[No.72] 【読者の集い】楽しかった初めての公開処刑祭
♀ ナターシャ 13歳(スピルダンテ町・女子学生)
学校帰りに、大広場でビラ撒きをしている人たちを見つけた。だいぶ人が集まってにぎわっていて、なんの宣伝なのかと思ったら、なんと、わたしの町で公開処刑祭が開催されるらしかった。
公開処刑祭は、帝国軍が不定期でおこなっている、複数の重罪人を一ヶ所に集めて公の場で処刑してみせてくれる催し物だ。一度観てみたいと思ってたけど、それまでチャンスがなかった。うちの町で開かれるのは十数年ぶりのようだ。
わたしは「ぜひとも見に行こう!」と両親を誘った。でも、父も母もその日はあいにく用事があって観に行けないらしい。「友達と行ってきなさい」と言われたので、代わりに仲のいい学校の男女数名を誘って行くことにした。
当日、会場の大広場に行って驚いた。どこから湧いて出てきたのだろうと思うほど、見物人が大勢だった。歩くのも大変。押すな押すで、ときどきドミノ倒しが起こるほどの人混み。行き交う会話声を聞いていると、かなり遠方の町から訪れている人もいて、公開処刑祭が航空祭などと並ぶ人気の催し物だということを肌で感じられた。
まるで縁日やバザールのように出店がたくさん軒を連ねていた。わたしたちは親からお小遣いをもらっていたので、りんご飴や綿菓子を買って食べたり、弓打ちゲームをしたりして、処刑開始まで時間を持て余すことなく楽しめた。
花火が打ち上がり、所定の時刻。
処刑の執行は、大広場の中央に築かれた台の上で行われる。そのため、わたしたちのような背の低い子供でもよく見えるようになっていて、とてもありがたい。
一人目の重罪人は二十代くらいの女の人だった。処刑法は〝ギロチン〟。仰向けに寝かせた人の首に、真上から大きな刃を落として機械的に刎ねるというもの。ポピュラーな処刑法なので、わたしも知ってはいたが、実際にギロチン台を見るのは初めてだったので、わくわくした。
刑の執行前には、その重罪人の罪状がくどくど読み上げられるのだけど、興奮した見物人たちの歓声や怒号が飛び交って、たいてい聞こえない。そのあとには、投石タイムがもうけられる。重罪人に対して石を投げることが見物人に許されるのだ。
おもしろそうなので、わたしも大人たちにまざって「恥を知れ!」の掛け声とともに石を投げてみた。でも刑場まで距離があったため届かず、投げた石は、前列にいた禿頭のおじさんに当たってしまった。おじさんは「誰だ俺に投げてきたやつは!」と怒ってたけど、わたしは知らんぷりをした。
投石タイムが終わると、いよいよ刑の執行だ。
重罪人の女の人は、ギロチン台に固定される前にお漏らしをしていた。お股をびしょびしょにした姿でジタバタ抵抗する様子がおかしくて、わたしたちはゲラゲラ笑った。
処刑執行人は、ワイバーンの仮面を被った上半身裸の屈強な男性で、かっこいい。手にしていた斧で綱を切ると、ギロチンの刃が勢いよく落ちた。女の人の首がスパッと切断されて首桶に転がり、ジタバタしっぱなしだった足の動きがピタリと止まる。そして、割れんばかりの喝采。生首が高らかに掲げられると、わたしもお漏らししそうなほど興奮して声をあげた。
処刑の方法は、ひとりひとり異なる。観衆を飽きさせないようにする取り組みなのだろう。二人目の初老の男性は〝鋸挽き〟という方法で、三人目の中年女性は〝鋼鉄の処女〟という方法で処刑が執り行われた。どれも見所のある手法で詳しく書きたいのだけど、長くなりそうなのでやめにする。
最後にひとつだけ、個人的に好きだった処刑法を紹介しようと思う。
〝ドラゴン・ホイール〟という処刑法だ。
水車のような大車輪に重罪人を仰向けに縛りつける。車輪の下にはドラゴンから抜け落ちた牙がいくつも立て置かれてあり、車輪を回転させると、縛りつけになっている人がその動きに合わせて、無数の牙の上を何度も通過していくというもの。
はじめのうちは車輪と牙の距離は離されているため、縛りつけになっている人がかすりもせずに通過する。でも、ドラゴンが口を閉じていくように、牙の位置が徐々に上げられていき、鋭利な牙の先端と擦れ合うようになる。そうして重罪人の体がじわりじわりとひっかき裂かれていくのだ。
そのときは太った男の人だったので、すごかった。引き裂かれたお腹から長々とした腸を飛び出させたまま、ぐるぐるぐるぐる回っていた。わたしが「豚のソーセージみたいだね!」と、一緒にいた男友達にいうと、その子は少し前に食べていたチョコバナナをげろげろ吐き出してしまった。それがおかしくて、わたしたちはまたゲラゲラ笑い転げたのでした。
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