[No.146] 〝賞金首アナ〟と〝のぞき詩人マシュウ〟が、グルに
弊社宛に、賞金首のアナ(年齢不詳、推定十代・自称魔法使い)と思われる人物から手紙が届きました。彼女は指名手配中でバウンティーハンターから狙われているにも関わらず、冒険団員を募る広告文を、弊社の企画へ、堂々と、ぬけぬけと投稿してきたのです。
送りつけられた文の内容を確認したところ、なんと、のぞきを働いた罪によって捜索が続けられている吟遊詩人の男・マシュウ(25)が、彼女と行動をともにしているらしいということもわかりました。
ひとまず、アナから届けられた手紙の全文を公開いたします。
☓ ☓ ☓
【広告】きみもクランに入らないか!
どうもはじめまして!
あたしはアナターシャっていう大魔法使いの冒険者です。
冒険団の立ち上げにともなって、メンバーを募集します!
えっと、最初にクラン結成の経緯から話しとかないとね。
何ヶ月か前まであたしはソロ冒険者だったんだ。でも込み入った事情があって、冒険業をちょこっとお休みにして、見世物小屋をやってる旅一座でバイト生活してたの。人間離れした特技を売りにした芸人さんに転職してたんだよ。
あたしの演目は、お客さんへのアンケート調査で二番手になるほど大人気で、わりといいお給料をもらっていたんだけどさ。今月の半ばに、その旅一座が潰れちゃったんだ……。
ここだけの話、廃業に追い込む原因を作っちゃったのって、あたしのせい。
旅一座で一番人気になってたのが、〝人魔合わせ〟とかいうプログラムには書かれてない裏演目で。男の人や女の人と魔物がムフフなことするって内容だったんだけど、なんかそれって、アンチなんとか法っていうのに引っかかってて、本来は禁止されているはずの出し物ってことで、相当アウトらしかったんだよ。
そこで、あたしは閃きました。
禁じられている〝人魔合わせ〟の公演を堂々とやっちゃってますよぉ~って、自警団にチクったら、お叱りを受けてもう出来なくなるんじゃないか。そしたら人気投票で2位につけているあたしが、自動的に繰り上がって、一番のスターダムにのし上がり、もっとお給料がガッポガッポと増えるんじゃないかしらん? ウシシシシッ!、って。
欲を出しちゃったのがいけなかったね……。
実際にタレ込んでみたら、想像を越えるかなりの大事になっちゃってさ、注意とかじゃ済まなかったの。さいあくにも、座長さんがしょっぴかれちゃったんだよ。いやー、まいったまいった。
客に混じってた自警団たちと座員たちが「なに晒しとんじゃ己らぁ!、全員逮捕だ逮捕!」「うっせんじゃボケぇ!、出てけゴラァ!」って、すっごい剣幕で罵り合いになって、壮絶な取っ組み合いの大乱闘になっちゃったときには、アチャー、なんかヤバいことになったな……、って、正直ビビリましたよ。
最終的に、旅一座は強制解散。自分で自分の食い扶持をぶっ潰しちゃうなんてマヌケですよ、まったく。行動がいっつも裏目に出ちゃうんだよなぁー。みょうちくりんな呪いにでもかかってるのかな……?
