お茶会の陣4
「あのままというわけにもいきませんね(訳:したくないけど挨拶します)」
「あら、ご覧の通りなのですが(訳:挨拶もろくに出来ませんが大丈夫ですの?)」
「こちらの国に滞在して早々に王族を手にかけた等という事はよくないですから(訳:早く黙らせないとあの子死にますよ)」
「ではお言葉に甘えさせていただきますわ(訳:不出来な妹が迷惑をかけて申し訳ございません)」
リリス様が護衛に仕草で妹姫をこちらに連れてくるように指示をする。
護衛がこちらに誘導しようとするも、妹姫はオルクスの方に進もうとして護衛に前を塞がれた。
「なんですかぁ、お姉様に邪魔をするように言われてるんですかぁ? シオンがそこの魔国の王様の相手をしてあげるって言ってるんですよぉ、どいてくださいよぉ」
「リリス様があちらでご招待なさったお客様とお待ちです」
「何言ってるんですかぁ? お姉様なんてどこの誰だか知らない人と一緒にいるだけじゃないですかぁ。シオンはあの人知らないですしぃ、お姉様のお客様なんてぇシオンに何をするかわからないじゃないですかぁ」
あ、妹姫死んだかも。
内心で「やっべぇ」と思いながら妹姫の方を見ていると、ヴァンスがすっと前に出た。
「失礼します」
「だれぇって、かっこいぃ!」
そうね、ヴァンスは色気大魔神の顔面偏差値お化けだもんね。
「あちらにいらっしゃるのはわたしの主でございまして、本日はペオニアシ国姉姫様直々にご招待を頂きました、わたし共の国における最重要人物です」
最重要人物はオルクスじゃないの?
「魔王陛下もご自分よりもわたしの主に挨拶をする事を望んでおりますので、どうぞあちらでわたしの主に挨拶をしていただけますか?」
「へ? は? ……じゃぁ、あなたが連れて行ってくれますかぁ?」
「ご冗談を。そちらの護衛騎士が待っているようです。一国の姫ともあろう方が場を乱した上に他国の要人の従者を使うなど、そのような愚かな行動はなさいませんよね」
「えぇ、シオンはあなたがいいですぅ。だってぇ、お姉様のお客様とか怖いですしぃ」
「ご安心ください、わたしの主は慈悲深くていらっしゃいます」
「でもぉ、シオン知らない人と挨拶なんてぇ不安ですぅ」
「それは大変ですね」
「そうですよねぇ、だからぁ「そのようなか弱いお心では国を背負うのは難しいでしょうね」
わぁ、ヴァンスってば怒ってる。
まだMAX10の怒りメーターで当てはめればレベル2か3だけど、怒ってるわ。
「魔王陛下、こちらの姫君は継承権争いを降りたいと思っているのではないでしょうか?」
「そうか」
「ちょっそんな事言ってませんよぉ。ひどい事言わないでくださいよぉ、シオンはショックですぅ。お姉様の仕打ちに負けずに一生懸命がんばってるんですよぉ」
「そうですか、それでは頑張ってそちらの護衛騎士の方の案内でわたしの主にご挨拶をしていただけますね」
「……はぁい。あ、知ってるみたいですけどぉシオンはこの国の姫ですぅ。また会いたいですぅ」
「もちろん存じ上げていますよ。わたしも主も高等学院に通いますから」
「本当ですかぁ! シオンってばまた会うのに期待しちゃいますぅ。それじゃぁ、シオンが虐められないように見張っててくださいねぇ」
「どうぞお早く主の元へ」
顔がよければ攻略対象者でなくてもいいのか。
それにしても、まさかとは思うけど私に対して自分から名乗ったりしないよな?
当然だけどリリス様の紹介を待つよね?
