[No.148] 墓守の職務怠慢 這い出したご遺体を破壊し、遺族激怒
26日未明、《ビルスタッツ町》にある霊園で、墓守の勤務にあたっていた男性・ルイスさん(47)が、墓の下から這い出してきたご遺体に襲われ、腕や足を噛まれるなどして軽傷を負った。
這い出したご遺体は、出てきた墓の墓標や身につけていた副葬品などから、ひとつきほど前、病により肺を患って他界し、霊園に安置されていた老婦人と判明している。埋葬からの時間経過や肉体の腐食具合などから、〝早まった埋葬〟をされていた生者ではない。その老婦人は、死亡した状態で棺桶を破り、土を掻き分け、自力で這い出てきていたのだ。
その夜、葡萄酒をあおりながら霊園を巡回していたルイスさんが物音に気づいて近寄って行ったときには、朽ちかけの死装束をまとった老婦人の上半身が、地面から突き出ていたところだった。
ルイスさんに向けらた顔には目玉が無く、瞼も腐り、眼窩が暗くぽっかり開いている。肉が削げて骨をむき出しにした頬で、歯をぽろぽろと落としながら不気味に笑いかけてくるものだから、彼は恐怖に囚われて尻餅をついた。
四つん這いで逃げ出そうとしたときに、追いかけてきたご遺体につかまってしまい、腕や足を噛まれたので、無我夢中になって反撃に転じる。足で思いっきりご遺体を蹴飛ばしたあと、立ち上がって頭をめちゃくちゃに踏み潰して破壊。
すると、動きが止まったご遺体の胴部分から、青白い発光体がもやもやと抜け出てくる。ひとつの球体になって浮遊すると、ルイスさんのまわりを嘲るように舞い踊ってから、夜の森へ消えていった。
「ああマズい、やっちまった……」
酔が一瞬で覚め、我に返ったルイスさんが頭を抱えて嘆けど、ご遺体を破壊したあとでは、遅かった。
老婦人のご遺体から抜け出して行った青白い発光体は、〝ウィル・オー・ウィスプ〟という夜行性の精霊である。旅人をよく道に迷わせようとするため、悪霊に分類されている。また、彼らには『死体に取り憑く』という厄介な特性があり、今回の這い出し事案は、このウィル・オー・ウィスプが引き起こしたものだった。
墓守には、墓を荒らす獣や盗掘者へ目を光らせる他に、ウィル・オー・ウィスプなどの悪さを働く邪霊への対処も任されてある。そもそも遺体に憑依させないようにすることが第一の役目なのだけれど、万が一、安置されているご遺体が憑依されてしまった場合は、すみやかに〝除霊〟をおこない、ご遺体にもしものことがないようにしなければならない。
たとえ襲われたとあっても、腐敗が進行していたとあっても、守らなければならないはずのご遺体の頭を、形がわからなくなるほど、めちゃくちゃにぶっ潰すなどすれば、大問題。
ルイスさんは、飲酒しながら職務にあたっていた怠慢により墓守を解雇されただけでなく、死体損壊の重い罪によって自警団に逮捕されることになった。彼は「見回りだけの楽な仕事だと思ってこの職(墓守)についていたけれど大きな間違いだった……」と反省の色をしめしているが、遺族にとってはそんなことは知ったことではない。カンカンになって激怒しているため、減刑は見込まれず、高いツケを払うことになりそうである。
ご先祖の安眠を守る大切な役割を担っている、と墓守の皆さんには肝に銘じていただきたいものだ。
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