いざペオニアシ国へ5
翌日、いつも通りにリンの前足を握って寝ていた私は目を覚ます。
起き上がってグッと伸びをすると、寝室の扉がノックされてナムタルが入ってきた。
「おはようございます、姫様」
「おはよう。今日でしばらくの間このベッドともお別れね」
「ご安心ください、同じものをあちらの屋敷にも準備してございます」
「そうなんだ」
枕が変わると眠れないという体質ではないけれども、寝具が変わらないのはありがたい。
朝の身支度をして着替えを終えると、いつも通りにオルクスを起こしに行く。
ネルガルが幼女モードの私を抱っこするのは変わらないけれども、専属従者と専属メイドの教育を終えた三人も一緒に歩くようになったのが変化かな。
オルクスの私室に到着しておろしてもらうと、いつも通りに寝室に入ってベッドの天幕を「よいしょ」とめくる。
「パ~パ、お~きて~」
ベッドによじ登ってオルクスの体を揺さぶれば、ぱちりと目を開けてオルクスが「おはよう、ライラ」と言ってくる。
予備動作もなく体を起こしたオルクスが私を持ち上げて膝の上に乗せると、じっと今日の服装をチェックする。
「……このチョーカーはあまりよくないな」
「そう?」
「レースの柄が不十分だ。手抜きだな」
「そうかなぁ?」
取引先の国から献上されたレースを使ってますけどぉ!?
「でも、このチョーカーってすごく着け心地がいいんだよ」
「ふむ」
オルクスが検分するように私の首を飾るチョーカーに指を這わせる。
「……今後はもっと上質なものを献上するように通達しよう。それが出来なければ献上品は不要だともな」
「ははは……」
取引を継続してもらう対価に献上品を贈ってくる国が殆どだけど、それを必要としないって事は、相手に「最上級のものを贈れない国と取引の更新はしないかもしれない」と、圧力をかけているようなものだよね?
相手の首が飛ばないのはいいけど、今後の対応しだいではこのレースを献上した国の行く末が不安だわ。
オルクスは私の首からチョーカーを外すと床に放り投げた。
「ナムタル」
「はい、陛下」
呼ばれてすかさず寝室に入ってきたナムタルに、オルクスが代わりのチョーカーを準備するように言う。
「かしこまりました」
ナムタルはそう言うと寝室の外にいるメイドに視線を送った。
朝の支度をするためにオルクスは私の頭を一撫ですると、抱きかかえたままベッドを降りて、そっと私を床に降ろしてくれる。
顔を洗ったり歯を磨いたりしたオルクスは、いつもながらに平然と下着姿になって着替えを始める。
別にもう慣れたけどさぁ、外見年齢操作した時の私の前でそれしたら色々アウトでは?
今は幼女モードだからいいけど、いやいいのか?
テキパキと着替えを終えたオルクスは、私を再び抱きかかえると食事をする場所に移動する。
朝からフルコースということは流石に無いけれども、それでも勉強を始めてからはワンプレートという甘えは許されず、しっかりとした朝食に変わっている。
オルクスは相変わらず果物しか食べないけどね。
はぁ、今日もご飯が美味しく食べられて幸せだわぁ。
「昨晩のうちにペオニアシ国の姉姫に返事を送ったそうだな」
「うん、今日ペオニアシ国に行くから、明後日お茶会をどうですかって」
「明後日か」
「だめだった?」
「いや、あちらが日程を調整すると言っているから構わないだろう」
「だよね」
うふふ、急なお茶会にどのぐらい対応できるか楽しみだなぁ。
あ、こんな事考えてたら私が悪役みたい?
一応オルクスが付き添いで来ることと、お互いに身の安全の為に護衛などの同伴はしましょうね、とも書いておいた。
もっともオルクスと言うか私の専属が動けば、たぶん姉姫の護衛とか何の意味もないけどね。
姉姫が転生者の可能性も考えて縦読み暗号で『てんせいしゃ』って隠したけど、気づくかなぁ?
