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七 永遠の友と刹那の恋人

 その夜は二時間おきに交代して見張り。魔物の襲撃というよりは、他の連中が何かをやらかさないかを見張っている。

 ノージョは、俺が一人で見張ることに難色を示した。当然のことだったが、ナツミが押し切って、こうして今は一人。焚いた火の前でぼんやり座っている。

 一応、時々他の天幕の側も確認するが、怪しい様子はない。ガクラが完敗したことで、彼の仲間はおかしな動きをしないだろう。他もまぁ、魔物と戦っていない今夜に何かをする可能性は低い。俺たちに恨みがあればともかく、襲うなら獲物が手に入ってからだ。


 なお、ナツミが俺一人で大丈夫と言った理由は言うまでもない。

 多少の距離があっても、俺の記憶は常に覗かれている。彼女が言うには、俺の脳の一部に二人が共用できる部分を作った状態らしい。何を勝手にと思うが、今はそれが役に立つのも事実。

 ただでさえ俺には、他人の記憶が横たわっている。その記憶は日々更新されているようで、時々知らない情報が混じる。要するに、記憶の持ち主はどこかで生きている。

 他人の記憶を覗きながら、俺自身も他人に覗かれる。恐らく、こんな体験をしているのは世の中で俺一人だろう。あり得ないにも程がある。


「そろそろ交代」

「あ、もうそんな時間か」

「貴方のおかげで正確」

「職人のおかげだろう」


 注文が一年待ちというウセンゲンの懐中時計。討伐者垂涎の品を、ノージョもナツミも持っている。持っていないのは、誰かの記憶から情報を提供した俺だけだ。

 もっとも、今の俺が持っていれば、夜盗に襲われるのがオチ。二人に護られている形が一番だと思う。


(記憶の中の彼は、これを使っている?)

(いや、もっとよく分からないのを使っていたはず。それは教えようがなかった)

(今伝えることはできる?)

(え? ………ああ)


 深夜の山の中。時計の大きさでは、他の連中の位置からは見えないか。

 前のめりになってくるナツミに思わず苦笑いしながら、記憶の中の時計を思い出す。

 誰かの記憶は、気味が悪いほどに整理されていて、必要な情報を取り出すことは難しくない。それは便利というより、第三者の悪意を感じる部分だ…と、ああ、こんなものだったな。


「はい」

(声出すなよ。というか、非常識過ぎる)

(知ってる)


 記憶を取りだした次の瞬間、ナツミの手のひらにそれはあった。

 腕時計。針とは別に文字が動く。動く?


(動いてる?)

(動いてる)


 俺が伝える情報は、あくまでその見た目だけだ。だからそれを再現すれば、中身空っぽの置物ができるはずなのに、現れた時計はちゃんと時を刻んでいる。

 あり得ない。

 いくら何でもそれはない。


(お前と組んでいいのか、ますます分からなくなった)

(今は組んでる。そして役に立つ)


 ………まぁ。

 この討伐の間は、確かに役に立つのかも知れない。


(仮に、記憶の中から武器に関するものを伝えれば、未知の武器をお前が作ってしまうのか)

(そこは慎重にすべき。何よりも、貴方がいろいろ目をつけられる)

(武器が自分に向けられる可能性、か)


 新しい武器の使用先が、魔物に限定されるはずはない。沢山の人が死ぬきっかけが自分になる。もちろん自分自身も危険になる。

 こちらが気をつけていれば済む問題でもないだろう。未知の何かを生み出す力があると知られた時点で、捕まって武器製作を命じられるだけ。はぁ…。


(大丈夫。貴方の嫌なことはしない。今は少しでも眠って)

(…そうさせてもらう)


 これで横になったって眠れるとは思えないが、ナツミと一緒にいると頭が混乱するばかり。一人だけの天幕に籠るだけでもマシかも知れないな。



 少しずつ白みはじめた時。見張りと仮眠の時間は終わる。干し飯を水で戻しただけの朝食で、俺たちは先陣を切る。

 俺たちっていうか、二人が。俺は後ろをついて行くだけ。


「しっかりした道がついてるんだな」

「元は修験者の籠る山だったらしい。ガクラ君が子どもの頃には、もうそんな人はいなかったそうだけどね」

「へぇ」

「それに、途中に祠が残っているそうだ。僕はそこに行くのが楽しみで、昨日はあまり眠れなかったよ」

「楽しみって、ノージョも修験者だったのか?」

「君にはそう見えるかい?」

「いや全く」


 要領を得ない会話だが、ノージョは別に嘘をついているわけもなさそうだ。まぁ、祠の訪問が楽しみだと嘘をつかれても、返事のしようもない。

 若葉が揃いはじめた広葉樹の明るい森のなか、徐々に高度を上げていく。左右は笹に覆われているけれど、道はしっかりしていて藪をこぐ必要もない。ここまでは快適な山登りが続いている。

 残念ながら山登りが目的ではないわけだが。


 一時間ほど登ると三叉路があり、側に傾いた小屋が建っている。

 雨宿りにも使えなさそうなボロボロな小屋を見て、ノージョが駆け出した。まさかこれが祠なのか?