いやな予感がしてリリス様をちらっと見ると、小さく首を横に振られた。
まじか……。
不承不承という雰囲気でこっちに来る妹姫を見て顔が引きつりそうになる。
「自由な方ですね(訳:この場で紹介ならまだしも私を差し置いて名乗ったら命が危ないですよ)」
「お恥ずかしい限りですわ(訳:わかっていますわ、妹が口を開く前になんとかしますわ)」
そうして一定の距離に近づいてきたところで案内してきた護衛騎士が足を止める。
「おね「シオン、こちらは魔王陛下の姫君でいらっしゃるライラ=ブランシュア様ですわ」
「はあ? そ「ライラ様、こちらはわたくしの妹のシオン=ウェルンド=ペオニアシですわ」
「ちょ「初めましてシオン様。本日はリリス様とのお茶会だと思っていましたので、まさかシオン様にお会いするとは思っていませんでした」
「シオ「予定外の事が起きてしまい申し訳ございません、ライラ様。妹がとんだ無作法をしてしまいましたわね」
「ふ「驚きましたが、これでシオン様がリリス様だけ抜け駆けして私に会ったとはおっしゃいませんでしょう。そう考えればよかったかもしれません」
「あ「そう言っていただけて嬉しいですわ。どうやらライラ様のことを存じ上げなかったようですが、これで魔王陛下の姫君であるライラ様を知ることが出来ましたわね」
オルクス達の機嫌を悪くさせないために、リリス様と全力でシオン様の言葉を遮って会話をしていく。
「だ「魔国から魔王の娘である私が留学してくるのを、シオン様がご存じなかったのは残念ですが、今知ったのですから問題はありませんよね」
「シオ「もちろん、世界でもっとも偉大な魔国の姫君に対して、相応しい態度をとるに決まっていますわ」
「ふ「それはよかったです。私が言うのもどうかと思いますが、私の周囲は過保護で過激ですから」
「い「魔王陛下のご寵愛深いと聞いておりますもの、無礼な態度をとるなんて常識的に考えてありえませんわ」
ここまで教えたんだから、気付くよね? むしろ気付け。
今目の前でリリス様と会話をしている私は、シオン様よりも立場が上なんだよ。
この場で私に何かしたら文字通り消えるからね? 貴女が!
「そういえば、リリス様は高等学院ではやはり第一貴族科ですか?」
「もちろんですわ」
「ペオニアシ国の高等学院は第一貴族科だけではなく第二貴族科、官吏科、魔法科、騎士科、淑女科と多くの選択肢がありますよね」
「ええ、中等学園で教養を学んだ貴族が自分に合った将来の為に、さらに学を深めるために通う場所ですもの」
「中等学園と違い高等学院は私のように他国からの留学生も受け入れますし、社交の意味でも将来の事を思えば甘えや怠慢は許されませんよね」
「そうですわね。中等学園でも習いますが、同じ王侯貴族であってもきちんと己の立ち位置を自覚する事も学院に通い学ばなければいけませんわ」
「私と一緒に留学してくる三人も第一貴族科なんですよ。入学した際はどうぞよろしくお願いします」
「まあ、優秀でいらっしゃいますのね。こちらこそ親しくさせて頂きたいですわ」
「そうやってぇ、シオンの事を馬鹿にするんですねぇ!」
いきなり叫ぶなよ。
「シオンが第二貴族科だからってぇ、目の前で自慢するなんてひどいですぅ」
「あらシオン様、第二貴族科だって十分に優秀な成績を納めなければ通常は所属出来ませんよ(訳:国王のコネと賄賂でごり押し入学したのは有名ですよ?)」
「ええ、まったくですわ。第二貴族科に所属できたのですから、今まで以上に勉学に励むべきですわね(訳:中等学園みたいに男を侍らせることに夢中になる暇なんてありませんわ)」
「他国の留学生もいらっしゃいますし、気を引き締めないといけませんね(訳:国内情勢が難しい時期に姫が他国に恥をさらさないでくださいね)」
「そういえば留学生の一部の男子生徒だけを早速お茶会に招待したと聞きましたわ(訳:早速男に媚びを売るなんて恥を知りなさいまし)」
「あら、そうなのですか? それでは不公平にならないようにリリス様が留学生の女生徒をお茶会にご招待しなければいけませんね(訳:継承権争いしてる相手に尻ぬぐいさせないで欲しいですね)」
「そうですわね。その際はライラ様もお誘いしてもよろしいでしょうか?(訳:また色々お話ししたいですわ)」
「ええ、その際はぜひ誘ってください(訳:次は邪魔が入らないことを願ってます)」
「今日はもうお茶会を続けるという雰囲気ではありませんわね(訳:邪魔が入って肝心な話が出来ませんでしたわ)」
「それでは、本日はこれで失礼しますね(訳:話の続きはまた今度しましょう)」
そう言ってリリス様に微笑んでカーテシーをすると、シオン様の横を通り過ぎていつの間にか近くに来ていたヴァンスにエスコートされてオルクスの所に戻った。




