[No.49] 絶滅したはずのファイヤーバード 半世紀ぶりに生息確認
《デゼルト高原》上空を〝ファイヤーバード〟らしき鳥が一羽飛んでいたとの目撃情報が弊社に寄せられた。手紙の差出人は、同高原付近の村に住んでいる無職の女性・ヴァネッサさん(75)である。庭の草むしりをしていた彼女は、「ヒュルルルルン」という懐かしい鳴き声が聞こえ、顔を上げた。そして、赤い翼を伸ばし、森向こうの山へ悠然と滑空飛行していくその姿を見たのだという。
ファイヤーバードは、その名の示すとおり、燃え盛る炎のような羽毛をもつ鳥だった。赤色を主体として、オレンジ色の羽根が胸や尾っぽに生えている。体長は鷲と同等。デゼルト高原付近の山や森などに生息しており、美しい声を響かせ優雅に飛び回る姿が日常にあった。しかし今や過去の話である。乱獲され、半世紀前に絶滅してしまったからだ。
乱獲の原因は、その姿が伝説の霊鳥〝フェニックス〟と重ねられ、不老不死の秘薬になるというデマが蔓延したせいである。
燃やした灰を粉薬として飲み続けている間は歳を取らない。
それを信じた者、金を稼ごうとする者、中には本当にフェニックスと勘違いした者……そういう人々が殺到し、生息数は激減。当時は生物保護の理念がまだ乏しく、ろくな対応策は講じられないまま、半世紀前、その姿を地上から完全に消し去った――そのはずであった。
ヴァネッサさんも、ファイヤーバードが絶滅種になっていることは知っていた。彼女が最後に目撃したのは25歳の時である。現代の空を飛んでいようはずがない。しかし、自分が耳にした声は、目にした姿は、ファイヤーバードのはずである。間違いなくそうであったと確証が欲しいので、専門家に山へ入ってもらい、近くで見確かめて来てもらえないかという旨だった。
手紙が届いた翌日、弊社記者は、ファイヤーバードの当時の姿を知る60代の鳥獣学者とハンターらとともに、ファイヤーバードが飛び去ったと思われる山へ分け入った。だが、捜査の甲斐なく、夕刻を迎えてヴァネッサさん宅へ引き返してきた。
その時だった。
「あれよ! 見て!」
分け入っていた山の方角から、鳥が飛んできたのだ。羽ばたく翼が真っ赤なのは、射し込む夕陽に照らされているからではなかった。向ってくる鳥は一匹ではなく、二匹だ。そして、ヴァネッサさんの庭に生える朴ノ木に舞い降り、二羽寄り添って枝に止まったのである。片一方はひとまわり小さいメスと思われ、つがいのようだ。鳥獣学者の口から、「あれは間違いなくファイヤーバードだ」と、懐かしそうな感嘆のつぶやきがこぼれた。
二羽のファイヤーバードはひとしきり羽を休めたあと、山へ飛び去っていった。
「息子が戻ってきてくれたみたいで嬉しいわ」
と、ヴァネッサは目元に浮かべた涙を拭った。
彼女の長男は、年端も行かぬ頃に病で他界していた。長男はファイヤーバードが好きで「大きくなったらあの鳥になるんだ!」と、口ぐせのように言っていたらしい。ヴァネッサさんが半世紀ぶりにファイヤーバードを目撃したその日は、長男の命日だったそうである。




