表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/170

[No.75] 【お悩み相談】屋根裏の迷惑妖精に困ってます

♂ ピッポ 11歳(サバーブ村・食事処の息子)


 ボクのうちでは食事処しょくじどころを営んでいるのですが、近頃、有るはずの食材がなぜか無くなっているということが起こりはじめました。


 まっさきに疑われたのはボクです。こっそり盗み食いをしているのだ、と親から言いかがりをつけられました。子供はそういうことをするものだという思い込みのせいだと思います。でも違います。ボクはそんなハシタナイまねはしません。盗み食いなんてしていなかったのです。それなのに怒られてしまいました。


 疑いはすぐに晴れました。無くなっていた食材にはパン類や果物の他に、くんせい肉がありました。ボクはベジタリアンなので、お肉は食べないのです。その点を指摘したことで、すぐ納得してもらえました。


「ピッポじゃないとすると、妖精でも住み着いちゃったのかねぇ」


 ボクの村のまわりには妖精が多く住んでいるようで、たびたび村のなかにも現れたりします。いたずら好きの種族が目立ち、少し前には若い女の人が〝ピクシー〟からひどい意地悪をされる事件も発生していました。


 ボクは「妖精のしわざならはやく見つけて追い出そう」と親に進言しんげんしました。しかし、父も母もそろって首を横に振りました。「もう少し様子を見よう」というのです。商売が繁盛するかもしれない、と。妖精には迷惑をはたらくものが多いけれど、なかには富をもたらしてくれるような役に立つものもいるらしいのです。それが見極みきわまるまで、そっとしておこうという話なのでした。


 ボクはちょっと嫌でした。親には謝ってもらっていたのですが、ボクが盗み食いをするような人間だと一度でも疑われてしまったことがショックで、その原因をつくったとみられる妖精が憎らしく感じたのです。それに、人の家のものを断りもなく盗み食いするような妖精が、いい妖精だとも思えません。だからボクは、犯人妖精を探し出してボクに謝罪させたのち、被害が増えないうちに家から退去させることに決めました。


 妖精の捜索には手こずりました。日中は両親の手伝いをしながら、食事処になっている一階をくまなく探してみたのですが、見つかりません。手伝いを終えると、居住空間になっている二階を徹底的に調べました。それでも見つけることができません。


 何日か経過しても発見できませんでした。その間にも食材はいつの間にか減っています。両親は「良かったわ。まだ家に居るみたいね」「はやくご利益りやくがあるといいな」などと、すっかり有益ゆうえき妖精だと信じ切ってしまい、大切な食材の紛失を良しとしてしまっています。おかげで食卓にのぼる料理のグレードが下がってしまいました。犯人妖精は果物類が好きらしく、それをけっこうくすねていくのです。デザートが減らされたことで、ボクはやっぱり一刻もはやく追い出さなければならないと奮起ふんきしました。


 しっぽをつかんだのは数日前です。その日の朝、ボクは物音で目が覚めました。部屋の上から、ぎしっ、ぎしっ、と天井板を踏みつけるような音が聞こえてきたのです。


「そうか、屋根裏にひそんでたんだ!」


 すぐに犯人妖精だと確信しました。天井を眺めると、板の一部に見覚えのない切れ込みが入っていました。そこから出入りし、食材盗みを繰り返したようです。


 ボクはさっそく屋根裏に潜入しました。切れ込みの下には洋服ダンスが位置しているため、子供のボクひとりでも自力で上がれたのです。板を外して慎重にのぼり終えると、辺りを見回してみました。屋根裏は飾り窓のおかげでそんなに暗くはありません。部屋ではないので、いたるところが蜘蛛くもの巣やホコリまみれ。ですが、入り口に一部きれいなところがありました。妖精の通り道だと思い、ボクはそのさきを視線で追いました。

 そして、柱の陰にその姿を見つけたのです。


 見たことのない人型の妖精でした。名前はわかりませんが、ピクシーのような小妖精ではなく、大きさも人並みです。こちらに気づかず、あぐらをかき、くんせい肉をムシャムシャ食べている顔つきは、ボクより少し年上の女の子のようです。身長もその年頃としごろの女の子くらいに見えたため、「……あれ? 妖精ではなくて人間?」と思ったのですが、服装を見るとやっぱり妖精です。とんがり帽子に赤マント姿で、その道化師どうけしのような格好が妖精のひとつの特徴になっていることは、ボクでも知っていました。


