お茶会の陣2
※<>内の言葉は日本語です。
自分の陣営の経営資金が心もとなくなった際に、簡単にそれを補充する方法が領民からの税金。
しかしながらこれは一時的には懐が潤うものの、並行して領地をちゃんと発展させないとすぐに頭打ちになる。
理由は簡単、無い袖は振れないってやつだね。
だから『フルフル』では、無闇に民への増税をしておきながら領地を発展させないのは悪手とされている。
別の収入方法として外交と領民ではなく貴族からの臨時税収というものがある。
ただし貴族からの臨時税収は必ず公共事業に使用しなければならない。
その他の事に使用すると領地の発展レベルが軒並み下がっていく。
ついでに関連する攻略対象の好感度も下がる。
領民への増税で好感度が下がる攻略対象もいるから、どちらにせよ安易に増税する事は本当に悪手なんだよ。
『フルフル』って乙女ゲームなのに、何を目指してたんだろう……。
いや、楽しかったんだけどね。
「農業と酪農、食品加工以外は如何ですか?」
「ありがたい事に自然に恵まれ、ダンジョンも数カ所ございますのでその他の技術向上も予定通りに進んでいますわ」
「女性の社会進出もしているそうですね」
「ふふ、大したことではありませんの。女性が問題なく働ける環境を増やすことと同時に、家事や子育てを職業と設定しましたのよ」
<福利厚生を増やしたんですか?>
<家事をする職業や乳母という職業があるのですから、一般家庭の家事や子育てを『少子化対策』として職業扱いにしただけですわ>
いや、十分にすごいと思うよ。
社会進出出来ない女性も、家事と育児をする事でちゃんと『職業』として認められるって事だし。
<そもそもこの国は一夫多妻制ですが、平民は王侯貴族と違って一人の男性が複数の妻を養うお給金はありませんもの。将来の人口を考えれば子供を産める環境を整えるのは重要ですわ>
<誤魔化しや育児放棄の確認機関、そもそも主婦に給金を支払う財源はどうなってるんですか?>
<もちろん、公共事業ですので北部に所属している貴族から税を頂いてそこから支払っておりますわ>
<臨時税収を何度もしていると?>
<貴族税を新しく設定いたしましたわ。通常の領地からの税収の一部を納税する以外に>
<反発が起きるんじゃないですか?>
<商店・商会にも売り上げに応じて納税する制度を設置しましたの。そちらも公共事業に使用しておりますわ。平民が納税しているのに見本たる貴族が納税しないのであれば、いつ立場が逆転するかわからないとご説明しましたら、皆様快く賛成してくださいましたわ>
あ、この子は策士だわ。
自分の貴族と言う地位を、今まで見下していた平民に金で買われるか、役立たずよりも役に立つ平民を貴族にするって遠回しに言ったんだな。
「どこにでも不正を行う人はいますよね」
「もちろんです。その分諜報機関も公共事業として設置しておりますわ。もちろん、所属している者が規律違反を行えば即座に肉体的支障をきたす魔法を施しておりますわ」
「権力を持つと増長する人も出てきますよ」
<内部密告って、臨時収入に丁度いいと思いますの>
<魔女狩りは悪習だと思います>
<結果ありきの調査は行わないように取り決めておりますわ>
話を聞くに、継承権争いよりもだいぶ先の事を考えてるなぁ。
<負けたら独立国でも作るんですか?>
<そうならないようにするつもりですわ>
最悪の場合は北部をペオニアシ国から切り離して国を作る気か。
外交に力を入れているという話も聞くし、いざという時に支援してもらえるように準備もしているって事ね。
魔法省だけじゃなくて軍部にも手を伸ばしていることを考えれば、領地戦争の準備もばっちりか。
「軍事費ってお金かかりますよね」
「悩ましい所ですが、継承権争いだけでなく諸外国の事を考えれば疎かには出来ませんわ」
「リリス様は貴族諸侯からのご期待を受けているそうですね」
「重責ではありますが、出来る限りお応えしたいと思っておりますわ」
「一方で一部の子息や令嬢からの評判は芳しくないとも」
「お恥ずかしながら、全ての方に支持を頂けるほどの実力を身に着けることが出来ておりませんの。それに、妹は一部の貴族子息を中心に人気を集めておりますのよ。若いうちは情報の精査に甘い面もございますから、それに関しては致し方ないと言えますわね」
困ったように微笑むリリス様に、私も苦笑する。
自分が妹姫に悪役に仕立て上げられている事は知りつつも放置しているのか。
「思わぬところで足をすくわれる事もありますよ」
「そうですわね。こちらとしても出来うる限りの対策を取らなければと思っておりますわ」
婚約者がいる攻略対象の好感度で発生する『婚約破棄』イベントにも対応済みか。
<ペオニアシ国王は公平ではないけれど、身の潔白を証明できますか?>
<映像記録と録音が出来る魔道具を所持した『影』が数人、わたくしと妹にそれぞれつくよう元老院が手配済みですわ>
<ああ、ここについてから感じていた気配はソレですか>
<まあすごい。わたくしは気配などわかりませんわ>
<訓練の賜物です>
人間は魔法を使える人は少ないけど、魔力を持たない人はほとんどいない。
それに加え身のこなしの訓練の際に、気配を読む事も覚えさせられたので気配を消されていてもなんとなくは分かる。
ネルガルとかナムタルなんかの専属護衛騎士や専属使用人が本気で気配を消すとわからないけど。
<情報によれば魔王に娘が出来たのは約三年前ですわよね?>
<そうですよ>
<随分溺愛されていると聞きましたわ>
<間違っていませんね>
<わたくしもかなりシナリオ外の動きをしている自覚がございますけれども、ライラ様のように存在自体がイレギュラーな方が現れるとは思いませんでしたわ>
<激しく同意します。ちなみに前世を自覚したというか、この世界が『フルフル』に酷似していると気が付いたのはいつですか?>
<母が亡くなった時ですわ。ショックで熱にうなされて思い出しましたわ>
<それって……>
<ええ、七歳の時ですわね>
だいぶ前から前世を思い出していたわけだ。
その時から動いていたとなれば、地盤固めをする時間は確かにあるかぁ。
<正直な所、本当に妹姫も転生者だと思いますか?>
<可能性はかなり高いと思っておりますわ。少なくとも中等学園に入学して以降は……。ただそれ以前もお恥ずかしながら父と側妃に甘やかされて、随分と自由奔放に過ごしていたと聞いておりますので、具体的にいつからと言われると難しいですわね>
<妹姫のお母様がお亡くなりになったのは、九歳の時でしたね>
<ええ、そこは公式設定と変わりありませんわ。中等学園に入学するまでわたくしとの接触も公式設定通りにほぼございませんでしたわ>
<それまでは水の宮でお母様と過ごされていたのですか>
<いいえ。側妃が生きていた時から太陽の宮に滞在しておりましたわ>
<は?>
<側妃共々毎日互いの宮に通うのは大変だからと、太陽の宮に部屋を用意されておりましたわ>
<母親が亡くなった妹姫を憐れんで太陽の宮に住まわせているのでは?>
<表向きはそのようになっておりますわね。実際は生まれた時から太陽の宮で過ごす時間の方が多いそうですわ>
「ばっ――」
ばっかじゃねーの?
王妃が必死に働いてる間、自分は側妃やその娘と幸せ家族していたわけだ?
まじ愚王すぎて亡くなった王妃様可哀想。
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。




