[No.19] 【お悩み相談】奇妙な男の子
♀ ニキータ 23歳(ボルグチッタ町・喫茶店員)
ちょっと気になってることがあって、ここで質問させてください。
この前、《ギニングスター村》という僻地の村までわざわざ遠出してきたんです。勤めている喫茶店で使っている珈琲豆が、その村の特産品なんですよ。豆くらい行商人からテキトーに買い付ければいいですよねぇ。でも店長のこだわりなんです。それで仕方なく。
出だしから話が逸れちゃいました。べつに珈琲豆は質問には関係ないです。
質問は、その村の入口にいた男の子のことなんです。
彼は村の境界となっている木製の門脇に立っていたいました。
到着した私が、「こんにちは」と言葉をかけると、
「こんにちは! ここはギニングスター村だよ!」
元気に挨拶を返してくれました。歳は五才くらいで。マッシュルームのような茶髪の頭に、くりくりした目と笑った時にできるえくぼが印象的な男の子です。このときはまだ、礼儀正しく可愛い子だな、としか思っていませんでした。
買い付けを終えたときには夕方になっており、私は当初の予定通り、村の宿屋で一泊することにしました。そのため宿屋へ向っていたんですが、門の近くを通りかかった際、男の子がまだ門脇に佇んでいるのを見かけたんです。その後ろ姿の立ち位置は、昼間見たときとすっかり同じところのように見えました。
小さい子が、日が暮れかかっているのにもかかわらず、外に出ずっぱりなのは気になります。
私は家に帰るように諭すことにしました。
「ねえ、ぼく?、おうちの人が心配するよ?」
「こんにちは! ここはギニングスター村だよ!」
男の子は初めて会ったときと同じことを言い、同じように笑いました。
「ぼくのお名前は? おうちはどこにあるのかな?」
「こんにちは! ここはギニングスター村だよ!」
「パパとママのお名前は言える?」
「こんにちは! ここはギニングスター村だよ!」
「……ね、ねえ?」
「こんにちは! ここはギニングスター村だよ!」
こちらがなんと言おうと、声をかけるたび、男の子はその言葉だけをただただ繰り返すして、笑うのです。すこし異常でした。笑顔が却って不気味です。私はなんだか急に怖くなって、その場から逃げ出してしまいました。
宿屋に駆け込むと、おかみさんに訳を話しました。村の門のところに変わった男の子が居て、ぜんぜん家に帰ろうとしない、と。
「それは変な話しねえ」
「そうなんです。変なんですよ。一緒に門まで行って見てくれませんか?」
「違う違う。あなたが言うような特徴の男の子なんて、この村にはいないってことよ」
ゾッと鳥肌が立ちました。
おかみさんが言うには、村に五才ほどの子供は何人かいるが、マッシュルームのような茶髪頭の男の子など存在してはいないということでした。それでも私は、そんなはずないから一度見て欲しい、とおかみさんを引き連れて門へと引き返しました。
しかし、いつの間にか男の子は、門の前から姿を消していたのです……。
町に帰ってから店長に話を聞かせても、見間違いだとか、作り話だとか言って、ぜんぜん信じてくれないんです。ムカついたので珈琲豆にこっそりツバを吐きかけてやりました。
私が見てしまったものは、声をかけてしまったものは、なんだったのでしょう? ご存じありませんか? 害はないでしょうか、気になって夜も眠れません。
■■■ (回答) ■■■
〝リピートヒューマン〟ではないかと思われます。
人であって人にあらず、魔物でもなければ精霊とも違う、霊魂ですらない――いわゆる、都市伝説に分類される超常現象的存在です。
彼らは、どんな内容の言葉をかけられても、同じことだけを呪文のように繰り返し、同じ行動を取り続けるそうです。「いそがしい、いそがしい……」と動き回る中年女性や、「くわばら、くわばら……」と祈りを捧げている男性老人との遭遇例が過去にあるようです。
ニキータさんが出逢ったという男の子の性質と合致していますよね?
参考資料として調べてみたオカルト文献によると、リピートヒューマンによる被害の報告は無いようです。気に病まず、『ああ、あんなこともあるんだな。世の中って不思議だな』程度に考えておけばいいと思いますよ。
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