入学式当日
高等学院の入学式当日、私はヴァンスたちと一緒に馬車に乗り、専属護衛騎士に守られながら目的地に向かう。
本当なら二人ほどの護衛だったんだけど、先日のシオン様の行動からオルクスが護衛騎士の人数を増やした。
御者の二人も専属護衛騎士なら、魔馬に乗って後ろから付いてきている二人も専属護衛騎士。
一緒の馬車に乗っているヴァンスたちだって強いんだし、ここまで大げさにしなくてもいいとは言ったんだけど、格の違いを見せつけておいて損はないとオルクスが引かなかった。
うん、格の違いは見せつけられるだろうなぁ。
魔馬とか人間の国にはほとんど存在しないというか、魔馬を祖先とした馬がかろうじて存在するぐらいだよね。
それにただの送迎に専属護衛騎士を四人も引き連れる生徒なんて、絶対他に居ないよ。
継承権争いが正式に公布されたとはいえ、王都は中立地帯で一応治安がいい場所という事になっているんだもん。
「姫様、何か気にかかる事でもあるんですか?」
「ありまくりだけど、言っても同意を得られないから言わない」
「うふふ、護衛の数は魔国の力を見せつける意味もありますから、諦めてくださいませ」
「当たり前のように心を読まないでっ」
ノーマの言葉に眉間にしわが寄りそうになって、慌てて手を当てた。
マジで私の専属使用人は皆読心術が使えるんじゃなかろうか。
この疑問は今に始まったものじゃないし、なんかもう境地に達している気もしないでもない。
オルクスは魔力が繋がっているからともかくとしても、私の専属護衛騎士と使用人達に簡単に隠し事なんて出来ないんだよねぇ。
そんな事を考えながら大人しく馬車の椅子に座っていると、カーテンの閉められていない窓から高等学院が見え始めた。
……でっかいな。
スチルでは見た事があるけど、想像以上に大きいなぁ。
魔国の城と比べればどうってことは無いけど、それでも広いよねぇ。
私って前世で大学には通えなかったけど、大学でもこのぐらい広い敷地の所って珍しいんじゃないかな?
高等学院は中央に貴族科を構え、右に淑女科と官吏科、左に騎士科と魔法科がある。
移動するだけで相当な時間がかかるから、各科の学舎には専属のカフェや食堂が設置されている。
当たり前だけど各学舎の出入りは他の科の生徒であっても規制はない。
とはいえ、時間をかけて遠い学舎に行く人は滅多にいない。
一応中央の貴族科の学舎にサロンがいくつか存在しているし、敷地内に大きな講堂もあるからなにか集まりやイベントをする場合はそこを使う事が多いとはいえる。
敷地内には休憩スペースとされている中庭なども揃っているし、何が言いたいかといえば、イベント場所に困る事はない。
入学式という共通イベントの前に妹姫は、高等学院で新しく登場する攻略対象の中の幾人かとの出会いイベントを発生させることができるけど、私の現状だと覗き見に行くのは厳しそうだなぁ。
しかも、本来なら入学式では姉姫が新入生代表挨拶をするのに、なんでか私がしなくちゃいけないんだよね。
いや、首席合格したからなんだけどさ。
本来なら攻略対象者でほぼ埋められるはずの上位は、今この馬車の中に居る四人が奪っている。
それも当然だよね、付け焼刃の私はともかくとしても、ヴァンスたちはそれぞれ数百年生きてるから蓄えている知識の桁が違う。
しかも私に合わせて改めて必要科目なんかを勉強し直しているから、上位に食い込まない方がおかしいわ。
ゆっくりと学院の敷地に入り、そのまま貴族科専用の馬車停まで進んでいく。
ただでさえ豪華な見た目の馬車なのに加え、魔馬など物珍しい生き物を使用している事もあり、他の馬車からこちらを覗き込んでくる生徒もいるみたい。
目立ってごめん、こんなに目立つ予定はなかった。
……嘘です、魔王の娘が留学してくる時点で目立つなっていう方が無理でした。
