お茶会の陣3
※<>内の言葉は日本語です。
まったく、思わず淑女教育を捨てて罵詈雑言を言う所だった。
しかし、亡くなった王妃が元老院を作ってなかったらペオニアシ国はとうに滅んでいたね。
もしくは国王が今は鳴りを潜めている王位継承権がある人に亡き者にされてるわ。
攻略対象者に王位継承権保有者、ぶっちゃけ王弟の息子がいるけど、攻略難易度高いのはそのせいだろうね。
親の教育がよければ愚王に甘やかされている妹姫をよく思うはずがないもん。
高ぶったテンションを落ち着けるために紅茶を飲んで息を吐き出す。
「リリス様は思慮深いんですね」
「勿体ないお言葉ですわ。ライラ様こそご聡明とお聞きしておりますわ」
「周囲がもてはやしているだけですよ」
「ふふふ、ご謙遜を。高等学院の入学試験では首位ではありませんか」
「それこそ私に学を教えてくださった方々のおかげです」
そこでふと互いに一拍置いて息を吐き出す。
「学院生活の間、ライラ様にご迷惑がかからないといいのですが」
「私は学院生活にとても興味がありますよ」
<イベント目当てですか>
<当然です>
「先ほどから魔王陛下が周囲を威圧なさりながらこちらを見ていますわ。ライラ様になにかあればペオニアシ国は終わりですわね」
「否定はしませんよ」
<妹がイレギュラーにどう動くか予測不可能ですわ>
<リリス様はこの世界を現実と受け止めていますが、妹姫は違うと言うことですか?>
<本当に転生者である場合、行動内容があまりにも稚拙すぎますわ。攻略対象を味方につけて終わり、というわけにはいきませんのよ>
<前世でよくある転生物のヒロインのように、ゲームとの区別がついてないということですか>
<駄目ならリセット、そのように軽く考えている可能性はありますわね>
<それでも、領地運営は『フルフル』の攻略上欠かせないものですよ。蔑ろどころか悪化させていては領地戦争でどうしようもないじゃないですか>
<領地戦争では保有武力も関係しますが、妹姫陣営では攻略対象が駒になって動きますわよね>
<はい>
<妹は『フルフル』の領地戦争と同じだと考えている可能性がありますわ>
馬鹿だな。
ゲームではそれでいいかもしれないけど、現実の戦争は武器と数だ。
オルクスのようなチートが居れば別だけれども、一騎当千なんて攻略対象は極一部な上に攻略難易度はバカ高い。
しかも、中等学園時代にペオニアシ国に存在しているそういう攻略対象は、既に姉姫陣営に引き込んでいる。
『フルフル』であれば彼らは中等学園時代には登場しない。
妹姫が攻略したのは中等学園で出会う9人の攻略対象だ。
努力すれば登場する攻略対象に関しては出会っているかどうかは不明だが、少なくとも味方に引き込めては居ない。
チーズケーキを食べながらリリス様を観察すれば、非の打ちどころの無い仕草で私みたいに詰め込み教育じゃなく、しっかりと身についているって感じだね。
いや、私も無意識に淑女の仕草が出来るように叩きこまれたけど、自分では付け焼刃感が否めない。
「そういえば、ペオニアシ国にはいまだに「お姉様ひどいわぁ!」
これから重要な話をしようと切り出したところに、甲高い声が被ったのでそちらを向けば、ドレスの裾を乱した妹姫が中庭に走って入ってくるところで、リリス様の護衛に止められている。
「魔国の王様が来ているのにぃシオンに教えてくれないなんてぇ、そんなにシオンを嫌っているんですかぁ?」
なんだ、あのバカみたいな喋り方。
妹姫の乱入にリリス様が困ったように苦笑する。
「それにぃ、シオンがせっかく来てあげたっていうのにぃ、こんな風に邪険に扱うなんてぇそんなにシオンに嫌がらせをして楽しいんですかぁ?」
