表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/170

[No.49] 絶滅したはずのファイヤーバード 半世紀ぶりに生息確認

 《デゼルト高原》上空を〝ファイヤーバード〟らしき鳥が一羽飛んでいたとの目撃情報が弊社(へいしゃ)に寄せられた。手紙の差出人は、同高原付近の村に住んでいる無職の女性・ヴァネッサさん(75)である。庭の草むしりをしていた彼女は、「ヒュルルルルン」という(なつ)かしい鳴き声が聞こえ、顔を上げた。そして、赤い翼を伸ばし、森向こうの山へ悠然(ゆうぜん)滑空(かっくう)飛行していくその姿を見たのだという。


 ファイヤーバードは、その名の示すとおり、()(さか)る炎のような羽毛(うもう)をもつ鳥だった。赤色を主体として、オレンジ色の羽根(はね)が胸や()っぽに生えている。体長は(ワシ)と同等。デゼルト高原付近の山や森などに生息しており、美しい声を響かせ優雅(ゆうが)に飛び回る姿が日常にあった。しかし今や過去の話である。乱獲(らんかく)され、半世紀前に絶滅してしまったからだ。


 乱獲の原因は、その姿が伝説の霊鳥〝フェニックス〟と重ねられ、不老不死(ふろうふし)秘薬(ひやく)になるというデマが蔓延(まんえん)したせいである。


 燃やした灰を粉薬(こなぐすり)として飲み続けている間は歳を取らない。


 それを信じた者、金を(かせ)ごうとする者、中には本当にフェニックスと勘違いした者……そういう人々が殺到し、生息数は激減(げきげん)。当時は生物保護の理念がまだ(とぼ)しく、ろくな対応策は(こうじ)じられないまま、半世紀前、その姿を地上から完全に消し去った――そのはずであった。


 ヴァネッサさんも、ファイヤーバードが絶滅種になっていることは知っていた。彼女が最後に目撃したのは25歳の時である。現代の空を飛んでいようはずがない。しかし、自分が耳にした声は、目にした姿は、ファイヤーバードのはずである。間違いなくそうであったと確証が欲しいので、専門家に山へ入ってもらい、近くで見確かめて来てもらえないかという(むね)だった。


 手紙が届いた翌日、弊社記者は、ファイヤーバードの当時の姿を知る60代の鳥獣(ちょうじゅう)学者とハンターらとともに、ファイヤーバードが飛び去ったと思われる山へ分け入った。だが、捜査の甲斐(かい)なく、夕刻を迎えてヴァネッサさん宅へ引き返してきた。


 その時だった。


「あれよ! 見て!」


 分け入っていた山の方角から、鳥が飛んできたのだ。羽ばたく翼が真っ赤なのは、()()む夕陽に照らされているからではなかった。向ってくる鳥は一匹ではなく、二匹だ。そして、ヴァネッサさんの庭に生える朴ノ木ほおのきに舞い降り、二羽()()って枝に止まったのである。片一方はひとまわり小さいメスと思われ、つがいのようだ。鳥獣学者の口から、「あれは間違いなくファイヤーバードだ」と、懐かしそうな感嘆(かんたん)のつぶやきがこぼれた。


 二羽のファイヤーバードはひとしきり羽を休めたあと、山へ飛び去っていった。


「息子が戻ってきてくれたみたいで嬉しいわ」


 と、ヴァネッサは目元に浮かべた涙を(ぬぐ)った。


 彼女の長男は、年端も行かぬ頃に病で他界していた。長男はファイヤーバードが好きで「大きくなったらあの鳥になるんだ!」と、口ぐせのように言っていたらしい。ヴァネッサさんが半世紀ぶりにファイヤーバードを目撃したその日は、長男の命日だったそうである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