音もなく馬車が止まると、少し間をおいて既定のリズムでドアがノックされたのでイオリが扉を開いて先に出る。
続いてノーマ、ヴァンスの順で降りていくと馬車の外がざわついた、というか小さいけれども黄色い悲鳴と野太い悲鳴が聞こえて来た。
わかる、美形集団を前にしたらそんな声もでるよね。
内心で悲鳴を上げた人たちに同意しつつ、ドアの外から差し出されたヴァンスのエスコートで私も馬車を降りる。
その瞬間、ざわざわとしていた周囲が水を打ったように静まり返った。
なんでや、馬車から降りただけで態度もおかしい所はないやろがい。
顔を引きつらせたいのを我慢しつつ、淑女の笑みを浮かべたまま周囲をチラリとみると、ほぼ全員が頭を下げている。
……え? 何この光景。
本格的に顔を引きつらせかけて、誤魔化すためにヴァンスの手に乗せた自分の手に力を込めた。
「姫君は現在最も尊ばれる方でございます。頭を下げるのが当然でございましょう」
「なるほど」
でもシオン様は例外として、ドルドア様もリリス様もこんな風に頭を下げてなかったよね。
王族だから?
あ、でもドルドア様とレヴァール国王はオルクスに頭を上げていいと言われるまで、挨拶の時に頭を下げたままだったか。
リリス様は……カーテシーをしてくれたけど、私がすぐに話題を変えたから頭を上げたんだっけか。
それにあの時は主催者だから私を席に案内するっていう役目もあったもんね。
つまり、まじめにこの状況が普通なのか。
今後毎朝これは精神的にきついなぁ。
「では姫様、講堂に参りましょう」
「……ええ」
ヴァンスが私の横に、私達の前にイオリ、後ろにノーマが並ぶ。
頭を下げたままの生徒や教職員や関係者が当たり前のように道を開ける。
想像以上に目立ってる! なんかもう目立つとか言うレベルじゃなく目立ってる!
魔国でもここまでじゃなかったよ!?
いや、私が会った事があるのって役職者や専属を除けば族長とその関係者とか、大使として滞在してる人だったけど!
まあ、馬車停の所でも、講堂に続く道中でも頭を下げる人が殆どの中、頭を下げない人もいるけどね。
馬車を降りる姿を見ずに状況が分からないのはともかく、茫然とこちらを見てくるのもまずいとは思うけど、敵視するように見てくるお前らは自殺願望があるのか?
今は動かないこの三人が、後でリストアップして何かする可能性もあるんだからね!
それを必死に止める私の身にもなって!
内心で嫌な汗をかきつつ、淑女の仮面を被って歩いて行くと長い道を終えてやっと講堂に到着する。
遠いわ! 馬車停から何分歩くんだよ!
マジで無駄に広いな高等学院の敷地!
講堂の前に到着すると、そこには頭を下げたまま待機しているリリス様が居た。
「おはようございます、リリス様。本日よりどうぞよろしくお願いします」
「先日ぶりでございますライラ様。こちらこそどうぞよろしくお願いしますわ」
「そちらの方々は?」
「彼らはわたくしの友人であり、継承権争いでの協力者ですわ」
「そうでしたか」
リリス様が味方に引き込んでいるっていう事は、優秀なのか。
とはいえ、リリス様以外頭を上げないからぶっちゃけゲームで出た人なのかすらわかんねーな。
「このような所で立ち話もなんですよね、講堂の中に移動しましょうか。皆様もその方が落ち着けるでしょうし」
「そうですわね」
私がリリス様の隣に移動して一緒に歩き始めると、ヴァンスたちは私の後ろをついてくるけど、リリス様のお友達は頭を下げたまま動かない。
これはあれだな、新入生代表挨拶の時に身分を気にするのは仕方がないとはいえ、同じ学院の生徒だから何もないのにいちいち頭を下げなくていいって言おう。
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