リリス様の護衛は一応自国の姫相手なのか強引に追い出すことは今は出来ないみたい。
しかし、妹姫がチラチラとオルクスやネルガルに視線を向けながら言っているあたり、悪意を感じるわ。
「シオンはぁ、お姉様と仲良くしたいのにぃ、いっつもひどい事ばっかりしてきてぇ、シオンがお父様に可愛がられてるからってぇあんまりですぅ。そんな風に性格が悪いからぁ皆に嫌われるんですよぉ」
オルクスもネルガルも妹姫に全く興味なさそうで、チラリとも見ない。
私に何かすれば潰すつもりみたいな空気は感じるけどね。
「でもぉ、シオンはそんなお姉様がお可哀想だからぁ、こうして遊びに来てあげてるんですぅ。それにぃ、魔国の王様が来るんだったらぁ、シオンが相手をしてあげた方がいいにきまってますぅ」
姉であるリリス様に対して上から目線なだけじゃなく、魔王として来ている、いや公爵だと身分を偽っていてもだけど、どっちにしろ魔国の要人相手に上から目線って終わってるわ。
「お姉様じゃ、きっと不快な思いをさせちゃいますよぉ。シオンが代わってあげますからぁ、この邪魔なザコをどけてくださいよぉ」
姉の護衛をザコって……だったらそのザコに足止め食らっている貴女の背後にいる付き添って来た護衛はなんなの?
一方的に大声を上げる妹姫にリリス様が動かないでいると、妹姫が突然顔を手で覆ってうつむく。
「やっぱりお姉様はシオンが憎いんですねぇ。だからシオンを仲間外れにするような事をするんですぅ。今までだってシオンにひどい嫌がらせをして来たのにぃ、いくら継承権を争っているからってひどすぎますぅ」
手のせいで顔は見えないけど、演技へたくそだな。
「ジルド様だってぇ、お姉様の性格の悪さには呆れてるって言ってますぅ。妹であるシオンを虐める姉なんて女王に相応しくないって言うからぁ、シオンはお姉様の為に必死にフォローしてあげてるんですよぉ」
悪評を広めてるの間違いでしょうが。
ほら、リリス様だって困ったように微笑んでいるけどさっきから目が笑ってない。
しっかし、妹姫には私の存在が目に入ってないのかしら?
どこをどうみてもリリス様が接待しているのは私であってオルクスじゃない。
オルクスを接待していると思うんだったら、オルクスが座っている位置がおかしいと気づけよ。
しかし、ここでリリス様の婚約者の名前を出すのか。
オルクスやネルガルに自分は姉のフォローをする健気な妹アピールと共に、リリス様を馬鹿にしているつもりなんだろうけど、意味ないんだよなぁ。
「リリス様、あの方はもしかして妹君ですか?(訳:あの馬鹿が妹姫ってマジですか?)」
「お騒がせして申し訳ありません。まさか先触れもなくこちらの了承も得ずに、わたくしの住まう月の宮にこのように乗り込んでくるとは思いませんでしたわ(訳:マジですわ。あの常識知らずが妹姫ですのよ)」
「随分と元気がいい方ですね(訳:淑女教育の教師はなにしてるんですか?)」
「お恥ずかしい限りですわ。父はあの様子が気に入っているようですのよ(訳:父に甘やかされているからか、勉強を直ぐに投げ出すせいで不出来なんですの)」
「あのような元気で素直な所が数々の子息を虜にするんでしょうか(訳:あれに引っかかる馬鹿ってそもそも切り捨てて正解ですね)」
「一部の子息には妹のような子は新鮮に映るようですわ(訳:淑女の意味が分からない馬鹿はいりませんわね)」
お互いに困ったように微笑みながらもそんな会話をして視線を妹姫に戻す。
相変わらず顔を手で覆ってうつむいてアピール中だ。
放置してもいいけど、あのままでいるとオルクスが「騒がしい」とか言って(物理で)排除しそうだしなぁ。
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