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お茶会の陣

※<>内の言葉は日本語です。


 ペオニアシ国王城、月の宮。

 姉姫(リリス)が住んでいる場所であり、国王が住む太陽の宮についで広大な敷地を誇っている。

 ちなみに妹姫(ヒロイン)は国王と同じ太陽の宮に住んでいる。

 自分用に水の宮があるものの、二つの宮に比べて明らかに敷地が狭く、そんな場所で幼くして母親を亡くした妹姫(ヒロイン)が暮らすのは憐れだと国王が自分の傍に置いているのだ。

 幼い時に母親を亡くしたのは姉姫(リリス)も一緒ですがぁ?

 それはまあともかく、私は月の宮にある中庭の一つに案内された。

 当然外見年齢操作モードで来ているわけで、オルクスもいる事もあってここに来るまでにそれはもう注目を浴びまくった。

 オルクスは転移魔法で直接ここに来ようとしたけど、流石に何もないのに他国の王城にいきなりそれはやめた方がいいと止めた。

 磨き上げられた石で作られた東屋の前に姉姫(リリス)がいて、こちらの到着に合わせて近づいてくる。


「初めまして、ライラ=ブランシュアです」

「お初にお目にかかります。リリス=アルジェン=ペオニアシですわ」

「こちらは本日私の付き添いで来た、父のオルクス=ブランシュアです」


 私の紹介にオルクスが興味なさそうに姉姫(リリス)を見てすぐに視線を外す。


「お初にお目にかかります魔王陛下。この度は我が国に滞在していただく栄誉を賜り感謝しておりますわ」


 美しいカーテシーをする姉姫(リリス)だけれども、オルクスは少しも興味がなさそう。


「リリス様、先日は素敵な香りのお手紙をありがとうございます」

「ライラ姫様のお気に召していただけたようで何よりですわ」

「お願いした通り、二人でお話が出来そうですね」

「もちろん、ライラ姫様のご要望ですもの、ご期待に添えることが出来たようで嬉しいですわ」


 そう言って先導するように体を動かしたので私もそれについていく。

 東屋の椅子には柔らかそうなクッションが敷き詰められていて、座り心地もよさそう。

 向かい合って座ると、すぐさまお茶の用意がされる。


「貴方たちは下がっていてくださいまし。用事が出来たら呼びますわ」

「皆も下がっていてくださいね。お父様もですよ」


 私達の言葉に僅かばかりの戸惑いを見せたものの、姉姫(リリス)の護衛と使用人が下がり、それを確認してオルクス達も離れていった。

 とはいえ、魔族にしたら音も拾える範囲、何かあれば一瞬で駆けつけることが出来る範囲だ。


「そうそうリリス様、私に姫を付ける必要はありませんよ。リリス様もこの国の姫君ではありませんか」

「では、お言葉に甘えさせていただきますわ。改めて、ペオニアシ国の高等学院に留学していただきありがたく思っておりますわ」

「こちらとしても以前から興味がありましたので、留学を受け入れてくださり感謝しています」


 そこでどちらともなくお茶を飲んで間を開ける。


「白い内容はご覧いただけましたでしょうか?」

「大変楽しく拝見させていただきました」


 じっと視線を合わせて同時に頷く。


<随分シナリオ外の動きをしていますね>

<そちらこそ、魔王に娘などいませんのにイレギュラーにもほどがありますわ>

<よろしいのですか? ご自分の陣営についている方々が誰かを私に知らせてしまって>

<すでにご存じの情報を改めてこちらから提示したまでですわ>

<あら、どうしてそのように思ったのでしょう?>

<わたくしでしたら自分の知識との差異を確認するように動きますもの。あのようなお手紙を下さったライラ様なら、同じように動いていると思いましたのよ>

<あのような単語一つでそこまで推理するなんて、深読みが過ぎていたらどうするつもりですか?>

<その時はわたくしが愚かだというだけのことですわ>


 にっこりと微笑んで言うリリス様に私もにっこりと微笑み返す。


「そちらは食べたことがないお菓子ですね」

「甘いお菓子もいいですが、口直しにしょっぱい物もいいかと思って準備させましたわ」

「ふふ、実は本当に初めて食べるんです。ポテトチップス」

「まあそうでしたの?」

<前世では病弱で食事制限があったものですから>

<そうでしたか。どうぞお好きなだけ召し上がってくださいませ>

