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[No.58] 勘ぐるやつは救われぬ

 一昨日の未明(みめい)、《ゲープ砂漠》で魔物による問いかけ事案が発生した。


 オアシスで野営していた商隊メンバーの男性・ダグラス氏(50)は、ふと尿意に目を覚まし、寝息をたてる商隊仲間やラクダの群れから離れ、ひとり岩陰へ向かった。岩石の割れ目から生えている小サボテンに水分の恵みを与えていると、バッサ、バッサ、と羽ばたく大きな音が聞こえ、壁になっている岩を見上げた。


 台座のようになった岩の(いただき)に、一体の魔物が降り立ったところだった。獅子ライオンのような四本脚の胴をしているが、本来頭があるべき場所には、人の女性の上半身が生えている。その両肩の付け根は、(ワシ)のような翼が、広がった状態で取り付いていた。


 ダグラス氏は喫驚したが、ムスコが小便を放出中とあって、逃げるに逃げられない。だが、襲ってくると思いきや、その魔物は獅子の四脚(よつあし)を折りたたみ、岩の台座にぺたんと座り込んだのである。そして、ぼさぼさとした長い髪をした人頭(じんとう)を、ぬっとダグラス氏がいる岩下へと差し出し、「さてここで問題です! チャラン♪」と、唐突(とうとつ)に質問を投げかけてきたのだ。


「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足で歩く生き物って、な~んだ?」


 魔物とはいえ、顔のつくりは人である。それも満月明かりに照らされた肌は小麦色で、目元周りが白く縁取(ふちど)られており、一昔前に流行ったギャルのメイクのよう。若い女に放尿しているところを見られているかのようで、きまりが悪く、こっ()ずかしい。


「そんな生きもんなんかいねぇ! こ、こっち見んな!」


 ダグラス氏はろくすっぽ考えもせず、答えていた。


 すると、ご機嫌に体を()さぶっていた魔物の、たわわな乳房(ちぶさ)の動きが止まる。


「……ピンポーン。せいかーい」


 がっかりして()げると、折りたたんでいた四脚を立ち上がらせた。また翼をバッサ、バッサ、と羽ばたかせ、「ちぇーっ、つまんねぇオヤジ、ちっちぇムスコー」と負け惜しみを口にし、ダグラス氏の自尊心(じそんしん)をサクッと削っただけで、肉体的ダメージを加えることなく飛び去って行ってしまったのである。


 この問いかけを行ってきた魔物は、〝獅身女スフィンクス〟という。


 ダグラス氏は、深く考えなかったので、助かったのだ。


「そんな生き物は存在しない」


 それが唯一、生き延びるための解答。何か生き物の名前を挙げてしまったり、沈黙を答えにしてしまったり、下手に(かん)ぐったことを口走れば、たちまち強襲され、強靭(きょうじん)な獅子の爪によって肉を裂かれ、喰われていたのである。


 ははーん、これは謎かけだな。朝昼夜というのは、人間が生きている時間を一日で例えたものだ。朝は四つん這いでハイハイをしている赤子の時、昼は成長して元気に二本の足で歩いている時、そして、夜は年老いて(つえ)を三本目の足として歩いている時――すなわち、答えは『人間』となるのだ!


 と、脳みそを余計に稼働(かどう)させて答えようものなら、


「ブブー。はずれ! なにいってんの、ばっかじゃなーい。そんな生き物いないっつぅの~」


 んなアホな!、と思っているうちに胃袋行きとなってしまう。


 考えるな、即答しろ!


 スフィンクスに頭脳戦は無用なのだ。


 ……いやしかし、これはある意味、高度な頭脳戦というべきなのかもしれない。

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