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[No.56] 十九歳女性がリザードマンの卵を産む

 リザードマンという魔物がいる。成人男性くらいの大きさで、二足歩行をするトカゲと想像していただければよい。ねぐらは水場(みずば)が近い洞窟(どうくつ)昼行性(ちゅうこうせい)だが、昆虫や魚類を主食としており、人肉喰らいマンイーターではない――と聞くと、ホッとしてしまうかもしれないが、安心してはならない。脅威度(きょういど)は高いのだ。


 縄張り意識が非常に強く、餌場に入っているところを見つけられれば、相手が誰であろうと数がどれほどいようと、お構いなしに攻撃を仕掛けてくる戦闘的(たち)である。剣や盾で武装していることもある。襲った冒険者などから略奪したものだ。自分たちで生み出す知恵は持たずとも、武具として扱えるだけの知恵と手(前足)を有している。


 このリザードマンは、ハーピーがメスのみ存在する単性生物(たんせいせいぶつ)に対し、逆に、オスのみしか存在しない単性生物である。そしてやはり、繁殖には『メス』を必要とする。

 母体となるメスは、交尾ができて卵を産み落とせる大きさの動物であれば、種族は問わない。母体はあくまで卵の育成と産卵用の『(うつわ)』として使われる。どういうことかというと、――


 まず、リザードマンの生殖器から放出されるのは単なる精液ではなく、〝感応式生殖液〟と呼ばれる精蟲(せいちゅう)にも卵珠(らんじゅ)にも成り得るものだ。交尾は、二体のリザードマンと母体となる動物のメス一体で行われる。一体目のリザードマンが放出した生殖液と、二体目のリザードマンが放出した生殖液が、母体の子宮で混ざり合うことによって、ひとつの卵を形成するのである。


 リザードマンの卵は、一度の交配により、ほぼ100%作り出されると言われている。楕円(だえん)形をした固い殻のある白卵しろたまごだ。十日ほどで、豆粒大から人の赤子ほどの大きさになり、産卵を迎え、排出された直後から幼体が殻を割って出てくる。一個の卵から孵化(ふか)する数は、平均して五匹程度である。一卵性多生児(いちらんせいたせいじ)というわけだ。


 リザードマンは繁殖期にだけテリトリーを離れて母体を()()りに行くのであるが、人里近くの沢辺(さわべ)()くってしまわれるとマズいことになる。産卵母体となる対象には、人間の女性も含まれているからだ……。


          ◯


 前置きが長くなったが、ここからが今回被害にあった十九歳女性の話題である。


 現在より二週間ばかり前、冒険者パーティが渓流(けいりゅう)で休憩していた。


 するとそこへ、下流にある村の方から二体のリザードマンが現れた。気絶している十九歳女性――A子さん(仮)を二体で運び上げている。産卵母体にするため巣へ持ち帰るところだということは容易(ようい)に想像がつく。二体の(うろこ)表皮(ひょうひ)は、通常色の緑色から、繁殖期を示す青色へと変色しているからだ。


 冒険者パーティはA子さんを救うべく、即座に戦闘へと突入。リザードマンは無装備で、産卵母体のA子さんには危害を加える動きもみられない。冒険者が六名と上回(うわまわ)っていたこともあり、勝敗はたちどころに決した。


 意識を戻したA子さんは、村外れの木陰で読書をしていたときに、リザードマンの襲撃にあったことを冒険者パーティに話した。それから女性メンバーにだけ、事を済まされてしまった後だと打ち明け、どうしたらよいか相談した。


 魔物の〝卵降し(たまごくだし)〟には可能なものと不可能な物がある。たとえば、ベルゼブブの卵は可能な内に入る(子宮と(ちょう)とで異なるが、排出できるという点で)。しかし、リザードマンの卵は、現時点では特効薬が存在せず、不可能なのだ。


 ならば帝王切開による摘出はどうかというと、これも叶わない。子宮内膜に取り付いている卵を強制的に切り離すと、卵形成(らんけいせい)初期段階の小さな切り口からでさえ、出血が止まらなくなり、大量出血死を招いてしまうからである。殻の成分がそれを引き起こしていると考えられているが、対処法はいまだ確立されていない。


 したがって、産み落とすしかないのである。


 不安がるA子さんを案じた冒険者パーティは、産卵までの間、彼女の村に滞在することに決め、女性メンバーが代わる代わる、ベッドで横になるA子さんに付き添った。


 A子さんのお腹は、通常妊娠時の25倍の速さで(ふく)らんでいく。その日一日の始まりと終わりとで大きさが異なるっているのは一目瞭然(いちもくりょうぜん)。そうして十一日後、陣痛がきたA子さんは、冒険者パーティの女性メンバーと産婆(さんば)に見守られる中、リザードマンの卵を産み落とした。取り上げられた赤子大の卵は、産婆から女性メンバーへと引き渡され、屋外へと持ち出されたのち、待機していた男性メンバーが火系魔法により、焼却討伐した。


 A子さんの精神的肉体的苦痛は計り知れないものだったであろう。


 だが、まだ冒険者に助けられていただけ運が良かった。もし巣穴に運び込まれてしまっていたら、命はなかった。産卵後の弱っている母体は巣穴内部に放って置かれ、孵化した幼体がじゃれつく玩具代わりとなり、噛み傷や裂傷にまみれて息絶える末路が待っていたからである。

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