「では、遠慮なくいただきますね」


 ポテトチップスを一枚つまんで口に運ぶ。

 パリッとした食感に口の中に広がる塩気に、こういう味なのかとちょっと感動してしまった。

 でも前世で食事制限された中にあっただけあって、油分が結構あるかな。

 用意されているのは少量だから、本当に口直しとして用意したんだろうね。


「父の娘に生まれて色々な物を食べることが出来て、お恥ずかしながら食の楽しみに目覚めてしまいました」

「美味しいものを頂くのは幸せですわよね」

「魔国が新しく取引をした国から、珍しい料理の技術を輸入したのですよ」

「珍しい……。魔国であっても珍しいと言うのであれば相当ですわね」

「日出ずる国という位置ではないのですけれどもね」

「なるほど、そのような国があるのですね。お恥ずかしながら身の回りの事に忙しく、そのような国がある事は存じ上げませんでしたわ」

「かなり離れた場所にある国ですから仕方がありません」

<和食があると思うと、途端に恋しくなってしまいますわね>

<私も和食恋しさに随分無理をさせて探してしまいました>


 指先をおしぼり(・・・・)でぬぐって紅茶を飲む。


「ところで、本気で王位を狙っているんですか?」

「妹に任せても大丈夫そうなら身を引いて他国に嫁ごうと思っていましたのよ」

「つまり、妹姫には国を任せられないということですか」

「父に甘やかされているせいか、国を背負うには不安がございますわ」

「集めた情報を見るに、妹姫もリリス様と同じだと思っているのですが」

「父に強請ってよく商人を呼び寄せているようですわ」

<好感度アップアイテム爆買い疑惑ですか?>

<太陽の宮に出入りしている商人を見るにそうだと思いますわ>

<それで難易度の高いリリス様の婚約者も落としたと>

<正直申し上げてそれはどうでもいいのですけれどもね>

<ステータスは高めですよ?>

<……あの人を個人的に攻略したことはございまして?>

<ないです>

<あの人、『フルフル』のイベントでもプライドの高い温室育ちのお坊ちゃまなんです。婚約者として指導や誘導はしてみたのですが、効果はありませんでしたのよ>

<理解しました。確かにリリス様が集めている人材を考えますと不必要ですね>


 同時にため息を吐き出してそれぞれ用意されたケーキにフォークを入れる。

 一口サイズにとって口に運ぶ。

 あー、このチーズケーキレモンが入ってて美味しい。


「ペオニアシ国では農業と酪農が盛んだそうですね、主に北部で」

「併せて食品の加工技術も向上するよう努力しておりますわ。ただ、わたくしの力不足もあり、労働力不足で思うように事は進みませんわ」

「南部には職に付けずにいる方も多いと聞いています」

「同じ国ですのに悲しい事ですわ。領民の移動は自由意志とはいえ、移動する力もない方々がいるようです」


 それって妹姫陣営(ヒロインサイド)が現時点ではボロボロってことなんじゃ。


「南部の領主の皆様はその状態を見過ごしているんですか?」

「出来る範囲の事はしているそうなのですが、南部統括の了承を得ないと動くことが出来ないのが現状なのです」


 南部統括っていうのは妹姫(ヒロイン)のことね。


「北部ではそのようなことは無いのですか?」

「もちろん、あまりにも大きな取引や動きがある場合は北部統括であるわたくしの許可が必要ですが、基本的には今までと変わりなく(・・・・・・・・・)領地運営をしていただいておりますわ」

「助言をいくつもなさっていると聞いています」

「もちろん、北部統括の任を頂きましたもの。より発展するために勤めるのは義務でございますわ」

<南部ってまさかとは思いますけど、あの悪手の増税をしてます?>

<わたくしが仕入れた情報によるとそのようですわ>

<どこまで吊り上げました?>

<南部では物価が60%上がったようですね。そして領民の収入は減ったようです>


 うわぁ……、そりゃぁ領民の自活力がなくなるわ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 予想以上に酷かった。 南部では怨嗟が渦巻いていそうです。 ゲームと違って現実では恨みは早々消えませんし、失った信用は簡単には回復しないのに…。
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