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[No.38] ビッグフット現象が発生

 七日早朝、《サバーブ村》の農夫(のうふ)・ジェイコブさん(53)は、畑仕事に行くため玄関の戸を開けた。くわを肩に(かつ)ぎ、昇ってくる太陽を(まぶ)しそうに眺める。そして、今日も一日何事もなく過ごせるようにと願を掛け、足を出す。……が、はじめの一歩目から災難に見舞われてしまった。


 足を下ろした場所には、()って当たり前の地面がなかったのだ。穴になっていたのである。虚空(こくう)を踏んだジェイコブさんは、もちろんバランスを崩して穴に落ちてしまう。しかし幸いにも、穴の深さは1メートルそこそこだったので、腰を打ちつけるくらいで済んだ。


 立ち上がったジェイコブさんは驚いた。


 穴の深さは大したことはなかったが、広さが尋常(じんじょう)ではないのだ。後方と正面の(ふち)から縁までは、10メートル以上離れており、『対岸』と呼んでも遜色(そんしょく)ない。首を左右に振ると、横幅はもっともっとあり、直径30メートルほどだった。縦10m×横30m……まるで水が抜かれた小池のような穴の中にジェイコブさんは立っているのだ。


 こんな地盤沈下は前夜まで生じていなかった。


 穴から出たジェイコブさんは、全貌(ぜんぼう)を把握するためにその縁を歩いてまわる。


 片端まで来ると、ゆるやかな曲線だった穴の縁が凸凹(でこぼこ)と波打っていた。


「こいつはただの穴じゃないぞ……でっかい足跡だ」


 ジェイコブさんが察したように、家の鼻先に出来ていたのは〝巨大な人型の足跡〟だったのである。凸凹と波打っているのは、足跡の先端、五本ある指の部分だった。俗に言う〝ビッグフット〟だ。


 ビッグフットとは、巨大な人型の足跡が突如(とつじょ)として生み出されてしまう怪現象である。夜間にのみ起こるため〝ナイトスタンプ〟とも呼ばれ、どこでいつ起こるかなどは解明されていない。過去には市街地でもビッグフット現象が起こり、範囲内の建物という建物がペシャンコとなる大惨事になった。現象の前には男の野太い叫び声が聞こえる、とか、空からバカでかい一本足が降って来た、といった(うわさ)があるが、足跡が形成される瞬間を目撃した確たる事例は報告されていない。


「足跡があと少しズレていたらと思うとゾッとするな。家の手前でよかった。……だが、玄関前をこのまま〝足跡の空池〟にしておくわけにはいくまい。土を持ってきて埋戻さなくちゃなぁ……」


 と、ジェイコブさんは、手にしていた(くわ)をスコップに持ち替えたという。


 心中(しんちゅう)をお察しする。

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