朝食を食べ終わると早速ペオニアシ国へ出立となる。
荷物に関しては先に送ってあるから手ぶらだし、準備も含めてすでに多くの使用人や護衛騎士がペオニアシ国に転移している。
魔国以外に行くのって初めてだし、ドキドキでワクワクだわぁ。
こっちでは王都であっても魔王の娘がショッピングやカフェに行くなんて言語道断って感じで、各種族の族長の家を巡る時も転移魔法を使っての移動だったもんなぁ。
うふふ、そうなの……私って魔国の王都すら見て回ったことが無いの。
物語のお姫様はこっそり視察で城下を巡るっていうのがお約束なのに、うちのガード硬いわぁ。
でもペオニアシ国に行ったら憧れの城下街巡りとか出来るかも。
「準備はいいか?」
「OKだよ」
オルクスに抱っこされた状態で転移魔法陣の上に行くと、他の人もついてきているのを確認してオルクスが魔力を放出する。
相変わらず心地いいなぁ。
無意識に密着度合いを高めるべくギュウッと抱き着いてしまう。
オルクスも私の頭に手を添えて抱き寄せると、ふわりと転移魔法陣が光り、それが収まると先ほどまでと似て居ながらも違う部屋に転移した。
すぐさま先に来て準備をしていた使用人の案内で、私とオルクスの私室に案内される。
「おお、多少の違いはあるけど、魔王城の私の部屋とほぼ同じ」
「こちらでも快適に過ごしていただけるよう、部屋を整えましてございます」
家具や魔道具に多少の違いはあるけれども、配置場所や品質は同じだね。
オルクスの私室も同様で、年季の籠った家具や魔道具こそないけれども、配置されている品物は全部最高級品だわ。
「こちらには流石にライラ専用の庭園は造れなかったそうだな?」
「申し訳ございません」
「まったく、元公爵家の敷地だからそれなりの広さはあると思ったが、たいしたことは無いな」
魔王城と比べないで?
「でも、さっき窓から見えたお庭は広かったよ。噴水もあったし花壇も綺麗だったし、私は気に入ったなぁ」
「そうか。手狭ではあるが数年の我慢だ。乙女ゲーム期間なるものが終わればさっさと魔国に帰るぞ」
「う、うん」
私について来てはいるけど、取引の予定もないペオニアシ国に長期滞在するのは面倒なんだろうな。
「姫様、ペオニアシ国の姉姫より手紙が届いております」
「返事はやくない!?」
昨日の夜に出してもう返事が返ってくるとか、どんだけ最重要案件になってるの。
まあ、明後日お茶会しましょうって書いたから、急いで返事をしたのかも。
そう思ってオルクスの腕の中から降りて手紙を受け取る。
上質な紙を使った封筒には姉姫の紋章が描かれており、蝋封にもしっかりと姉姫の刻印が押されている。
完璧に正式なペオニアシ国第一王女としての手紙だわ。
封を開けて中身を確認する。
「…………ふふ」
「ライラ?」
「リリス様と会うのがとっても楽しみになっちゃった」
縦読みに気づいただけじゃなくって、向こうも暗号で返信してくるなんて素敵。
「内容は特に問題の無い普通の返事のようだが、何か気に入った部分があるのか?」
「返事を全部読むにはちょっとしたコツが必要なの」
オルクスに笑みを向けて手紙を丁寧に封筒にしまう。
「もう一枚あるが?」
「こっちは後で読むからいいの」
「ライラ」
「とってもいい香りの便せんだよね」
オルクスは内容を教えろと視線で言ってくるけど、伝えるかは今は白紙の紙の内容によるかな。
この国では高貴な女性の手紙に香水を染み込ませることが多いというかほぼ常識。
でも一枚目は二枚目の移り香こそあれどもその形跡はなく、二枚目の白紙には香り付き。
さて、なんて書いてあるのかしらねぇ。
やっとこさペオニアシ国に到着しました(*´▽`*)
姉姫から送られて来た白紙の紙の内容とは!?
次回から、魔王の娘と姉姫のお茶会ですよ٩(๑>∀<๑)۶
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