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[No.39] 【お悩み相談】村に帰れなくなったおじさん

 ♀ パロマ 24歳(住所不定・ポストマン)


 私は手紙を配達するポストマンをしてます。仕事柄、各地を点々としているため、一定の地に暮らしている人よりも、変わった話を多少は聞き知ってると思います。【お悩み相談】のコーナーで読んだ〝リピートヒューマン〟という存在との遭遇も、その名称までは知りませんでしたが、私自身、経験したことがあります。


 しかし、先日初体験した事象は、どう考えても謎でしかありませんでした。同僚や先輩に()いても、私と同じ体験をした人はいません。その事象にとても悩まされていた人がいて、助けてあげたかったのですが、解決することができずに(くや)しい思いもしました。


 今後同様の出来事に遭遇したときに()かせるよう、対処法が知りたいのです。


          ◯


 私は手紙を運ぶため、とある村まで森のなかの道を歩いていました。


 村近くの三叉路(さんさ)まで来ると、体格のよいおじさんが立て看板のそばにぽつんと座っていました。なにか悩ましげな表情だったので、立ち止まって話を(うかが)ってみました。


「……村に帰れなくなったんだ」


 おじさんの村は、私の配達先の村でした。村の入り口はまだ見えていないながらも、すぐそこにあります。訳ありで追い出されてしまったのかと思えば、そうではありません。

 村では、(やま)いで寝込んでいる娘さんが、奥さんとともに、おじさんの帰りを待っているそうです。べつな町で薬を入手したおじさんは、一刻も早くそれを持ち帰ろうとしていたのでした。しかし、――


「いくら歩いても村が見えてこないんだよ」


 村は目前なのに、どうしてもたどり着けないらしいのです。にわかには信じられない話ですが、おじさんはかなり深刻そうで冗談を言っているとも思えません。

 私は一緒に村へ向ってみることを提案しました。おじさんは「きっとダメだろうよ」と弱音を吐きましたが了承(りょうしょう)してくれ、重い腰を上げました。


 そうして私たち二人は歩き始めたのですが……おじさんが言っていたとおり、いくら歩いても村が見えてこないのです。村までは一本道。迷うはずがありません。それでも……見えてこないのです。ようやく何が見えてきたと思えば、それは元居た三叉路。立て看板も同一のものでした。


「ねえちゃんが来る前にも試したんだ。通りかかった行商人(ぎょうしょうにん)と村に向ってみたが、ダメなんだよ。おれが一緒だと村に入れないんだ。ねえちゃん一人で行ってみな。きっと村が見えてくるはずだ」


 一人で向ってみると何事もなくその村にたどり着けました。


 急いで仕事の手紙を投函(とうかん)した私は、おじさんから訊いていた彼の自宅を訪ねました。


 まだ幼い娘さんがベッドで眠っていました。ただ寝ているのではなく、もう一年近くも目が覚めていない〝(ねむ)(びょう)〟なのです。私は、奥さんに村の外まで娘さんを運び出そうと提案しました。おじさんが来られないなら逆に連れて行けばいいと考えたのです。


「……いい加減にしてちょうだい。前にも行商人が来て、夫がすぐそこまで来てる、って嘘をついたと思ったら、またなの?」


 どうやら先人になっていた行商人も、私と同じことを考えたようでした。そのときには、奥さんと行商人が、娘さんをリヤカーに乗せて村の外へ出てみたらしいのです。しかし今度はどういうわけか、三叉路に居るはずのおじさんの姿が、どこにも見当たらなくなってしまったようでした。


 結局、私は奥さんに追い返されてしまいました。


 その後、村を出て三叉路へ戻りました。


「どうだった? 村に入れただろう?」


 私は、おじさんが所有している薬が村にたどり着けない原因になっているのだと思い、一度手放して村へ向ってみるように(すす)めました。


「おれも原因はこいつだと思ってるよ。だが、薬を手放すなんてとんでもない。大枚(たいまい)をはたいてようやく手に入れた代物(しろもの)なんだ。ねえちゃんを疑っているわけじゃないが、(あず)けてとんずらされたらしまいだ。ひょっとして次は、薬を持ってるねえちゃんと会えなくなっちまうってことも、ありえなくないしな」


 おじさんは魔法でも動きそうもないくらい(かたく)なでした。


 私は、新たな配達先に向かわなければならないこともあり、心残りでしたが、おじさんと別れてしまったのでした……。



     ■■■ (回答) ■■■


 申し訳ございません。筆者も解決策がわかりません。オカルト文献(ぶんけん)をあれこれ紐解(ひもと)いてみても前例が見当たりませんでした。その人物に魔法や魔術が掛けられたことによって目的地へたどり着けなくなるという話ならわかるのですが……どうやら違うようですね。新たな都市伝説的事象の可能性があります。


 おそらくは〝眠り病〟を治すその薬が原因であることは確かなのでしょう。ただ、薬の所持で帰れなくという事例は、やはり聞いたことがないのです。お役に立つことができず、慙愧(ざんき)の念に()えません。


 引き続きリサーチを継続し、何かわかりしだい本紙でご紹介いたします。


 今後とも購読をよろしくお願いいたします。

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