ドルドアは魔国に避難したいらしい5
美形が眉間にしわを寄せるとか怖いなぁ、と思っていると、オルクスが私の額に自分の額を当ててくる。
「ライラに恋愛はまだ早い」
「恋愛したいと言った記憶はないのだけれど……」
確かに前世ではリアル彼氏なんていなかったし、どれも画面の中の恋愛だったとはいえ、この幼女の姿で恋愛したいとは思わないよ?
「だが、言っていた乙女ゲームという物は恋愛を楽しむものなのだろう?」
「そうだねぇ、『フルフル』は他にも色々な要素があったけど、主軸は攻略対象との恋愛だったね」
「つまりあの子供はその攻略対象……恋愛対象だったのだろう」
「うん、確かに人気キャラだったね。強かったしかっこいいし」
「嫁にはやらないぞ」
「飛躍しすぎじゃない?」
そもそも画面越しの前世はともかくとして、本日初対面ですが?
確かに、前世の記憶の影響でちょっとはときめくかな? なんて考えたけど、そんな事もなかった。
まだ十三歳だからかっこいいと言うよりもかわいい印象だったしね。
それにドルドアも見た目3~5歳の私に「好きです!」とかいきなり言われても迷惑でしょ。
オルクスの馬鹿らしい発言に呆れながらも、抱えられて部屋に戻り軽食を食べてお茶を飲んだ後に、生誕半年記念祝賀会用のドレスに着替えさせられる。
お金持ちの服と言うか、この世界のお偉いさんの服って、なんで一人では着ることが出来ないような構造になっているんだろう。
前世での簡単に着脱出来たワンピースが懐かしい。
デザイナーさんにそういうのも着てみたいって言ったら、魔王の姫君である私がそんな平民が着るような物を! なんて真っ青になって首を横に振られたよ。
ペオニアシ国の中等学園や高等学院の制服は、一人でも着脱出来そうなデザインなんだけど、イベントとかのドレスはやっぱり人の手を借りないと駄目そうだったよね。
でも、攻略対象の好みに合わせてドレスを着て、褒めてもらった時の甘いセリフはたまらなかった。
特に普段はそういう系の甘いセリフを言わない攻略対象の破壊力は、なんというか画面の前で悶えるぐらいにすごかった。
無意識に色々な攻略対象を思い出してニマニマしてしまう。
「ライラ」
「ぅひゃいっ!?」
ひっくぅいオルクスの声に肩が跳ねる。
「恋愛は、まだ早い」
「あ、はい」
わぁい、美形の無表情でのガン飛ばしは鏡越しでもこわぁい。
コクコクと頷くとオルクスは納得したのか、軽く息を吐き出して手を止めて見守っているメイド達に作業を再開するように言う。
それにしても私が着替えるのをじっと見てこなくてもよくない?
こんな外見ではあるけど記憶のせいで精神年齢は十代後半なんだけどな。
それで言えば専属護衛騎士も部屋に居るから微妙なんだけどね。
あー、でもペオニアシ国の高等学院に入れば、中にまではメイドとか護衛騎士は入ってこられないのか。
…………つまり、学院内のイベント覗き見し放題では?
あ、そう考えると俄然やる気が出て来た。
中等学園のイベントが見られないのはちょっぴり残念だけど、まぁ、仕方がないよね。
マナーも何も出来ていない私が留学生として潜り込むのは無理だもん。
「今日の祝賀会には、多数の族長が出席する予定だな?」
「はい、陛下」
ニマニマしながら髪のセットをしてもらっていると、背後からそんな言葉が聞こえてくる。
「至急、各人にペオニアシ国の高等学院に通ってもおかしくない見た目の、一番優秀な者も連れて祝賀会に出席するように通達しろ」
「かしこまりました」
オルクスの言葉に思わず振り向きそうになって、メイドに頭を押さえられる。
なんだか嫌な予感しかしないんだけど?
