろの席に座ってる。
オルクスが制服に攻撃自動防御の魔法陣を仕込んでいるから、そこまで警戒しなくてもよくない?
そのままリリス様とお茶会の開催予定など当たり障りのない会話をしているうちに、どんどんと入学式の開始時間が近づいてくる。
高等学院から登場する攻略対象はもう講堂に入ってきているかな?
そもそもシオン様はいるのかしら?
あの性格だとうるsゲフンゴフン、賑やかに入って来そうなんだけどな。
気配を探ると前の方は全部席が埋まってるし、今からだと大分後ろの席になるよ?
自国の姫がそんな後ろの席って普通はないでしょ。
確かにこの入学式は席が決まってないから、そこしか空いてなかったと言えばそれまでだけどさ。
ドルドア様は前の方の席に座っているのね。
持ち前の人当たりの良さで早速お隣の人とおしゃべりしてるっぽいな。
流石にこれだけ人がいると、今の私では特定の誰かの会話だけを聞くっていうのは出来ないんだよね。
ヴァンスたちは平然と出来るらしいけどね。
専属護衛騎士とか使用人のスキルがマジ怖い。
「それで、先日参加のお返事を頂きました明日開催予定のお茶会なのですが、留学生を含め中等学園には通わず高等学院から通うことになる女生徒の皆様をお招きすることになっていますわ」
「ええ、そう記載がありましたね」
<高等学院で新しく登場する攻略対象はシオン様がお茶会しましたしね>
<出された茶葉が特別なものだったと聞きましたわ>
<あー、タタトル茶ですか?>
<御明察ですわ>
あんまり好感度アップはしないけど、全くしないわけじゃないから、初対面の印象をよくするぐらいの効果はあるかな。
それに、高いアイテムじゃないけど塵も積もれば山となる状態で、招待した攻略対象者全員に飲ませるとなったら結構な量が必要だもんね。
現実問題、課金すれば即入手ってわけにはいかないから量に限りもあるだろうし。
しかし、シオン様がお茶会を開いた場所って太陽の宮じゃないの?
よく情報が入手できたな。
魔法省と軍部に手を出している以外に、影でも持ってるのかね?
亡くなった王妃様から受け継いでるとかはありえそうだなぁ。
「そういえばわたくしの父が、城に出入りする商人・商会を囲い込んでおりますの」
「まあ、王家御用達をリリス様は利用できないという事ですか?」
「そうではなく、わたくしが利用することはないので問題はないのですが、王家御用達以外の出入りが増えているようですわ」
<課金好感度上げアイテム取り扱い系ですか>
<その通りですわ>
確かに王家御用達の店に課金好感度上げアイテムの取り扱いはほとんどないな。
なくもないけど、正式な王族の姫君が王家御用達を使えないという事は、流石に愚王でも出来ないのか。
そもそも、好感度上げ系のアイテムは一部を除き王家御用達以外の商会や行商人が取り扱っているっていう設定だもんね。
<ということは、戦争備品取り扱い系は手出しされていないということですか?>
<いくつかのそういったところは既に押さえてありますわ>
<シオン様、本気で攻略対象の好感度上げにしか興味ないんですか?>
<お恥ずかしながら、現時点で継承権争いをまじめにしているとは思えませんわね>
<自滅乙?>
<高等学院での動き次第では逆転もなくはありませんが、領地的に立て直すのは難しいですわね>
<『フルフル』お得意の裏切りはどうなりそうですか?>
<好感度だけあげて引き込もうとしても、寝返るメリットとデメリットの計算が出来ない者はそもそも引き入れておりませんわ>
なるほど、これまで自分の陣営に引き込んでいる人には、メリットがどれだけあるかちゃんと教え込んでいるのか。
そんでもって、領地経営ボロボロで男にちやほやされて満足しているだけのシオン様についた場合、どんな損失が出るかも説明済みと。
リリス様の陣営につく以上のメリットを提示しないと寝返らないか。
給料だの資金援助や爵位を与えるだの言ったところで、リリス様陣営よりもいい物が出せるとは思えないなぁ。
そもそも爵位を与えるのって、今のこの国だと元老院の許可を取ってから国王の裁決と言う形になってるから、例え自分の一族の中の物を分けるにしても「爵位をあげるから味方になって」なんて簡単に言えないしな。
そう考えると、リリス様の後ろ盾になっている亡き王妃様の実家って強いよな。
流石に権力の集中で非難を浴びないように、実家の公爵家当主は元老院のメンバーにはなってないけど、親族や亡き王妃派はしっかりばっちり元老院のメンバーにいるもんな。
元老院も一枚岩じゃないとはいえ、満場一致で使えない王族の排除はしたいっぽいしね。
オルクスは「代わりが居るだろう、使えない愚物は処分すればいい」とか簡単に言ったけど、中継ぎになる可能性があるとはいえ、王弟も今更担ぎ出されても迷惑だろうしな。
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