[No.149] 公園に全裸女の酔狂者 魔物?妖精?人間? 判断できず苦慮
27日夜9時ころ、《ボルグチッタ町》の自警団の詰め所へ、「裸の女が公園で騒いでいる」と付近の住民から通報が入った。
住民によると、騒ぎを起こしているのは二十歳前後の女性と思しき人物。上も下もすっぽんぽんで、公園の芝生にあぐらをかいて陣取り、瓶と杯を手にひとりで酒盛りをしているらしく。大声で何事かを喚いたり、泣いたり、笑ったり、気分の移ろいが激しいことから、だいぶ酔っ払っているのは確かである。
しかし、容姿端麗の若い全裸女のため、男性を籠絡するような女人型魔物という可能性があり、うかつには近づけず、非常に困っているのだという。
相手が妖婦であると想定し、自警団は急いで女性団員を召集して対魔装備を整える。そうして、女性主力のチーム構成で、公園へ馳せ参じたときには、夜9時半を過ぎていたが、問題の女は依然として全裸のまま空になった酒瓶を抱きかかえ、「酒らぁ~、酒! 46度を酒樽でもってこい!」と酩酊状態で喚き散らしていた。
男性団員たちが規制線を設け、たかってきた野次馬を公園内に入らせないように務める中、女性団員らが距離を取りつつ女の〝種族質問〟にあたる。
「こんばんは~お姉さん。お酒を飲んで良い気分になっているところ申し訳ないですけど、住民のみなさんが迷惑していますよ? どこから来たのかな?」
「森だよ、森! 森の泉! そんなことよりはやく酒もってこぉーい!」
人外の領分である『森の泉』というワードに、女性団員たちに緊張が走った。やはり魔物だろうか。だとすれば、女の外見には人間以外の特徴が見当たらないことから〝完全擬態型〟ということになる。だが、酔っているための支離滅裂な言動とも受け取れ、まだ断定はできない。文字通りに尻尾でも出さないかと思って、族質をつづけた。
「まずはその目に余る格好をどうにかしましょうか」
「あぁん? 裸だったら何が悪いってのさ!」
「お願いですから、素直に言うことを聞いてください。住民のみなさんは、あなたが魔物じゃないかと不安になっているんですよ。さあ、服はどこです?」
「……服らぁ?」と、その言葉が不愉快なのか、真っ赤になっている女の顔がしかめられる。「服なんてものはニンゲンが着るもんらぁ~、なんで〝ナイアス〟のわたしが着なきゃなんないらぁ~! ニンフ族への冒涜かごらぁ~!?」
酒瓶の底を地面に叩きつけ、女がよろよろ立ち上がった。肌は高潮しているが、もともと白肌であることは見て取れ、亜麻色の巻き髪は、腰下まで垂れているほどの超ロング。胸や腰周りの肉付きも豊かで、全裸生活を基本とするニンフ族の妖精だと言われれば、そう見えてきてしまう。
魔物か、妖精か、脱衣癖のあるただの酔っ払いか……。
公園内から衣服が見つからなかったこともあって、特定は難航した。
魔物ならもちろん駆除しなければならない。人間の女性とわかれば、力づくで取り押さえるところ。しかし、妖精となると、保護条例によって傷つけることが禁じられている場合があるため、手荒な真似にうって出ることができないのだ。
苛立った種族不明の女が「酒よこせっ!」と空瓶を振り回して暴れはじめてしまい、自警団はこれ以上は問答による見極めが難しいと判断して、ハンターに応援を要請した。ほどなく駆けつけた女性ハンターが、草葉の陰から吹き矢を用い、荒れ狂う女の臀部に向かって麻酔針を打ち込む。いったん眠りにつかせ、酒が抜けきるのを待つことにしたのである。
いびきをかく女の手足を縄で拘束し、護送馬車の檻に放り込み、町外れまで連れていき、自警団員たちが交代で朝までつきっきりになって見張りに立つ。日が高く昇って女が目を覚ますと、結果が出た。
「あのぅ……わたしは森の泉に暮らす水の妖精〝ナイアス〟です。昨夜は、町のニンゲンの皆様にご迷惑をおかけしてしまい、すみませんでした」
顔面蒼白で頭を下げ謝罪した女は、酩酊時に発言していたとおり、ニンフ族の女型妖精で間違いなさそうだった。酒を飲むときに使用していた杯に、魔法詠唱をおこなうことなく、水を湧き出させたことが証明になったのである。
人里に現れて酒盛りをしていた訳を尋ねれば、
「妖精関係で日頃ストレスが溜まっておりまして、発散させようとお酒を飲んでいたのですが、つい飲みすぎてしまい、前後不覚となってフラフラ歩いていたら、いつの間にか森を抜け出て、町の公園に行き着いてしまっていたみたいです、本当にすみません……」とのこと。
魔物ではないと判明したことで、この酒癖の悪い〝ナイアス〟は森へ返されることになった。
今後の戒めとして、騒動を起こしたのが人間の女性だった場合と同じように、檻の中で半日生晒しにして放置する〝羞恥刑〟も検討されたが。前夜の大盤振る舞いな姿から一転し、亜麻色の髪で局部をひた隠しにする〝ナイアス〟が、「それだけはどうかご勘弁を!」と、償いとして、空になった酒瓶いっぱいに、病気の治癒効果がある特殊な水を湧き出させて献上したため、放免となり、事態の収束をむかえるに至ったそうだ。
公然わいせつの全裸女への罰則が、全裸男よりも厳しくなりがちなのは、上記事案のように、時として魔物か妖精か人間かの区別がつかなくなり、対応がすこぶる面倒になるケースが存在するためなのである。