「おい、それはボクの家の肉だぞ、勝手に食べるな!」


 こちらが子供だとあなどられないように、ボクはきつく言いました。

 その人型妖精はビクッと体を震わせたあと、赤いツインテールの髪をひるがえらせて、こちらを振り返りました。驚きに丸められた瞳の色も赤々としています。そして振り返ってもなお、ソバカスの浮いた頬をモゴモゴと動かし、食べるのをやめない意地汚さ。


「食べるなっていってるだろう、泥棒妖精!」


 ボクがふたたび声を荒らげると、その人型妖精はきょとんとしました。辺りをキョロキョロしてから、「妖精ってあたしのこと?」と言って自分を指差して見せます。人語をあやつれるタイプの妖精だとわかり、話が通じるとホッとした反面、人をからかうようなタチの悪い妖精だと実感しました。


 ボクはこの場にやってきた経緯を説明し、まずは、ボクに盗み食いの容疑がかけられてしまった点について謝ってもらおうとしました。


「それは悪いことしちゃったね。ごめんなさい」


 と、意外にも人型妖精はすんなり非を認めて謝罪しました。


「でも、まっさきにキミが疑われるってことは、日頃の行いがなってないからじゃないの? 自分ではちゃんとしているつもりでも、お父さんとお母さんにはそう映らない部分があるってことだよ。まっ、今回のことをきっかけに、生活態度を一度あらためてみるべきね~」


 盗っ人猛々たけだけしいとはこういうことだなと学びました。 

 謝罪は一応してもらったので、あとは心置きなく追い出すだけです。


 ボクは少々頭に血がのぼっていたのですが、ぐっとこらえて、今すぐ屋根裏から立ち退いて欲しいとお願いしました。しかし、「それは無理ね」と妖精はまったく聞き入れようとしません。


「あたしはこの家が気に入っちゃったの。このまましばらく居候いそうろうさせてもらうから。あとさ、今後はキミが食事を運んできてよ。よろしくね」


「…………」


 ひらきなおっているというより、それが当然だという態度。あまりのふてぶてしさに、ボクは開いた口が塞がりませんでした。しまいには「キミくらいの男の子に見つかって逆にラッキーだったな~」とまで言い放ってくるのです。怒りを通りこして呆れました。妖精と聞いて顔をしかめる人が多いわけです。ボクも今後はそうなるだろうと思いました。


 どうにも厄介な相手だと判断し、ボクは親の手を借りることにしました。有益妖精だと盲信もうしんしてしまっている両親も、屋根裏にいるこの不届きな人型妖精を見れば、たちどころに態度を変えるはずです。そう最後通告をしてからボクが部屋のほうに戻っていこうとすると、「ちょい待ち」と妖精が引き止めてきました。


「あたしを居候させる見返りはもちろんあるんだよ」 


「うちの食事処を繁盛させてくれるの?」


「うーん、それは無理かな。つまみ食いしておいてなんだけど、この店の食事あんまり美味しくないし」


「お父さん呼んでくる」


「待ちなさいってば。いいのかな~、キミが喜ぶすっごい見返りなんだけど」


「ボクが喜ぶ?」


 そう尋ねると、もったいつける妖精が立ち上がって近づいてきました。正面に立ち並ぶと、ボクより少し身長が高いくらいでした。おそらく150cmちょっとだと思います。ニヤニヤとした笑みを浮かべるその妖精は、おもむろに、穿いていた黒スカートのすそをつまみ、ひらひら振って見せてきました。


「あたしのパンツを見せてあげる」


 意味がわからず、ボクは首をかしげました。


「……なんで?」


「見返りパンツ」


 ボクが食事を運んで来たときにその都度つどパンツを見せてあげる、と妖精はいうのです。それが心を込めた見返りなのだ、と。……ボクははなはだ理解に苦しみました。穿いている下着を見せられることの何が見返りになるのかわかりません。どうしてボクが喜ぶと思ったのでしょう。ただハシタナイだけです。

 そんなくだらないことが見返りなら居候させておくだけ損だと言ってやると、妖精はなぜか上から目線のようになって「ふーん、意外に交渉人だね」と、見返りの条件を追加してきました。


