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[No.17] まさか…… ニラと間違え、マンドラゴラ引き抜く

 農婦のうふのモーリーンさん(54)は、日射ひざしが落ちついた昼下がりに畑へとおもむいた。

 家の裏手にある畑のうねには、丹精たんせい込めて育てあげたニラが並んでいる。たばねられた剣のように勇ましく群立ぐんりつしているニラは、いよいよ収穫を残すばかりとなっていた。

 かごたずさえたモーリーンさんは、さっそく収穫に取り掛かった。

 その作業において注意していることがあると語る。


「スイセンと間違えないようにすることね。ニラとよく似ている植物よ。細長い葉の形も、緑色の色具合もそっくり。けど、スイセンには毒があって食べられないの。知らずに収穫して食べてしまうと中毒になって大変だから、気をつけてるのよ」


 モーリーンさんがおっしゃるとおり、スイセンは食用に不適切である。綺麗な花を咲かせて観賞するにはよい植物だが、食用植物ではないため、食べてはならない。嘔吐おうと下痢げりといった症状を引き起こし、場合によっては死に至ることもあるのだ。


 スイセンは、自立歩行性球根植物に分類される。球根きゅうこんの根を足のように使い、自ら地面を歩いて移動、適切な土地を見つけ、地中へ潜って根ざし、発育を開始する流浪るろうの植物である。ゆえに、土壌どじょう環境が整っている畑などによく混じっていたりする。ニラと似ていることから、ニラ栽培者にとっては厄介やっかいな存在でもあるのだ。


「もう長いことニラ栽培をしてるからスイセンと間違えることなんて無いのよ。でもね、アレは見分けることができなかったわ……」


 モーリーンさんは、うねのかたわらに腰をおろして一株一株丁寧にニラを抜き取り、籠の中に入れていった。そしてついに、ソレを引き抜く順番が回ってきてしまう。


「ニラはわりと簡単に引き抜くことができるんだけど、アレはちょっと力を入れる必要があって手応えが違ったの。今思えばそこで変だなと手を止めればよかったのだけど、やっぱりどう見たってニラだったから、すこし根が強く張ってだけかと思ってしまったのよ」


 ピギャーーーーーーーーッ!!


 引き抜いた瞬間、筆舌ひつぜつに尽くしがたいほどの大音声だいおんじょうが空気を引き裂く。


 そのニラの根っこは、ニラのものではなかった。いも人型ひとがたになったようなモノが取り付いていた。手足じみた根茎こんけいをばたつかせながら、目と口のように穿うがたれたくぼみから高音の叫び声が発せられているのだ。――そう。引き抜いたのはニラではなく、〝マンドラゴラ〟だったのである。


「今まで耳にしたことのないような悲鳴だったわ。うるさいにもほどがあってね、止めないとどうにも我慢ならなくて、耳をふさぐよりもとっさにカマをつかんでたの」


 畑の除草に用いる鎌が腰にしてあり、即座にその鎌をひっつかむと、ためらうことなくマンドラゴラの顔面へと突き刺して胴体を真っ二つに斬り裂き、声の根を止めた。


 モーリーンさんの判断は適切だった。マンドラゴラの絶叫は、たとえ耳をふさいだとしても防げるものではなく、聞き続けてしまうと聴力を失ってしまうばかりか、精神に異常をきたして発狂してしまい、最悪、死亡するケースもある。


 マンドラゴラは植物系の魔物だが、薬草や錬金術にいたるまでの幅広い分野で素材として重宝ちょうほうされている。通常、葉の形状は楕円だえん形をしていため、今回発見された個体は新種である可能性が高く、亡骸なきがらは、その特性を調べるために薬師ギルドや錬金師ギルドの研究機関に送られる予定となっている。


「二度と引き抜きたくないわ。はやくニラとの区別方法を見つけて欲しいわね」


 ニラ栽培者にとっての悩みの種がひとつ増えてしまったようだ。

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