[No.51] 【読者の集い】ゴミクズ冒険団にうんざり
♀ ジャスミン 22歳(ジャンカード市・冒険者)
一週間くらい前、所属していたクランの女団長とちょっとモメちゃって、折り合いが悪くなったので、脱退して新しいクランを探していたんです。ゴミクズ冒険団っていうのは、その前所属クランのことではなくて、次に入ってしまったところです。
加入前からここはどうかなぁ、と怪しんではいたんです。なにせクラン名が『ヤンシーと愉快な仲間たち』ですから。……ふざけてますよねぇ。けれど、冒険者ギルドの掲示板に貼り出されている魔法使いの募集広告がそのときは『ヤンシーと(略)』しかなくて(後々、同クランが他の掲示物を勝手に剥がしていたこと、なおかつ、ギルド未加入で無断掲示されていたものだと知りました)、次が見つかるまでの場繋ぎとして一時的に加入しようと、やむなく入団面接に赴いたんです。
「22っすかぁ……歳はギリってとこっすかねぇ。正直なとこ、ギャル系に来てほしかったンすけど、ジャスミンちゃん、清楚系というか真面目系じゃないっすか。オレのストライクゾーンからは外れちゃってるンすよ。けどまあ、顔は中の上くらいはあるからなぁ」
クラン名がふざけていれば団長もふざけていました。五つも歳下の男で、その名もヤンシー。私が得意魔法科目や実務経験を説明しても聞く耳を持たずで、容姿にばかり着目するんです。団長とはいえ、いきなり『ちゃん』付けで、口の利き方も知りません。怒鳴りつけて帰ってしまいたかったんですけど、面接途中にキレて帰ったという悪評を流されては今後のクラン探しに支障が出ると思い、面接終了まで耐え忍んでから、「今回はご縁がなかったようで残念です。これにてご無礼を」と断りを入れて退出しようとしました。
「いやいやいや、なんで帰ろうとしてるンすか! 採用っすよ、採用!」
面接結果は採用だったのですが、私はすっかり辟易してしまったので、辞退を申し出たのです。すると上から目線だった彼は慌てふためき出し、引き留めにかかってきました。オレらのクランにはジャスミンちゃんの力がどうしても必要だ、加入してもらわないと困る、ジャスミンちゃんの火系魔法をぜひうちのクランで役立ててほしい、と。……私は火系魔法の使用は不得手であると伝えていました。口ばかりか耳も利かないようでは、ついていく気などさらさら起きません。
「マジでお願いするっす! 新聞広告で魔法使いの募集かけてもぜんぜん人が集まらなくて、ようやく来てくれたのがジャスミンちゃんなンすよ! 実は面接前から採用は決めてあったンっす。仲間にももう伝えてて、これで安心だ、ってみんな喜んでくれていたンすよ。それでダメになったって言ったら、どれほど悲しむことか。オレのために……いや、愛すべき仲間たちのためにも、このとおりっす! どうか、どうかっす!」
ドアに立ち塞がっていた彼は、土下座までして頭を床に擦りつけました。聞けば、『ヤンシーと(略)』にはゼロ能力者しかいないようで、魔道具無しでも魔法が使える人材を求めているということでした。それでも私が帰ろうとすると子供のように声を上げてわんわん泣き出されました。私は呆れ果ててしまい、業務には数回参加するだけという条件付きで、不承不承、加入の承認をしました。申請に行って承認をすることになるとは思ってもみなかったです。
今になって思えば、泣き落としなどに屈してはならなかったと後悔しています。相手にせず、きっぱり断ってしまうべきでした。私もまだまだ未熟者でした。
数日後、初クエストに召集されました。
業務の都合上パンツルックは好ましくないということだったので、普段は着用頻度のすくないスカートを穿いて待ち合わせ場所の市壁門まで行きました。そこで聞かされた依頼内容は、『調合試薬として使用する植物を洞穴から採取してきて欲しい』というものでした。それでなぜパンツルックがいけないのかよくわからずに訊ねると、「行けばわかるっすよ!」と教えてはもらえません。不可解には感じたのですが、向かう洞穴はどくに魔物が出没する場所ではないので、さして気には留めず、私を含め六名のメンバーでその地へと向かいました。
目的の植物は洞穴奥の天井が崩落している地点。そこまでは私の発光魔法で通路を照らし進みました。このくらいの魔法なら魔道具かたいまつを使用すればいい。〝真性魔法使い〟である私が呼ばれたのは、植物を氷魔法によって冷凍保存した状態で運んでもらいたいという理由でした。氷系統の魔道具は高価ですし、持っていないとなれば、私の出番です。それはわかります。しかし、なぜスカート着用でなければならなかったのか、依然として不明でした。彼らの魂胆が暴露されたのは、洞穴奥へ到達したときでした。
私は鍾乳石の陰から姿を現した存在に目を疑いました。出没情報がなかった場所にも関わらず、魔物が出現したのです。それも〝ローパー〟。うねうねニュルニュルの軟体に一つ目があるアイツです。ローパーはたしかに洞窟などに生息する魔物ですが、この洞穴での目撃情報はもちろん皆無。妙だと思いつつも、討伐が先決でした。〝触手持ち〟のため、捕まれば貞操が危うくなるからです。スカートを着用しているとあれば、ことさら。
照明係りで先頭に立っていた私は、迷わず手加減なしで電撃魔法を放ちました。ローパーはこちらへ接近する間もなく、青白い稲妻に撃ち抜かれて、しおしおと崩れ落ちました。その途端、後方に控えていた団員たちが、ヤンシーを筆頭に叫び出したのです。
「アーッ!? なんで秒で倒しちゃうンすか! 空気読もうよジャスミンちゃん! さんざんもったいぶっといて、そりゃないっすよねぇ! ここは触手に捕まって、『キャーッ、パンツの中に~』って流れでしかないじゃないっすか! なんのためのスカートっすか!? そのためのスカートでしょ!」
「だから着いたらそっこう吹き矢でマヒらせようって言ったじゃないですか!」
「あのローパー死んじまいましたよ! 闇市で仕入れて高かったのに……」
ぺてんに掛けられていたことにはそこで気づきました。疑わなかった自分が愚かだったのでしょうけれど、ふつう思いますか、クラン全体で陥れようとしていたなんて。協力し合うはずのメンバーが、魔物をけしかけようとしていたなんて……。
私は堪忍なりませんでした。冒険者の風上にも置けないやつらです。彼らがやいのやいの言っているうちに、全員を氷漬けにしてやりました。今も洞穴の奥でカチンコチンになっていることでしょう。因果応報ってやつです。
みなさんも、クラン選びには気をつけてください。たまにゴミクズが混ざっているようですので。
P.S.
ヤンシーが広告投稿をしていた新聞というのは本紙のようですね。友達から教えてもらいました。あの記事を呼んでいれば、加入するような愚行は万に一つもありませんでした。やはり新聞に目を通しておくことは大切ですね。
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