[No.6] 【読者の集い】ほんとはやさしい妖精さん
♀ カトリーナ 16歳(サバーブ村・家事手伝い)
みなさんは〝ピクシー〟という妖精にどのような印象を持ちですか?
その言葉を耳にすれば、きっと誰もが顔をしかめてしまうはずですよね。
おそらく、いい印象のある人はいないのだと思います。
「また奴らが出やがったのか? 今度はどの家がやられた?」
「コラッ! シッシッ! 家畜に悪さするんじゃありません!」
「ママー、ピクシーがまたぼくのノートに落書きしてるぅ……」
うちでは、しょっちゅうこんな会話が日常的にくりかえされています。
お人形のように小さくて可愛らしい見た目をしているけれど、人家に忍び込んで悪戯をする迷惑な厄介者――それがピクシーに対する一般的であたりまえの認識。私もそういう見方しかしていませんでした。
しかし、つい先日、彼らの別な一面を垣間見ることになったのです。
◯
薪拾いで森の中に分け入っていたときのことです。
背負った薪の重みですこし疲れた私は、切り株に腰掛けて一息ついていました。
流れる汗を拭って、さあもうひと踏ん張り、と立ち上がりかけたとき、二匹のピクシーが視界に入ってきました。透明な蝶々のような羽をひらひらと動かし、立木を縫うようにしてこちら側へ飛んで来ているところです。人間が使用するサイズの――彼らにとっては大きな銀色のコップを、二匹で協力しあい、両手にぶら下げながら持ち運んでいます。
悪戯を仕掛けられる前に逃げようかと思いました。しかし私が切り株の上にいることは知られている状態です。ニコニコと無邪気な笑みを浮かべる彼らは、すでに私を見つけていました。それに走ろうにも、背中の薪があって、叶いません。なので、薪のひとつを手に掴みあげ、悪さをしたら叩き落とすぞ、という恐い目つきで相手を睨み、彼らが通過していくのをやり過ごすことに決めました。
薪という武器があったことが功を奏したのか、二匹のピクシーは何事もなく横切って行きました。でも胸をなでおろしたあと、一度は通り過ぎた彼らが、なにを思ったのか方向を変え、ふたたび私の元へと戻って来たのです。
いよいよ私は薪を振りかぶりました。
そこで二匹のピクシーが意外な行動を見せたのです。
持っていた銀色のカップを、私の顔へ差し出すようにしてきたのです。カップの中には、紅茶のような色合いの液体がなみなみと湛えられてました。漂ってくる良い香りに思わずカップを受け取ると、両手が自由になった彼らが、なにやらジェスチャーゲームのような小芝居をはじめました。
一匹が疲労しているように空中に座り、そこに近づいてきたもう一匹が何かを差し出すしぐさを見せ。それを受け取った一匹は、飲み物を飲む動作をしたあと、急に元気を出し、キラキラする鱗粉を撒き散らしながら私の周りを飛び回りました。
どうやら、薪拾いで疲れていた私を気遣ってくれているようなのです。
「あなたたちの飲み物をわけてくれるの?」
人語を解したかどうかはわかりませんが、彼らは、どうぞ!、というように飲み物を飲むしぐさをくりかえします。私が持ってきていた水は底をついており、喉がとてもカラカラだったので、遠慮なくいただくことにしました。
その味はリンゴジュースに似たものでした。甘すぎず、ちょっとビターな風味があり、私が好む味だったので、ぐびぐびと一気にあおってしまい、気づくとコップが空になってしまっていました。わけてもらうはずが、すべて飲み干してしまったのです。
さすがに悪いことをしたと思い、私はすぐに謝りました。けれども彼らは怒った様子を一切見せず、ニコニコと笑ったまま空になったカップを私の手から回収すると、もと来た方へ飛び去って行ったのでした。
◯
どうでしょう? これはピクシーの知られざる一面ではないでしょうか。
いつも悪さばかりする彼らも、私たち人間を気遣い、手を差し伸べることがあるのです。
あれはたんなる気まぐれだったのかもしれません。でも私はこの体験を機に、彼らへの対応をちょっとあらためてみようかなと思います。たとえタンスから下着をひっぱり出されることがあっても、ハエ叩きでたたき潰そうとするのはやめ、手で払って窓から出ていくのを促す程度にとどめておくことにします。
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