「薬師」

「そう、薬師だ。ナツミは博識だね。そして僕はちょっとだけ落ち込んでしまったし、反省している。せっかく神に出逢えたのにガッカリするなんて、僕はどうかしているよ」

「…なるほど」


 要するに、何か別の神さまが良かった、と。長々と聞かされるノージョの懺悔に、信心深いという感じがしないのはなぜだろう。元から信心のかけらもない俺が考えても仕方ないので無視することにした。

 ボロボロの外観だけで、中の神さまを当てたナツミも…、それ以上確認もしないのだから俺の同類だ。そのくせになぜ分かるのかと思うが、ノージョの言う通り博識なだけか。



 せっかくなので祠の前で小休止して、改めて武装を確認する。ここから先で魔物に出会う可能性が高いらしい。

 ノージョは金属製の鎧兜を着込んで、腰に短剣、そして右手で長槍を持つ。一方のナツミは皮鎧の軽装だが、よく見ると一部に金属がはめ込まれている。武器は短剣二本と、腕の長さほどある片刃の剣。

 そして俺は!


「本当にこれで行くのかい? カズヤ」

「これで行くのかい? ナツミ」

「何か問題?」


 武器屋で買った皮鎧。これはまぁいいだろう。金属鎧なんて着ても、重くて動けないだろうし。

 問題はそう、背中にあれだ。ナツミがなぜか買った竹籠だ。いや、俺も今から魔物退治なんだよな? なぁ?

 腰に短剣は差しているけど、装備はこれだけ。どう見ても山菜採りの格好だ。


「改めて聞く。カズヤは魔物を前にして、踏み出す勇気がある?」

「あったらまずいという自覚はある」

「なら十分」


 役立たずと承知の上で、それでもここまで連れ出す理由。ついでに山菜採りしたいから? そんなわけはない。

 冷静に考えれば、思い当たることはある。

 未知の敵を前にして倒せない時に、ナツミに可能性のある武器を与えることができる。あくまで可能性に過ぎないし、出来ればそんな事態は避けたいが。


 祠の先の道は、次第に狭い尾根になった。ただし鬱蒼と木々が茂っているので、見通しは利かない。

 この状況で襲われたら、ちょっと辛い。ちょっとなのは前の二人で、俺にとっては絶望的だ。今さらのように、無茶な場にいることを理解する。


「ところで、僕たちは仲間になったのだから、少しは互いについて知りたいと思わないか」

「思わない」

「おいおい友よ、相変わらず取り付く島もないな」


 登っている最中に、突然身体をよじって妙なポーズを決めるノージョに、俺もちょっと苛立った。

 提案の内容は別に構わないが、こんな時に切り出すことはないだろう。


「ナツミ、しばらく先頭を代わってくれないか」


 しかしノージョはナツミの反応など最初から気にする様子もなく、こちらに近づく。正直、体力的にも二人に劣るわけで、山登りの最中に話しかけられるだけでも辛い。分かってくれないだろうか。無理か。

 仕方なく俺は、ここ数日の話をかいつまんで伝えた。もちろん、二人の能力には触れず、ただ彼女に買い取られたとだけ。


「じゃあ君は、ナツミに鍛冶手伝いでの技量を認められて、抜擢されたばかりなんだね」

「いや、だからどうしてそんな話になる。ただ理由も分からないままに連れてこられただけだ」

「ならカズヤ、やはり君とナツミは恋人同士なのかい?」

「ま、ま、まさか! だから二日前まで顔も名前も知らなかった相手…」

「誰かと恋に落ちるのに時間は必要かい?」

「はい?」


 どんどん話が飛躍する。既にいつ魔物に出会ってもおかしくないというのに、色恋話を続ける意味は何だよ。


「僕には心に決めた人がいる。一度だけ、いや、一瞬だけその顔を見ただけで、もう夢中なんだ」

「そ、そうなのか」

「君がうらやましい。出会った彼女と手を携えて戦えるのだろう?」

「だから彼女じゃないって。そんなこと考えたこともないから」

「果たしてそうかな、カズヤ」


 うむ。もう俺の話を聞く気はないな。

 ノージョが誰に一目惚れしようとどうでもいい。心底どうでもいいんだぜ。


「君を助けようと現れた彼女。僕にはまるで、白馬に乗った王子様のように神々しく見えた」

「王子どころか女だけど」

「蝶よ薔薇よと君は大切にされている。そう感じただろう?」

「白布で顔を隠した女を見て、どうやればそんな妄想に行き着くんだ」


 まぁ隠れているのがとんでもない美女なのは事実。とは言え、今の俺にとってナツミは、一宿一飯の恩人だが警戒すべき相手だ。そして、何に警戒するのかをノージョには伝えられないのだから、曖昧に相槌を打つぐらいしかできない。

 結局、その後もノージョは、一目惚れしたという相手のことばかりダラダラしゃべり続けた。一度しか会っていないから、ただ同じ話題を繰り返すだけ。もしかして、これをやらかすせいで、ノージョには決まった仲間がいないのでは?


「現れた」

「さすが我が友。気づくか」


 そこに突然聞こえたナツミの声。

 無駄話ばかりのノージョも、ちゃんと気づいたらしい。全く余裕あり過ぎだろう。


※ノージョの思い人は、いずれ明かされていくでしょう。そこまで書けるか分かりませんが。

 そんなことより、いよいよ次が魔物討伐ですね。まるで野生の何とかが現れるような展開にご期待ください。

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