いざペオニアシ国へ4
夕食までの時間、徹底的にリンと遊んで満足したわ。
ペオニアシ国にあるお屋敷がどれだけの広さかはわからないけど、こんな風にはしゃぐこともあんまりできないだろうしね。
夕食は相変わらずオルクスと一緒に食べる。
食事が基本的に不要だっていうオルクス(私もなんだけどね)は、なんだかんだと言って毎食私と一緒に食事をする。
幼女モードの私とオルクスは食事の内容も量も違うけど、どちらもフルコースであることに変わりはない。
「ペオニアシ国に明日出立するわけだが」
「うん」
転移魔法陣を使用して一瞬での移動だけどね。
「あの国が主催して開く歓迎の舞踏会こそ断ったものの、姉姫から茶会の誘いが来ている。ライラにな」
「ふーん、お茶会かぁ」
如何にもお姫様って感じだな。
「パパは招待されてないの?」
「私にも個人的な誘いはあったな、妹姫の方から。もちろん断ったが」
「そうなんだ」
「姉姫の方は、同盟国からや取引に必要と銘打って、魔国の情報収集をしていたな」
「……妹姫は?」
「魔国に対して何か動いたという報告はない」
「外交的情報戦は姉姫の方が上なのね、そうだとは思っていたけど」
妹姫って本当に攻略対象を誑し込むことに特化してる感じなんだもん。
流石に個人で購入した者を調べるのもめんどゲフンゴフン、そこまでする気はないから、実際に好感度アップのアイテムを使用しているかはわからないけどね。
魔国の事情を少しでも知っていれば、オルクスに直接アタックするよりも、溺愛している娘である私を経由した方が、何をするにしても確率は上がるというのはわかる。
実際に諸外国から私宛の貢物が格段に増えているしね。
婚約の申し込みもあったみたいだけど、オルクスが潰した。物理的に……。
「それにしてもお茶会か」
「嫌なら断ればいい」
「ご招待を受けるのはやぶさかじゃないんだよね」
「ほう?」
ぶっちゃけ姉姫の行動は気になるところではあるから、個人的に探りを入れておきたい。
護衛を兼ねた使用人の随伴は当然としても、出来れば一対一でのお茶会が理想的。
「いくつか条件を付けて、それを飲んでくれるならって感じかな」
「わかった。あとでその条件を書き出したものを返送してやればいい」
「うん」
「姉姫の方は、魔国が取引をするつもりはないと気づいている節があるな」
「へえ?」
「三年以上交渉をしていて取引が実現していないからな。他国の状況に鑑みても希望はないと思っているのかもしれない」
「なるほど」
「だが、ライラと私がペオニアシ国に行くことで希望を見出したのだろう」
「そりゃぁ、チャンスだもんね」
姉姫としては、自分が勝っても負けても継承権争い後の国の復興の為に、魔国との取引を成立させておきたいところだよね。
自分の陣営に引き込めないにしても、国同士での契約さえ結んでしまえばいいわけだし。
搦め手から攻めるのは交渉の常套手段だよね。
「でも、明日出立するとはいえ、高等学院の入学式まで一週間もないでしょ? いつするの?」
「日程に関しては、お前に合わせるそうだ」
「随分な好待遇だねぇ」
「魔王の娘をお茶会に誘うのだからな、そのぐらいは融通をきかせて当然だ」
「うん、パパの基準ではそうだよね」
でも、日程調整が可能という事は大人数でのお茶会はそもそも考えていないという事か。
向こうも一対一でのお茶会を想定しているのかな。
『正規』じゃない行動から考えて、姉姫は転生者である可能性があるんだよね。
妹姫もそうかもしれないけど。
「お茶会の日程が決まれば私も同行しよう」
「なんで?」
「娘が他国で初めて要人とお茶会をするんだ、保護者が付いていくのは当然だろう」
それは当然か? 私は外見年齢操作モードで行くから16~18歳に見えるんだけど、それでも保護者って必要なの?
魔国内では各種族の族長とか、城内で諸外国の大使なんかとお茶会はしたけど?
……あの時もオルクスが同席してたわ。
ま、まあ……勉強しているとはいえ小娘に他国の要人の接待は任せられないよね。
決して過保護で親バカで、私に変な事しないか見張っていたわけじゃないよね?
「私としては姉姫との一対一お茶会が理想なんだけど?」
「ふむ……。では離れておこう」
オルクスの場合、離れていても会話内容は聞こえるだろうなぁ。
聞かれてやましい内容(私にとってはだけど)をするつもりはないけど、大丈夫かな?
集めた情報だと姉姫は馬鹿じゃなさそうだし、簡単に悪手に出るとは思わないから、オルクスがその場で処分という最悪の状況はないと思いたい。
「パパがそう言うと絶対に引かないもんね」
とはいえ、お茶会は出来れば外で護衛や使用人からは見えつつも、会話が出来るだけ聞こえないように配慮してもらおう。
一部(主に魔族)には無意味だろうけど。
「それにしても、こっちの使用人をペオニアシ国にそれなりの人数連れていくけど、大丈夫なの?」
「留守を任せている者で運用できるようにしているし、何かあれば転移魔法陣があるからな」
「そうなんだけどね」
個人的に魔王城の警備とか、魔王が不在という事で気を緩ませたり邪な行動をする人が出るんじゃないかって心配してるのよ。
この話題は何度も出しているから、オルクスとしてはそのたびに改善しているみたいだけどね。
『フルフル』のゲーム期間中は魔国で騒ぎがあるなんてイベントはなかったから、大丈夫だとは思うけど、淑女教育の一環で魔族の全種族族長にあった結果、オルクスというか魔王種による絶対王政なんだってしみじみ思った。
精霊族の族長みたいにオルクスに対して遠慮がない人も中には居たけど、ほぼオルクスに恐縮していたよね。
給仕についた人が緊張のあまり手先が震える事もあったし、オルクスに視線を向けられて気絶した人もいたほどなんだもん。
流石に種族を根絶やしにするという事はしないらしいけど、無礼や失態を行った人の家族を巻き込んで処分なんてことはよくあるらしい。
流石魔族の間で『冷酷無慈悲残虐非道の鉄仮面』と言われているだけあるわ。
私が知らないところでも失われている命があるんだろうな。
「そういえば、ライラが話していた和食だが料理人達がやっと出せるレベルのものを作れるようになったそうだ」
「やった!」
魔国からかなり離れた場所に日本っぽい文化の国があって、そこと技術取引をしたんだよね。
とはいえ、人間が魔国に長い期間滞在すると体調不良するから、魔国の人が向こうの国に行って主に料理や農作物の技術を学んでいる。
あっちも便利な魔道具と魔晶石が手に入るから喜んで契約してくれた。
魔国の人にとっては和食というのは全く新しい料理だから、熟練の料理人でも一から修行する意気込みだったらしく、提供できる許可が出るまで長かったな。
いろいろな種族が居るから生魚を食べる事にさして抵抗もなかったし、納豆なんかに対してもなぜかあまり抵抗意見はなかった。
「その料理人達も連れて行くから、向こうでの食事はいつも通り好きなものをリクエストしていいぞ」
「フルコースじゃなくなるけどいいの?」
「かまわん」
よし、オルクスの許可も貰えたしたまに和食の日にしてもらおう。
お米にお味噌汁の食卓が待ち遠しいなぁ。
もちろん今出されているフルコースも美味しいんだけど、記憶が和食を恋しがっているのよ。
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