いざペオニアシ国へ2
そしてもう一つ、姉姫の行動も引っかかる。
高等学院に留学してくる者や、その時期にペオニアシ国に来る攻略対象はともかくとして、本来中等学園時代には味方に引き入れることが出来ない攻略対象『など』を味方にしている。
他にも令嬢を経由して貴族諸侯を引きこんでいるみたいだし……。
「二人の姫は色々な意味で注目しないとなぁ」
「男に媚びを売って女に嫌われている妹姫と、令嬢を中心に貴族の覚えめでたい姉姫ですよね」
「イオリ、当たってるけど言い方が悪いわ」
思わず突っ込んでしまったけど、否定できないところが切ないわ。
「しかしながら、姉姫を悪役にしたてて男を引き込み他の女性に嫌われているのですし、能力的にも姉姫の方が王位に近いのではありませんか?」
「うーん、そう言われると否定は出来ないんだけど」
『フルフル』の怖いところは裏切りと逆転。
いくら令嬢経由で貴族諸侯を味方にしても、妹姫陣営にどんな人材が集まるかでいくらでも変わる。
味方にしたキャラの能力がそのまま自分の陣営の能力になるからね。
妹姫自身も能力を上げないといけないけど、領地経営や領地戦争なんかは引き込んだ仲間に任せてもいい。
「どちらにせよ、継承権争いで被害を受けたところはたまったものじゃありませんね」
ヴァンスの言葉に頷く。
そして、被害を受けたモノをいち早く復興するために他国との外交も重要科目になる。
継承権争いの最中でも領地の発展の為に、物資や技術のレベル上げで外交が必要。
ゲームの都合上、継承権争い真っただ中のペオニアシ国に各国の要人が集まるのはそのせいだね。
ちなみにもっとも重要で出来る事なら絶対に味方につけておきたいのが魔国。
すなわちオルクスを味方に引き入れる事。
難易度くっそ鬼畜だけど、味方に居ればその分恩恵が凄まじい。
「姉姫の方は魔法を使えるものを多数抱えているそうですし、将来を考えているのも姉姫の方でしょうね」
「そうだねぇ」
資料によれば、ペオニアシ国の魔法省を七割以上掌握しているらしい。
攻略対象でもある魔法省のトップを味方に引き入れて、その他攻略対象でもない優秀な人を男女問わず味方にし、それを足掛かりに人脈を広げた結果だっていうけど、それが魔法省だけじゃないんだよね。
軍部、要するに騎士団の方にもその手を伸ばしているみたい。
騎士団にももちろん攻略対象はいるけど、それに拘らずに優秀な人を引きこんでいるんだから、確かに姉姫が王位についた方が国は発展しそう。
ただ、妹姫の影響なのか貴族『子息』からの印象は悪いらしい。
一部の令嬢からも、『婚約者を引き留められない魅力のない堅物』と言われているそうで、それに反発する令嬢との小競り合いがあるみたい。
妹姫はその小競り合いを利用してさらに姉姫を悪役に仕立てている。
うーん、なんともいえないけど二人とも行動が『正規』のものじゃないんだよね。
もちろんゲームに限りなく近い世界とはいえ、現実世界なんだから差異は生まれて当たり前なんだけど、それにしてもなぁ。
「しかしながら、姉姫と婚約しておきながら妹姫陣営につくとは、姉姫の婚約者は随分痴れ者ですね」
「ノーマ……」
「それは他の妹姫に侍っている子息にも言えますが」
クスクスと笑うノーマに何とも言えなくなる。
ペオニアシ国の中等学園も高等学院も『貴族』が通う場所だ。
婚約者がいる子息もいる。
というか、中等学園で登場する攻略対象の半分以上に婚約者がいる。
個人イベントでは妹姫との好感度が一定以上になると『婚約破棄』なんてイベントも起きたりする。
けれどもそのイベントは諸刃の剣。
婚約破棄された相手の家は姉姫を支持するようになるからね。
これは実は領地の発展レベルに関わってきたりする。
今思い出しても、バランスが厳しい乙女ゲームだったわ。
「調査資料を見る限り、高等学院から本格的に公表される継承権争いですが、ペオニアシ国の貴族と平民はすでにどちらにつくかで揺れているようです」
「そりゃそうでしょう。国と自分の未来がかかっているもん」
今のペオニアシ国の王様は愚王である(オルクス談)。
