[No.34] 時計塔を狂わせていた〝お騒がせ犯人〟を、さすらいの冒険者が暴く!
「もっと街じゃあ、懐中時計や腕時計なんていう〝個人で持てる時計〟があるらしいけど、ここらへんで持ってる人なんて冒険者くらいだろうからねぇ。私たちスピルダンテの町民は、時計塔が時間を知る頼みなのよ」
《スピルダンテ町》では、町の主要何カ所かに時計塔が建っている。その名の通り、時計が取り付けられている塔だ。他の町にある時計塔と同じように、早朝、午前、正午、午後、夕方の計五回、決まった時刻がくると、〝鐘守り〟が鐘楼に登って鐘を打ち、今の時間を広域にも届けられる仕組みになっている。若干の誤差はあるものの、時刻がくれば、いくつかある時計塔から「カラーン、カラーン」という鐘の音がほぼ一斉に鳴り出す。
だが、近頃、その鐘の音が足並みを乱し、まばらになる事案が相次いでいた。
どの鐘守りも、時刻通りに鐘を鳴らしているのだけれど、ズレてしまうのだ。それは単純に各時計塔の針がズレてしまっているせいだった。しかし、これまでは歯車の調子によって多少のズレはあったが、その幅が大きすぎる。歯車が故障しているわけでもないのに、一時間から二時間も遅れることがあり、そのつど修正しても、鐘を打ち鳴らすときにはズレてしまっているのだ。
――魔物か妖精のしわざに違いない。
と、町の自警団やハンターが交代で見張ってみたまではいいが、何も姿を現さない。それにもかかわらず、鐘の音はバラバラになってしまう。町民たちは始業や終業の指針を失い、これはもう日時計生活に逆戻りか、と困り果ててしまっていた。
そんな折、走鳥にまたがる冒険者が町にやってきた。
住民の会話を耳にした彼は、対策会議が開かれていた集会所へと出向き、「みなさんの問題を解決できるかもしれません」と、話を切り出したのである。
寄り集まっていた人々は、はじめ渋い顔を浮かべた。冒険者とはいうものの、やってきたのは十代半ばの少年にしか見えない。そんな子供に解決などできないだろうと思ったのだ。しかし、少年が「報酬金はいらない」というので、一応話は聞いてみることにした。
「雨の日はズレが生じなかったのでは?」
そう尋ねられた町人たちは、ああそういえば、と頷く。
時計がズレるのは、晴れの日だけだ。
「だったら決まりですよ」
少年は、いまだ胡乱げな町人数名を引き連れて、時計塔のひとつに向った。この日も空は晴れており、時計はズレてしまっている。その原因を今から突き止めて見せるというのである。
「用意した水を歯車に向ってかけてみてください」
そんなことして何になるんだ、と町人たちは口々に言いながらも、少年の指示にしたがい、騙されたつもりで桶に汲んでいた水を撒き散らした。するとどうだ、目には見えていなかった〝そいつら〟が姿を現したのだ。
歯車にすがりついている〝そいつら〟は、ゴブリンに似ていた。だが別物だ。ゴブリンの肌は緑色で人肌に違いが、振り撒けられた水を滴らせる〝そいつら〟は焦茶色で肌はトカゲじみた鱗状になっている。
「こいつらは〝グレムリン〟っていうんです。森やなんかに潜んではいるんですけど、機械仕掛けの物が好きみたいで、人里に来てそういうのを見つけると悪戯を働くんです。だから都市部ではちょくちょく問題になってますね。人体へ直接の危害を加えはしないので、今のところ脅威度は低くて、ピクシーなんかと同じく妖精と魔物との中間的な扱いなんですけど」
少年が説明している間に、水をかけられたグレムリンたちは逃げ出そうとした。しかし町人たちがそれを阻止し、数匹は取り逃がしたものの、残りは殴り殺しにして退治に成功。解決法を学び、一件落着を迎えた。
「時期に魔物になる日も近いですね」
少年はそう言い残し、走鳥にまたがって町を去っていった。
スピルダンテ町の人々は感謝を述べている。
「若い冒険者にはろくなのが居ねえと思ってたが、間違いだったと反省してるよ。やるやつは、やるんだな。侮っちゃいけねえ。報酬も出すって言ったんだが、それも受け取らずに行っちまいやがった。まったく頭が下がるね、ありがとよ」
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