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[No.44] 眠り病の少女 一年ぶりに目覚める

 《セロレブロ村》で眠ったまま目を覚まさなくなっていた少女・ブランカちゃん(8)が(まぶた)を開けた。


 ブランカちゃんが深い眠りに(おちい)ったのは約一年前のこと。


 外遊びから家に帰ってきたあと、「なんだかとてもねむくなっちゃった」と横になったきり、なにをしてもいくら待っても起きなくなったのだ。村医者(むらいしゃ)()てもらっても原因不明。気付(きつ)け薬を使ってみても効果は得られない。やがて両親は、ブランカちゃんが眠りに落ちる前に「森で虹色の木の実を食べた」と話していたことを思い出し、その木の実が関連しているとみて独自調査を行った。


 冒険者などへの聞き込みの結果、希少妖精〝パドシス〟が育てる木に()る珍しい実であることが判明。人間が食べてしまうと、生命活動は保持されたまま冬眠したようになってしまうのだという。そして、再び目覚めさせるには、〝パドシスの白蜜(しろみつ)〟と呼ばれる彼らから採取された体液を特効薬として飲ませなければならなかった。


 父親のチャールズ氏(42)は、薬を入手すべく日夜森中を駆け巡った。しかしパドシスは一向に見つからない。希少妖精ということだけあり、発見するのは極めて難しかった。その後、自ら採取することは(あきら)め、行商人(ぎょうしょうにん)を手当り次第にあたる方式に転換。〝パドシスの白蜜〟を持っていないか、購入ルート知らないかを聞きまわった。


 そうして一年が経過しようとしていた時、隣町で〝パドシスの白蜜〟を所有していた行商人をついに見つけた。それは小さな小瓶(こびん)に入った数ミリリットルの白濁(はくだく)した液体で、稼ぎ数カ月分と高額だった。だが、これで娘が目を覚ますなら安いもの。チャールズ氏は一も二もなく購入すると、帰路(きろ)を急いだ。


 そこで予想もしない事態に直面する。


 歩いても歩いても村にたどり着かないのだ。セロレブロ村は目前、一本道のはずなのに、その道をゆけば同じ三叉路(さんさろ)へと行き着いてしまう。身を案じてくれたポストマンの女性などと連れ立って向ってみても結果は同じ。どうあっても村へ帰ることが出来ない。


 途方に暮れていたチャールズ氏を救ったのは、走鳥(そうちょう)に乗って現れた冒険者の少年だった。


「オレなら解決できるかもしれません」


 少年は自信ありげに言うが、チャールズ氏は(いぶか)った。冒険者は薬の情報提供者ではあったが、中には素行不良者も多く、あまり(こころよ)く思っていなかったのだ。そのうえまだ子供である。頼れたものではないと思い、「〝パドシスの白蜜〟を見せて欲しい」と要求されると、服の胸ポケットをおさえて拒んだ。


「大丈夫です、簡単に解決できますから」


 少年は言うやいなや、チャールズ氏のポケットから薬を強奪(ごうだつ)。村に向って走鳥を走りらせた。チャールズ氏は死に物狂いで追いかけた。そして少年を取り押さえる――と、その場所は、それまで入ることができなくなっていた村の中だったのである。


「今後、もしまた、ある物を所持したせいで村に入れなくなったという時は、冒険者をやっている人に運んでもらってください。根本的な理屈とかは、オレにもよくわからないんですけど、『冒険者』という肩書きの人間が持ち込めば、すんなり入れてしまうんですよ」


 走鳥にまたがった少年は、薬を返却するとすぐに村を出て行った。


 チャールズ氏は頭だけ下げると、自宅へ飛んで帰った。なによりもまず、娘を目覚めさせることが先決だった。ベッドの(かたわ)らに座っていた妻に説明する()()しで、すやすやと寝息を立てる娘の口を開き、〝パドシスの白蜜〟を流し込んだ。


 直後、ブランカちゃんの瞼がパチっと開かれる。


「うぇ~っ、変な味~っ!」


 それが一年ぶりに口にした第一声となり、両親は彼女を堅く抱きしめたのだった。


          ◯


(追記)

 この記事は、数日前、【お悩み相談】コーナーにおいて、『村に帰れなくなったおじさん』という題で、パロマさんに投稿していただいた内容の後日談と思われる一件です。

 パロマさんのお悩みの解決策となってもらえれば幸いです。

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▼ポストマンのパロマ

[No.39] 【お悩み相談】村に帰れなくなったおじさん


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[No.34] 時計塔を狂わせていた〝お騒がせ犯人〟を、さすらいの冒険者が暴く!

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