[No.35] 男人禁制の山で、両目を潰された男性の全裸遺体
《クリフタクリパ山》は、男人禁制の山として知られている。
切り立った断崖が多く、〝ハーピー〟の巣窟になっているからだ。
このハーピーという魔物は、胴体と頭は人間の女性のつくりをしているが、両腕は肩の付け根から鳥の翼で、両足は膝から下が鳥の脚になっている。『女人鳥』ともいわれるように、オスは存在しておらず、メスしかいない単性生物である。しかし、単独で生殖活動を行っているかといえば、そうではない。繁殖には〝オス〟を必要とする。それは、〝人間の男〟だ。
繁殖期になったハーピーは、人間の男を狩りに出かける。標的にされるのは青年。ターゲットを見つけると、後方上空から急降下し、猛禽類のような鉤爪のある後ろ足で一気に掻っ攫っていく。鉤爪は両肩にがっしり食いませられるので、逃げるのは至難の業。すぐさま空高く舞い上がってしまうので、鉤爪から逃れられたとしても地上へ真逆さまである。
ハーピーは捕獲した〝お婿〟を、断崖絶壁にある巣へと持ち帰る。目もくらむような岩崖のため、一旦連れ帰られれば、これまた逃げるのは至難の業。その上、まっさきに両目を潰されるのだ。地上数十メートルの高さで、盲目にされたとあっては、もはや逃げ道が絶たれたも同然。
そして衣服を剥がされ、子作りの道具として生かされ続けることとなるのだ。
ハーピーの乳房は繁殖期になると張ってきて母乳を出す。これは時期に産まれる雛に与えられるものではない。産み落とされた卵から孵化する雛は、母親同様に動物の死肉を喰らう。よって母乳は、父親となる人間の男の生命を持続させ、精力を付けさせる餌として与えられるためにあるのだ。ハーピー自身の食べ物は動物の死肉であり、人が口にできるものではない。むりやり押し付けられる乳房を嫌がっていても、空腹に耐えかねた男は生存本能からそれを吸い飲まざるを得なくなる。
腹が出て妊娠がわかると、そこで〝お婿〟の役目と命運は尽きてしまう。ハーピーは交配に使っていた人間の男を、あっけなく崖下に放り捨ててしまうのだ。人肉は喰らわないため、邪魔になってただ捨ててしまうのである。高い高い崖っぷちから落とされてしまうので、たいがいは地面との激突により、即死となって幕を閉じる。
その〝お婿〟にされていたと思われる人物が、クリフタクリパ山の崖下で発見された。二十代~三十代前半とみられる男性は、すでに死亡。全裸で、肩に鉤爪の傷があり、両目を潰されている特徴から、ハーピーによる〝お婿被害者〟と結論付けられている。
付近の男性住民は決して山に分け入ることはないため、被害者は男人禁制を知らずかその禁を破って通りかかってしまった旅人と思われている。
繁殖用として連れ去られる人間は、なにも若い女性に限ったことではない。知らない土地へ出向くときには、どんな危険が潜んでいるか、情報収集を怠ってはならないだろう。