それで、これからどうしようかな~ってなってたときに、
「僕といっしょにクランを立ち上げませんか?」
マシュウからそう話を持ちかけられたの。
マシュウっていうのは、旅一座の同僚で、先輩ね。彼の過去についてはまだほとんど知らないけど、さすらいの吟遊詩人をやってたみたいで、あたしのように訳ありになって、一座に身を置いてたらしいんだよ。じつは、あたしのことを旅一座に誘ってくれていた人物でもあるんだ。
街中で〝マッチ売り〟をして食いつないでいた時期があって、そこにお客さんとしてふらっと現れたのがマシュウでさ、そのときに、僕が所属している見世物小屋に来ればもっといっぱい稼げますよ、ってヘッドハンティングされて、加わることになってわけです。
で、今度は、雇用先がダメになっちゃったから、ふたりで独立して、冒険業と見世物をなりわいにする兼業旅団を結成しないか、ってお誘い。
まあ、あたしが胸で飼ってる〝おっぱいちゃんたち〟が目当てで、あたしの行く先にくっついて来ようとしてるのは見え見えだったけどさ。マシュウはかなりの変り者でも、あたしと違って自炊ができるし、そばに置いておけばご飯には困らなさそうだなと思ってオーケーしたんだ。
あっ、そうそう。ちょっと話が脱線するんだけどさ――
マシュウが持ってる魔道具がなんか飛び抜けてすごいんだよね。
見た目はただの〝袋〟なんだ。真っ白な巾着袋で、腰脇に吊り下げれる小さなやつ。だけど、その小さな袋の中に、どんなものでも好きなだけしまえちゃうんだよ。それが、スペースとか容量が、どうなってるの?、ってくらいおかしいんだって! 仕組みを聞いてもぜんぜんよくわかんないんだけどさ、袋の中が異次元空間につながってるとかで、物を吸い込むようにして収納しちゃうんだから。あたしのでっかいリュックまでしまってもらってるから移動が楽ちん楽ちん!
その白い巾着袋には、見たことも聞いたこともないような便利魔道具までいろいろ詰め込まれてて、面白いんだよね。あたしが「どこの闇市で手に入れたの?」って聞いても、「空を飛んでた青いタヌキが落としていった」とか馬鹿みたいな説明で誤魔化されて入手経路を教えてくれないの。
だから、彼と行動をともにしているのは、不思議な袋の秘密をさぐる目的もあるんだ。いつかぜったい突き止めてやる!
ってことで、はいっ、話を戻しまぁ~す――
クランを作るってことになったまではいい。けど、所属してるのが魔法使いと吟遊詩人のふたりだけじゃ様にならないでしょ? 並び立って歩く姿に握られてある得物が杖と竪琴じゃパッとしない。やっぱり剣を持つ人がいないと絵面的にダメだ――というわけで、新聞を使って呼びかけてみようじゃないかとなったんです。
冒険者ギルドにクランとして正式に申請するには最低5人いないと許可されないみたいだし、とりあえず3名募集しときます。
職種は、剣士と弓士、もうひとりは召喚士あたりがいいかな~……あっ、でも、召喚士は役割的にあたしと被っちゃってるから、武闘家がいいかも。ぶっちゃけ、剣士がいたら、あとのふたりは何だっていいや。
見世物行脚をするから、そっち方面の特技がある人とか、大歓迎です!
とにかく3人加入してください、よろしく~!
☓ ☓ ☓
以上が全文になります。
団員募集をしておきながら、連絡先などが一切書かれていませんでした。たんに書き忘れていたのだと思われますが、それによって詳細な潜伏先の特定にはつながらず、依然として彼らの行方がつかめていない現状です。
広告文に記載があった〝人魔合わせ〟による旅芸一座の座長逮捕の話は、今月10日に《コスタデニア町》で起こっていた事案だと思われ。手紙の消印も同町にあるポストマン事務局のものが押されていたため、バウンティーハンターと自警団が共同で町内を捜索にあたったのですが、すでにふたりはコスタデニア町を離れたあとだったらしく、存在を確認するに至らなかったのです。
そのため弊社では今回、彼らの足跡情報を帝国国民の皆様に広く求めるべく、送りつけられた広告文の全文公開に踏み切りました。またこの発表は、彼らが冒険団員集めを名目として、犯罪集団の組織・拡大化を図ろうとしている事実も知っていただくためでもあります。
もし、不審な二人組の男女に声をかけられた際は、最寄りの自警団かハンターギルドまで連絡のほど、よろしくお願いいたします。
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