確かに、継承権を二人の姫に競わせるのはともかく、国土を二分して争わせるのはどうかと思う。
『フルフル』はそういうゲームなんだけどね。
「それにしても面白いですね」
「ん? ノーマは何か気になる事があるの?」
「気になると申しますか、本来であれば亡くなった王妃の子供で長子である姉姫を立太子しても良いでしょう? 能力や性格に多大な問題があるのなら別ですけれど」
「そうだねぇ」
「しかしながら実際は二人の姫による継承権争いを始めるとは、ペオニアシ国の王は随分と亡くなった側妃の娘を女王にしたいようですね」
「あー、それねぇ」
妹姫の母親は元男爵令嬢だが、国王の寵愛を受けていた。
調査によれば本当は彼女を正妃にしたかったものの、そのようにすれば王位継承権は剥奪すると言われ、泣く泣く今の王妃と結婚したらしい。
その後、愛しているのは側妃であって正妃ではない、結婚したのは自分が国王になる為に仕方がなかった。
正妃にしてやったのだからありがたく思え。
というような発言をしたことで、貴族の多くから顰蹙を買って求心力が低下。
それを正妃が必死にフォローをして、国政を維持したというのが事実らしい。
おかげで国王の仕事もしていた王妃が過労とストレスによりお亡くなりになってから、国政は生前に王妃が創立した元老院が取り仕切っている。
しかし、今回の継承権争いは国王のごり押しで決まった。
元老院としてはこれを機会に役立たずを排除したいという狙いがある。ついでに側妃の娘も無能であれば排除したいと言う思惑がある。
ちなみに側妃は何処からか入手した美貌を保つ薬なるものを飲んで死んだ。
国王は毒殺を訴えたけれども、側妃の遺体から毒は検出されなかった。
死亡時の詳しい症状を調査したところ、全身に発疹が浮かび呼吸困難の末に意識が混濁し、そのまま帰らぬ人になった。
私はこの症状について知っている。
アレルギーだ。
どこかから入手した美貌を保つ薬なる物の中に、側妃がアレルギーを起こす材料が使われていたのかもしれない。
まあ、側妃の遺体も火葬されちゃったし、当時の記録を調べた結果でしかないから断言はできないけどね。
ノーマが言うように、ペオニアシ国の国王は妹姫を側妃代わりに寵愛しているから、自分の後を継がせたいけど後ろ盾も弱いし、瑕疵の無い王妃の娘を押しのける理由がない。
無理をすれば、最悪王位を剥奪され、妹姫と一緒に内乱罪に問われる可能性がある。
それを回避するための継承権争いだ。
お荷物を排除する口実が欲しい元老院と、愛する妹姫を女王にしたい国王の思惑がうまい具合に合わさった。
それでも、元老院は純粋に性格や能力で競わせようとしたのに、国土を二分するまでに至ったのは国王のごり押し。
領土をからめての争いなんて元老院は望んでないもん。
それを考えると、確かに今のペオニアシ国の王様は愚王だよね。
亡き王妃の手配によって姉姫の婚約者が公爵家の子息だから、妹姫の婚約者も(強制的に)公爵家の子息にしたもん。
資料を見る限り、妹姫にしっかりと攻略されてるみたいだけどね。
うーん、この状況はどうなんだろうな。
姉姫の陣営のある北側は亡くなった王妃の実家の公爵家の領地を中心にしている。
一方で妹姫の陣営がある南側は側妃の後見をした伯爵家の領地を中心にしている。
ちなみにこの伯爵家、歴史はあるが財政的に潤っているわけではない。
側妃の後見になったのも、後見になる事で当時は王太子だった国王から多額の支援金を貰える契約をしたから。
継承権争いでも妹姫の陣営につくことで、国王から支援を受け取る契約を結んだらしい。
元老院が国の財政を管理しているから、国王が動かせるのは私財のみ。
私財を投じてまで妹姫を王位につけたいのかぁ。
ちなみに妹姫はその事を知らないので、伯爵家は自分の絶対な味方だと思っている。
設定資料にもそんな裏事情はなかったしね。
調査することで、ゲームをしていた時には知らなかった裏事情が分かって、なんか複雑だわ。
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