[No.41] 〝ドゥアガー〟を妖精から除外 魔物指定へ
《ボルグチッタ町》にある古井戸で、中年女性一名が救助された。
冒険者パーティが、香水の材料となる野花の収集依頼を請負い、同村内の剣術学校近くにある林へ入っていたところ、「おーい、お願い、誰か来てちょうだい……」と、助けを求める弱々しい声を聞きつけた。声のする方へ行ってみると、大楠の近くに蓋が破損している井戸があり、その底に落ちてケガをして動けなくなっている中年女性を発見、引き上げた。
冒険者パーティは当初、使われなくなっていた古井戸の存在に気づかず、誤って転落してしまったのかと思っていたが、話を聞くとそうではないらしい。
「井戸があることを知らなかったのは確かだけど、間違って落ちたんじゃないの。狙って落とされたのよ……」
中年女性は町内の剣術学校で清掃員のアルバイトをしていた。
その日の前日、校内の一室で、とある瓶を見つけたのだという。瓶の側面には『開封するべからず』と書かれたシールが貼られており、中には一匹の小人が閉じ込められていた。道化師のような黒い衣装を着て、肌も真っ黒く、顔だけが白い。名前は知らなかったが妖精のようである。きっと悪さを働いて学生に瓶詰めにされてしまったのだろう、と可愛そうに思った中年女性は、外に出たがっていたその黒い妖精を助けてあげた。
黒い妖精はペコペコと頭を下げ、字を書くしぐさをして見せてきた。中年女性が紙とペンを与えてやると、人語でなにやら書きはじめた。
『学校近くの林に大楠があります。そこから東へ20歩、北へ10歩、歩いてください。さすれば、あなた様に幸せが訪れるでしょう!』
字を読み終えて顔を上げると、黒い妖精は姿を消していた。
助けてあげた御礼をしてくれるのだと思った中年女性は、妖精が書き示してくれたとおり、大楠から東へ20歩、北へ10歩、数えながら歩いた。そして、最後の一歩で古井戸の蓋を踏み、真っ逆さまに落ちたのである。
「恩を着せるつもりはなかったけれど、まさか善行を仇で返されるなんてね……」
中年女性は落下時に足を骨折していた。古井戸は数メートルの深さがあり、自力での脱出は絶望的。冒険者パーティがたまたま赴いていなかったら、衰弱死してしまっていただろう。
瓶詰めにされていたのは、〝ドゥアガー〟と呼称される存在である。前々から質の悪さが指摘されていた小妖精だ。困っているところを助けてやると、その恩を仇で返してくるのである。以前は軽い悪戯程度のものだった。しかしこの頃、命が奪われかねないような事案に発展してしまうケースが増えてきていたのだ。
それらの事情を考慮し、本帝国ではドゥアガーを、「人に重大な危害を加えるおそれがある存在」として、人畜無害または積極的駆除対象外の扱いである『妖精』の括りから除外。『魔物』指定とし、積極的駆除対象とする意向となった。
帝国政府は今後、各ギルドを通して周知させていく方針だ。