「ライラが教育を受ける間に、その者達をライラの専属従者として教育する」
「かしこまりました」
「ああ、一人はメイドの方がいいな。男だけでは手が回らない時もあるだろう」
「では男女各一名を選出するように通達いたします。その中からより良い者を選ぶのがよろしいでしょう」
えぇ、まさかとは思うけどペオニアシ国の高等学院に同伴させるとか言っちゃう?
「ライラ、一応聞いておくがその乙女ゲームと言うものに魔族の子供は登場するのか?」
「え? えーっと、魔族は登場するけれども、学院に通う人はいなかったわ。冒険者とか、外交官とか騎士とかだったわね」
「ならばよい」
なにが!?
「選出した者は、専属従者や専属メイドとして問題ないように教育しろ」
「かしこまりました」
何をかしこまってるの!?
「パパ、もしかしなくてもその人たちの教育が終わったら、私と一緒に学院に通わせちゃったりするつもり?」
「もしかしなくともそのつもりだ」
「なんで!?」
「継承権争いなど起きている国、しかもその当事者である二人の姫が通う学院だぞ。何があるかわかったものではない」
「まあ……それぞれの陣営での小競り合いはあるけど」
「それに、乙女ゲームの攻略対象とやらが居るのだろう。ライラに不埒な真似をするかもしれない」
「私は本来存在しないから、関係ないんじゃないかな?」
「魔王であるこの私の娘だぞ、関係ないわけがない。人間からしてみれば甘い汁を吸おうとすり寄るのに丁度いいだろう」
絶妙に否定しづらい。
オルクスは既に私に従者を付けることを決定事項にしてしまっているのか、自分の専属護衛騎士を伝令に走らせてしまった。
ただでさえ私というイレギュラーがいるのに、これ以上『フルフル』にイレギュラーを出したくないんだけどな。
「ライラの周囲を魔族の実力者で固めておけば、人間も馬鹿な真似はしないだろう」
「いや、周囲に人が居たらイベントの覗き見を出来なくなるのでは!」
思わず叫んでしまうと、オルクスが呆れたようにため息を吐き出す。
「世の中には巻き込まれ事故と言う言葉がある。ライラが言っていたイベントとやらに巻き込まれて何かあったら大変だろう」
「学院でそんな怪我をするようなイベントはおき……」
あったわ、怪我というかそこそこ大きなイベントから小さなイベントまで、しっかり用意されていたわ。
「起きるんだな?」
「……はい」
でもあれって、主に妹姫に対する姉姫一派の嫌がらせだから、やっぱり私には関係ないと思うんだよね。
確かにオルクスを味方に引き入れるために、私に近づくっていうのはあるかもしれないけど、だからこそ、私に対して嫌がらせっていうのはないだろうなぁ。
私が言うのもなんだけど、オルクスの私への溺愛ぶりはおかしいし。
そんな風に溺愛されている私に嫌がらせなんかしたら、それこそオルクスを敵に回すようなものだよ。
しかも、嫌がらせをしているのって自称姉姫の味方っていう令嬢で、姉姫は関与してないんだよね。
むしろそれを知って「恥知らずな行動はおやめなさい」とか言っちゃうし。
うーん、やっぱり姉姫って、敵陣営ではあるけど嫌な子じゃないんだよね。
戦略的妨害工作はお互い様だし。
何よりも姉姫陣営が敗北した際に、自分の命と引き換えに味方に付いていた者に害をなさないって嘆願する潔さを持っているしね。
妹姫は、姉姫陣営が勝利すると、攻略対象の中で一番好感度が高い人が迎えに来て、二人で他の味方と国を見捨てて逃げるっていうエンドだし。
その後の味方陣営の人がどうなったかわかんないんだよね。
姉姫だからひどい扱いはしないだろうっていうのが予想だったけど。
妹姫が逃げ出したせいで、表向きは国外追放にしたって姉姫が公示するんだよ。
ドルドア登場編でしたぁ!
次回からはオルクスの本日のメインイベント、ライラの生誕半年記念祝賀会です♪
ライラの残りのお相手候補&従魔も出ます٩(*´꒳`*)۶
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こんな展開が見たい、こんなキャラが見たい、ここが気になる、表現がおかしい・誤字等々もお待ちしております。




