[No.20] オーク討伐隊 ねぐらの洞窟で女性の遺体複数収容
19日午後、オーク討伐隊は、《ディストランテ山》の中腹にある洞窟内で女性複数名の遺体を発見して収容、息があった一名を救出した。オークに連れ攫われていた被害者と見られる。
ディストランテ山付近の村々では、女性が行方不明になる事案がたびたび生じていた。当初は各村内での不明者数が一人二人であったことや、他村間との情報交換不足によって原因特定が難しかった。付近の情報が伝わってくると、行方不明者が全員十代~二十代の若い女性であることから、不慮の事故ではなく、組織立った連れ去り犯行の線が強まる。
警備を強化し、原因特定を急ぐ中、《ジレッヴィ村》で誘拐事件が発生。オーク三体が民家に押し入り、十代後半の少女が拉致されたのだ。村内の警戒にあたっていた自警団員二名がそれを発見して交戦を試みるも、太刀打ちができず、棍棒による反撃にあい、頭蓋骨陥没や複雑骨折の重傷を負うことになった。
この一件により、村々での行方不明事件はオークによるものと断定。各村内のハンター、ギルド派遣のハンター、訪れていた冒険者、自警団有志など(いずれも男性)による混成討伐隊が結成。オークが向った先のディストランテ山を捜索にあたっていた。
そして19日明け方、ギルド派遣の熟練ハンターが、暗がりの山中をうろついていたオーク一体を視認。体長二メートルほどの雄の成体である。殺された鹿を引きずっていたことから、夜間に食料狩りに出かけ、ねぐらへ帰宅する途中であると判断。その場で交戦はせず、冷静に後を付け、崖下にあった洞窟に入って行くのを見定めた。
混成討伐隊による一斉攻撃は、日が昇りきってから開始された。夜行性のオークが寝静まった時間帯を狙ったのだ。洞窟内に人質が居ることを考慮し、燻しや焼き討ちは行わなず、潜入して討伐と奪還を行う難しい作戦である。しかし幸いだったのは、オークがねぐらにもちいる洞窟が、複雑化した迷路のようなつくりではないことだ。枝分かれの少ない単調な内部構造なので、戦力の分散を最小限に留めることができた。
読み通り、オークたちは眠りについていた。たいまつの灯りのなか各員が配置につき、魔法使いの発光魔法ののち、一挙にけしかける。装備はあらかじめ洞窟戦闘が念頭に置かれていた。大剣や長槍の装備ではなく、大振りしても壁に阻まれないような丈の短い武器での、心臓や喉元を狙った一撃必殺である。
戦闘は終始有利に進んだ。おおかたのオークは眠っている間に致命傷を負い、息絶えた。第一波を逃れたものも混乱のうちにあり、それを多勢でもって一網打尽にするのは難しいことではなかった。混成討伐隊は中軽傷者を数名出したものの死傷は出さず。洞窟内にいたオークの成体と幼体、数十体を皆殺しにした。
女性たちが囚われていたのは、最奥部にある縦穴だった。入口は石板で蓋をされて逃げ出せないようにされていた。穴の底に全裸で折り重なるように倒れており、ジレッヴィ村で攫われた十代後半の少女を除き、すでに全員が事切れていた。
オークは蹂躙していた女性が死亡すると、新たな女性を攫ってきていたものと思われる。遺体の損傷はどれもひどく、十代前半と見られる少女に至っては腹が内側から激しく裂けてしまっていた。唯一の生存者となったジレッヴィ村の少女は、あまりのショックで口がきけない状態だという。
「(自警団員)討伐には成功したものの凄惨な結末を迎えてしまった。原因の特定まで時間がかかってしまったことが悔やまれる。今後は周辺の村と連携を密にする必要がある」
これまでのオークによる女攫いは、徒党を組で村に押し掛け、何人もの女性を一度に攫って行くという手段だったため、特定するまでもなかった。しかしそれが今や変容してきているようである。人を攫う魔物はあまたあり、なかでも、陵辱や繁殖目的で女性が狙われるケースが後をたたない。