[No.165] 【読者の集い】いざ共闘へ!帝国軍がひた隠しにするD3特殊作戦群の全貌をここに告発する!
♀ オズワール 24歳(所在地不明・統一解放義勇軍)
帝国軍の本拠地が置かれた《帝都》では、日々、恐るべき実験が繰り返されています。
防衛総司令部が管轄している技術開発所。そこに〝D3研究群〟と呼ばれている公表されていない特殊作戦部隊が配属されています。D3とは、亜人(デミヒューマン)をあらわす記号です。つまり、D3研究群とは、〝亜人研究群〟ということになります。名が示すとおり研究対象にしているのは、亜人種です。
帝国軍は、近い将来、亜人種との全面戦争になることを想定しています。そこでD3研究群という研究機関を極秘裏に設け、亜人種個々における特性や能力を徹底的に調べ上げ、その弱点を探らせているのです。
実行されているのは、想像を絶する人体実験。
有効となる魔法の属性や効果的な物理兵器を調べるため、亜人たちが死に至るまで攻撃を加える。あらゆる毒物劇薬等の投与をおこなって耐久力を試験し、死に至るまで経過観察をする。病気や呪いを治す特効薬に使えないかと血液や臓器を抜き取り、ときには生きたまま解剖する。帝国軍が言う『亜人種の殺処分』の内実は、こういうことです。
魔物の血が半分混ざっているということだけで、亜人たちは罪もないのにただ一方的に捕らえられ、強制連行されたのち、魔物同様の扱いで、実験台の上に乗せられてしまっているのです。
D3研究群が実施しているのはこれだけに留まりません。
おぞましい繁殖実験にも着手しています。
どのような魔物からでも亜人は誕生するのか?
それを調べるため、罪人を使い、魔物との性交渉を無理強いさせているのです。また、調査対象にしたい亜人種がどうしても捕らえられないときには、親となる魔物を捕まえてきて、罪人と交配させるというようなことまでやっています。
これらはもちろん雑交体製造防止法(アンチキメラ法)に、明確に違反するものです。人間と魔物の掛け合わせ実験は、魔物同士の掛け合わせよりも、罪が重い。そう定めた軍自体が、法律を反故にしています。
そして現在では、交配実験は次の段階に移行しています。
亜人同士の血が混ざったら?
亜人と魔物が混ざったら?
亜人と純血統の人間が混ざったら?、どうなるか。
生まれてくる子孫に継承されていく特性の検証に移っています。
この試みは、すでに、世代をまたいでおこなわれています。想像以上に進行しています。きっと信じられないという方がほとんどでしょう。ですが、……
帝国軍には、交配実験によって世の中に産み落とされた、亜人たちで組織される秘密部隊が存在しているのです。
D3研究群から誕生した彼らは、新生児のときから〝D3特殊作戦群〟の所属となります。そして物心がつく前から英才教育という名の洗脳を施されます。まず叩き込まれるのが、自分たち亜人が、どれほど下等で忌まわしい存在か、恥ずかしい存在なのかということ。そして、純血統たる人間のために、皇帝陛下のために尽くすべく生まれてきたのだと、徹底的に教唆され、忠誠を誓わされることになります。
彼らは、性行為は任務のためにあるのだと教育されます。これは将来的に先の交配実験に使用することを見込んでのものです。また、亜人と人間の交配実験を兼ねた、帝国兵の慰安任務に動員されるためでもあります。このとき人間の親が誰であるのかを有耶無耶にしてしまう目的で、一度に不特定多数と交わることを強制されます。みな疑念など持たず身を捧げます、なぜならば、任務だからです。実質的にはもう性奴隷でしかないのに……。
万が一、任務に背こうとする者があれば、その者は重大な軍規違反となります。これは洗脳失敗の現れとされ、不良品の烙印が押されてしまい、名実ともにレイプと化した交配実験で激しく犯されたのち、実験台送りにされます。帝国軍式『亜人種の殺処分』と同じ末路が待ち構えているのです。