「服の上からだけど、特別に、おっぱいを触らせてあげる」


 これでどーだというシタリ顔でした。

 ボクはいよいよわけがわからなくなって、ポカンとしてしまいました。だって余計にハシタナくなっただけなのです。妖精の価値観は人とどこかズレてしまっているのだと思います。それに、おっぱいと言うけれど、その妖精の胸はぺったんこで、おっぱいがあるようには見えません。きっと地肌のつくりはマナ板のように真ったいらな構造になっているはずです。


「はぁあ!? 馬鹿にしてんのっ!?」


 ボクのまっとうな意見に、妖精は顔を急に真っ赤にして怒り出しました。

 無いものを無いって言っただけなのに……不思議です。


 ひとしきりわめいた妖精は、有るってことをその目でしっかり見ろ、と赤マントの下に着ていたベストのボタンをすべて外し、シャツを大胆だいたんにめくりあげ、頼んでもいないのに胸をさらけ出しにして見せつけてきました。そうするとおっぱいの存在はようやく確認できたのですが、ちっぽけなものです。へたをすると、ボクのおっぱいのほうが盛り上がっているかもしれません。いや、ぜったいボクのほうが勝っていだろうと思って、「それくらいならボクのおっぱいのほうがある」と断言しました。


「くらべっこしてるんじゃないんだからね、このぽっちゃり坊主!」


 口が悪くなった妖精は、キミはこれを見てもなんとも思わないのか、といきどおりと恥ずかしさが混じったような顔で、有って無いようなおっぱいを強調するように胸を張ってきました。ボクが「ハシタナイ」と一言答えると、妖精はガクッと膝から崩れ落ち「……この子にはまだ早すぎたんだ」とよくわからないなげきをこぼします。


「ねえ妖精さん、見返りとかはいらないから、今まで食べた分の食費をきっちり払って出ていってよ」


「無理。今のあたし全財産12コバーンだし」 


「すくなすぎだよ……」


 10コバーンチョコひとつしか買えない所持金です。でもしかし、相手は妖精なのですから、人間の通貨を持っていないのも無理はありません。持っているという12コバーンはおそらく道端に落ちているのをたまたま拾っていただけなのでしょう。


「お金が無いなら食べた分をうちでバイトして払いなよ。妖精さんは人間の女の子にも見えるから雇ってもらえるよ」


「嫌、働きたくない。っていうより、今のあたしは大人に見つかるとまずい状況なわけなんだ。だからキミに、パンツとおっぱいっていう話だったの」


「それが意味不明なんだよ……」


 ボクが和解案をいくつか提示してみても、妖精は、あれも嫌これもダメ、とすねたように膝を抱えて首を横に振るばかり。らちかずにボクが親を呼びに行こうとすれば、そうはさせないと服をつかんできてかたくなに離さないのです。


 底意地の悪さにはボクもまいってしまい、もうお金もいいから今すぐ出ていってくれるように頼みました。「……わかった」と妖精が神妙しんみょうにうなずくのを見て、ボクはほっとしました。しかし、屋根裏の明け渡しを了承してくれたわけではなかったのです。

 妖精はスッと立ち上がると、ボクにこう訊いてきました。


「あたしってキレイ?」


 意図が依然として不明瞭なのですが、指さされている顔は整っているので、


「キレイですけど……?」


 と、返答しまいました。

 すると妖精は満足気にうなずきを繰り返します。


「良し良し。お子様のキミでも、この見返りならオーケーでしょう」


「どんな見返りですか?」


「チューしてあげる」


 全身に鳥肌がゾワッと立ちました。どうして好きでもない人と……いいえ、妖精などからチューをされなければならないのでしょうか。それが見返りと思えるのでしょうか。ひょっとして混乱状態を誘発させるような力の込められたチューなのかもしれません。しかしもはやボクの頭は、チューをされる前にすでに理解不能の混乱状態です。言いしれない恐怖がこみ上げてきて叫びました。


「お父さーん、お母さーん、助けてぇ!」


「なんで!? どうして!? 最っっっ低!」 


 と、妖精はボクの口を猛然と塞ぎかかってきました。

 ついに隠していた凶悪な本性をむき出しにしたのです。


「もういい、これだけ恥をかかせてただじゃ済まさないんだから! もし、あたしが屋根裏にいることを告げ口したら、魔法でひどい目にあわせるよ! いい? おどしじゃないからね。これを見なさい、ふとっちょ少年!」


