生誕半年記念祝賀会2
話している間にオルクスが殺気(?)を止めたのか、新しい専属になる三人が頭を下げたままだけど、少しだけ緊張を解いたのが分かった。
私には一切わからんけど、そんなに殺気出してたの?
「頭を上げよ」
オルクスの言葉に三人が頭を上げる。
さっきから思ってたけど、三人とも攻略対象になってもおかしくないレベルの美形だわ。
いや、一人は女の人の姿だけど。
ヴァンスは黒髪に神秘的な紫の瞳で、なんというか色気がすごい。
首から上以外一切肌を露出していないのに、色気がやばい。
脱がない色気とか、顔面偏差値の暴力ってこういうのを言うんだろうな。
イオリは緑の髪に薄い赤い色の目。三人の中では一番年下に見える。
なんか元気な少年を体現しましたって言われたら納得するかな。
お兄ちゃんとか弟、とにかく男兄弟にいると楽しそう。
ノーマは優しそうなお姉さんかなぁ。金髪に青い目ってお人形みたいで綺麗。
これで雌雄同体って龍人族ってみんなそうなの?
でも姿を変えられるって微妙に雌雄同体って言わなくない?
じっと三人を観察していると、ヴァンスがにっこりと微笑みかけてくる。
わぁ、顔面偏差値暴力の色気化け物。
「陛下、姫様。わたし共は早速今後の為に一度この場を離れたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「許可しよう」
オルクスの言葉に三人は頭をもう一度深々と下げると、いつの間にか傍に居た使用人についていった。
「どうだライラ、気に入ったか?」
「いや、話しても居ないからわかんないけど?」
「不快感や嫌悪感、三人に魔力を向けられて気分が悪くなるような事は?」
「魔力を向けられたかはわからないけど、そういうのはないよ」
むしろ美形を見れてご褒美です?
「それなら魔力の相性も悪くはないな。魔力を向けられてもわからないのは、ライラの潜在魔力が高すぎるせいだな」
「私って魔力が高いの?」
「古代宝石精霊だからな」
うん、その説明不足なのはやめよう? さっぱりわからないよ。
私に魔族の常識かもしれない知識を求めないで。
助けを求めるようにナムタルを見る。
「古代宝石精霊の核となる稀少宝石はそもそも強い魔力を持っています。そこに強い魔力と魂のエネルギーが入り込む。ここまではよろしいですか?」
「うん、それは聞いた」
「そこに肉体を作り上げるために、魔王陛下が強大な魔力を注がれます」
「うん」
「したがって、元々の魔力に強い魔力がドーンと加わって、魔王陛下の魔力でバーンと底上げされます。それは潜在魔力の高さに繋がりますし、姫様は魂の記憶を失わないほどの魔力とエネルギーの持ち主でしたので、倍プッシュ以上ですね」
わかりやすいようでわからないのは私の頭が悪いの?
「とにかく姫様はすごいのです」
オーケー。全く分からないという事が分かったわ。
「陛下がさせないでしょうが、ちゃんと訓練して本気で戦えば、勝てるのは陛下ぐらいになるでしょうね」
「存在チートぐらいしか勝てないって何!?」
私はそんなすごい存在じゃないよ?
『フルフル』に登場どころかモブですらないイレギュラーだよ!
ナムタルはニコニコと私をすごいと言ってくれるけど、『フルフル』の設定が壊れるのはなぁ……。
大分手遅れな気がしないでもないけど。
本当にシナリオとか設定壊したくないなら、ペオニアシ国の高等学院に行かないという選択肢を選ぶべきなのよね。
それでオルクスにはゲーム通りに身分を隠し、公爵としてペオニアシ国に……いかねーな。
私がいる以上、オルクスが魔国を離れるとかしないわ。親バカだもん。
それにほら、『フルフル』ユーザーとしては近くで、生で、この目でイベントを見たいと思うものでしょ?
だから、ペオニアシ国の高等学院に留学したいと思う私は悪くない。
脳内で自己弁護をしていると、いつの間にか魔道具が片付けられて毎度おなじみの祝賀会の光景が広がっていた。
いやまぁ、いつもより参加している魔族の族長は多いけど。
今日参加しなかったり、オルクスの伝達を聞いても同伴者を連れてこなかった人は、「うちのは選ばれないので無理です」って宣伝しているようなものらしい。
そもそも種族的に無理だろうっていう所はあるらしくて、ネルガルも全種族はそもそも集まらないって言ってた。
多少の誤差はあれども、『人間らしい』姿を維持できる種族って限られているんだそうだ。
魔族も色々なんだなぁと思ってしまう。
「しかし、精霊族やエルフ族が落ちるとは思いませんでしたね」
ネルガルの言葉にナムタルも頷いている。
「見た目詐欺が大量にいますからね、あそこら辺は」
「あ、でも精霊族は族長の孫が次期族長と目されるレベルですけど、好色でしたね」
「それは何があってもこの場に連れてこないでしょうね」
「外見年齢ぐらい精霊族なら操作できますけど、姫様に何かあったら大変ですから」
その精霊族の族長の孫はペドもいけるの!?
「エルフ族は、ここ千年は不作が続いているようだな」
「それってあの噂が事実って事ですかね?」
「噂って何?」
「精霊族の族長を追いかけまわしているせいで、自然の怒りを買っているとかそういう噂です」
「エルフ族は自然の力に結構左右されますからね」
言われて思わずエルフ族の族長を見るけど、ずっと頭を下げた体勢のまま動かないでいる。
今日初めて会った精霊族の族長とも距離があるし、追いかけまわすとかちょっと想像できない。
確かにエルフって自然と共に生きているっていうイメージだから、自然に嫌われたら弱くなるとかはありそう。
精霊って自然と直結してそうだし。
しかし、追いかけまわすっててっきり求愛行動でもしているのかと思ったけど、どっちも女性だよね?
百合を否定しないというか、美しければなんでもいいとは思うけど、あれかな、「お姉様~♡」みたいな感じなのかな?
…………悪くない。美しければ大抵のことは許されるよね。多分!
あ、でもよくあった悪役令嬢物みたいな冤罪押し付けての婚約破棄とかの犯罪は、美しくても許されないわ。
虐待とかいじめも美しくても許されないよね。
『その身分の常識的範囲』での行為はいいと思うけど、やりすぎは良くない。
前世の経験から、世の中には普通の当たり前が出来ない人もいるんだし。
「全力疾走とか、したかったよねぇ」
「すればいいだろう」
ぼそりと呟くとすぐさまオルクスが反応する。
この体では出来るだろうけど、前世では無理だったんだよなぁ、と考えてしまう。
「魔狐の散歩の際にでも前にライラ用に作った庭園を走ればいい」
「庭園、ね……」
あのバカでかい庭園は確かに走ったらさぞかし気持ちがいいだろうけど、庭園というには規模がおかしい。
何㎡あるんだろう。よくわからないけど、何千㎡では済まない気がする。
オルクスの従魔の古代龍がいる庭園の規模もおかしいよね。
お金持ちというより、魔王の常識についていけないわぁ。
「ああそうだ、肝心の魔狐を渡していなかったな」
そう言ってオルクスが手を上げると、扉が開いてそこから台車に乗った黒金の魔狐が運ばれて来た。
檻に入れられて、ということはなく、赤いビロードの上にチョコンと座っている。
あらやだ、可愛い。
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