彼らはまた、スパイ要員としての教育も施されます。帝国が敵対している隣国の《セネショア共和国》に送り込み、諜報と工作活動をさせることが狙いです。亜人撲滅を掲げている帝国が、まさかその亜人によって組織された部隊など送り込んでくるはずがない。その裏をかき、もう何人ものスパイが投入されています。
私たち統一解放義勇軍の共和国側の同胞筋から、亜人スパイが小事から大事までの様々な工作を企てているということが、明らかにされています。とりわけ、殺人や強姦などの凶悪犯罪を引き起こした亜人は、ほぼ全てが帝国側からの工作員だと特定されています。亜人種と人間のあいだに軋轢を生じさせ、共和国内で、亜人に対しての反発の声を高めることが狙った偽旗作戦。それが横行しているのです。
帝国が領土と主張する《ドライエート山》を共和国が占拠せざるを得なくなったのも、スパイの工作活動が原因です。
帝国軍は共和国内で暮らしているエルフを拉致しています。
行き来する経路に使われていたのがドライエート山でした。食い止めるために進軍せざるを得なかったのです。そしてこの拉致作戦を担っているのが、D3特殊作戦群に所属する亜人部隊なのです。
拉致の被害に遭うエルフは、共和国軍側の動きを探る狙いもあり、軍属が多いです。拷問をして情報を聞き出し、長寿の秘訣を解明するための実験台にされ、容姿が端麗であることから毎晩のようにレイプが繰り返される。そうして生まれた〝ハーフエルフ〟が亜人部隊の隊員として組み込まれていく……。
一旦、話を交配実験に戻します。
亜人同士が世代を経て掛け合わさった結果がどうなるのか、気になりませんか?
私がお教えしましょう。
たとえば、頭に角のある亜人と臀部に尻尾のある亜人が、子を産んだとします。その子どもには、両親の角と尻尾が引き継がれますが、大きさはかなり目立たなくなります。このように、次世代には、外見的特徴が半減以下となって、純血統の人間に近づきます。しかし、腕力が強い、足が速い、臭覚に優れる、などの身体能力に関しては、低下はすれど、それでも人間離れしているほどに残るのです。
数世代後ともなれば、見た目はほぼ人間であるのに、基礎能力値は人間のそれを大きく上回った存在――超人が誕生します。
現に、存在しています。
超人たちは、自分たちが混じりっけのない純血統の人間だと思っていることでしょう。なぜならば、彼らには親代わりとなる人間が与えられることになるからです。みずからの誕生経緯は伏せられたまま、ごくふつうの人間として育てられていき、最終的には、軍のエリートになることが約束されてもいます。
みなさんには思い当たる人物が居るのではないでしょうか?
並外れた身体能力を有し、若干18歳にして少尉の階級に着き、帝国屈指の飛竜戦闘部隊に所属。ワイバーン部隊の飛行隊長に任命されている〝あのお方〟が、その一人です。〝彼女〟の耳の形状をよくご覧になってみてください。帝国国民が忌み嫌っているエルフの名残をうかがうことが出来ることでしょう。
亜人の子孫が純血統の人間として部隊に配属されている。本人は亜人の末裔であるにも関わらず、そうと知らず、亜人たちの撲滅に加担してしまっている。いいように利用されている。軍部の人間でも、この事実を知っているのは一握りでしかないはずです。
最後に、私が何故このような秘匿された内情に詳しいのかもお答えします。
私の名はオズワール、元帝国兵です。
所属していたのは、D3特殊作戦群。
交配実験という名の強制性交により、名も知らぬ父と母、鬼人(鬼種族との混血児)と犬人(魔犬種族との混血児)の間に生まれた亜人二世。
かつてはエルフの拉致をおこなっていた実行部隊の一人。
今は、私のような不良品の脱走兵で組織された、統一解放義勇軍の一員です。
悲しみと憎しみの連鎖はもうおしまいにしましょう。
これをもって、帝国軍打倒の共闘表明といたします。
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