 妖精はドタバタと柱まで戻っていき、そこに置いてあったリュックサックから木製ロッドを引き抜きました。それからまたドタバタとやってきて、ロッドを天井板に突き立てます。先端には赤いチョークのようなものが取り付けられてあって、ボクが恐怖ですくみあがっているうちに、まるい円を描き、さらにそのなかへ幾何学きかがく模様の落書きをはじめました。


「いでよ、炎!」


 魔法を使えるというのは嘘ではありませんでした。

 妖精が命じた声で、落書きから火の玉が出てきたのです。

 ほわんほわんと浮かぶ小さな火球。

 そのうしろでふんぞり返った妖精は不敵に笑いました。


「このファイヤーボールで、燃やしちゃうよ? パーッとやっちゃうからね? それが嫌なら黙って食事を運んできなさい、よろしい?」


「……はい」


 ボクはしたがうしかありませんでした。

 その日以来、妖精の使いっぱしりとなってこき使われ、数日がった今では、食事を運ぶ意外にも要求が増えてきました。漫画本の差し入れからはじまり、寝る時間にもかかわらず退屈だからと話し相手にさせられたり、体洗いや洗濯で使う水ダライも運ばされました。


 このとおり妖精は傍若無人ぼうじゃくぶじんの限りを尽くしています。

 屋根裏からコンコンっと叩かれ、こっちにこいと合図されるたびにボクは寿命が縮まる思いです。

 誰にも告げ口するなと言われましたが、もう我慢ができません。新聞なら大丈夫だと思ってこの【お悩み相談】のコーナーに投書しました。


 屋根裏に居座っている迷惑妖精を追い出す方法はありますか?

 アドバイスよろしくおねがいします。



     ■■■ (回答) ■■■



 短編小説のような長文による投稿で、ピッポくんの憤りがたいへん強く伝わってきますね。


 まず、ピッポくんの思い込みを解くことにします。


 屋根裏に居座っているのは妖精ではありませんよ。人間の女の子です。それも、ただの女の子ではありません。怖がっているところに拍車はくしゃをかけるようで心苦しいのですが、賞金首になっているお尋ね者の凶悪犯です。

 ピッポくんによる怒りの詳細描写のおかげで、特定が容易よういでした。


 彼女は自称14歳(実年齢不明)の自称・冒険者の少女で、名前はアナ(偽名の可能性あり)と言い、落書きの迷惑行為や放火によって現在15万コバーンの報酬金が首にかけられています。

 先月、《ブロチコネン町》に居ることが確認されたのを最後に、消息が途絶えたきりになっていました。その後、ひと目を避けながら《サバーブ村》まで辿り着いていたのでしょう。しかし行き着いたものの、そこで逃亡資金が底をついてしまった。食べ物にも困るようになっていたところで、ピッポくん宅の食事処を見つけ、潜伏先に選んだものと思われます。


 妖精だと勘違いしてしまったことは、むしろこうそうしていたのかもしれません。発見時に「あの凶悪犯だ!」とわかってしまっていたら、その段階で、危害を加えられていた可能性が高いと思われます。妖精が住み着いたのではないかというご両親からの先入観と、とんがり帽子とマント姿というオールドスタイルの魔法使い衣装のおかげで命拾いしましたね。


 本紙の回答をお読みになられましたら、この事実をご両親に迷わず伝え、最寄りのハンターギルドへ駆け込んでください。あとはバウンティーハンターが問題を解決してくれるでしょう。


 ご健闘を祈ります。 

¶ 関連記事¶


▼賞金首のアナ

[No.15] 住民大迷惑 町内のいたるところに魔法陣の落書き

[No.45] 放火で冒険者御用達の宿屋、全焼! 犯人は『手書き魔法陣・落書き事件』と同一犯?

[No.55] 【読者の集い】あのお尋ね者情報ひどくない?

[No.87] 【読者の集い】あたしは元気ですよぉー(笑)


▼サバーブ村でのピクシー事件

[No.6] 【読者の集い】ほんとはやさしい妖精さん

[No.13] 【読者の集い】クタバレピクシードモ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