[No.145] 【お悩み相談】変わった地名とコロポックルの謎行動
♀ カッカ 13才(学生・オサマムペ村)
聞きたいことが二つあります。
ひとつめは、地名にまつわるつまらない質問なのですが、気になっているので質問させてください。まわりの大人に聞いてもみんな「知らない」と言うばかりで、由来がよくわからないんです。
水気が多くて、土がぬかるみ、そこに草が生い茂っているようなところを、〝湿原〟や〝湿地帯〟というのが一般的ですよね? でも、私が住んでいる《オサマムペ村》では、そういう場所のことを〝谷地〟と呼んでいるんです。
たとえば、そこが山間の谷になっている土地柄なら、〝谷地〟という言葉には納得できますよね。けど、ぜんぜんそうじゃなくて、谷とは呼べない平地になっているところにある湿原を、〝谷地〟と呼んでいるんです。それだとなにかしっくり来ないじゃないですか。ちぐはぐしていて、おかしいですよねぇ。
平地にあるなのになぜ谷地……???
と、わたしは理解ができずにモヤモヤしてしまっています。
ふたつめは、〝コロポックル〟についてです。
彼らはわたしの村の周辺に住んでいる小人妖精です。友好的で、村にはよくやってきて、物々交換をしたりしています。その際、いつもわたしの元にやってきて、すこし変なアピールをしてくるんですよ。
コロポックルたちは一列になって並んだあと、
「カッカに敬礼!」
わたしの名前を呼び、普段は滅多に口にしない人語を使ってそんなことをいい、片手をひたいにかかげて実際に敬礼のポーズを取ってくるんです。それだけで、あとはゲラゲラ笑いながら帰って行くだけなんですよ……?
わたしも敬礼を返してあげて見送っているのですが、「どうしていつもこんなマネをするの?」と尋ねても、ふきの葉の下でただニコニコするばかりで答えてはくれません。
コロポックルたちの不思議な行動についても、なにか知っていることがあれば、ぜひ教えてもらえませんか?
■■■ 回答 ■■■
オサマムペ村は、小人妖精〝コロポックル〟が住む地として有名ですね。
○
さて、まずひとつめの、〝湿原(湿地帯)〟のことを〝谷地〟と呼んでいることについての回答ですが。
これはコロポックルたちが使う妖精語が由来です。
私たちの耳に「ヤチ」と聞こえるものが、コロポックルの言語では「湿原(湿地帯)」を指す言葉になっています。昔々、村の開拓にやってきた人々が、先住妖精である彼らが湿地のことを「ヤチ」と口にしている様子を見て、それに人語の文字をあてて「谷地」と表記し、自分たちもそう呼ぶようになったのです。
じつはコロポックル語で〝ヤチ〟はもともと〝女陰〟を指している言葉でした。草が生い茂り、水気があって、ぬかるんでいるという湿地の条件が、女性の生殖器の構造を彷彿とさせることから、隠語として使われだし、やがて彼らの社会において正式名称となるまで一般化してしまったのです。
おそらく、ぬかるんだ土に足をヌポッと突き入れて抜けなくなることを「女陰に嵌った!」などと巫山戯て言っていたら、他のコロポックルたちも面白がってヤチという言葉を使うようになったという経緯があるのではないでしょうか。
ゆえに、谷地の〝谷〟とは、〝オンナの谷〟を暗示しているわけなのです。
○
ふたつめの、コロポックルたちによる「カッカに敬礼!」という謎行動についてですが。
こちらも妖精語に秘密が隠されてあり、そしてひとつめと同様、かなり直接的な下ネタになっています。……少々申し上げにくいのですが、いずれカッカちゃんも知ることになるはずですので、今ここで包み隠さず答えます。
コロポックル語では、〝カッカ〟も〝女性器〟を表現する言葉なのです。
ですので、私たち人間にとっては〝カッカちゃん〟が可愛い響きのある名前であっても、彼らの感覚からすれば〝マンコちゃん〟や〝オメコちゃん〟と類するものであり、それが名前だということに可笑しさを感じているのでしょう。そして、そんなこととは露程も知らないでいるカッカちゃんを前にして、
「女性器に敬礼!」
と、やって見せ、きょとんとするのを面白がり、誂っているのだと思われます。
あくまで妖精語で秘部を指す単語というだけなので、あんまり気になさらないことが賢明でしょう。
次に彼らと会ったとき、また別の意味でかっかしてしまって怒ったりすれば、一層冷やかそうとしてくるかもしれません。これまでどおり素知らぬふりをつづけて適当に敬礼を返すか、「だからなに?」というような毅然とした対応をするのが良いと思います。あるいは、開き直って、「あなたたちが敬礼したいのはコッチのカッカにでしょ?」と御開帳させてみれば、「この人間……できるぞ!」と一目置かれ、貢ぎ物を持ってくるようになるかもしれませんね。
○
余談になるのですが、オサマムペという村の名前もコロポックルたちの言葉由来になっています。
そしてなんと、この〝オサマムペ〟にも〝婦人の局部〟という意味合いがあるのです。
昔々、開拓民が村を築くために、村内を流れる川のほとりで作業をしていたところ。コロポックルたちが木舟を漕ぎながら現れ、いびつで奇っ怪な形の岩石を見つけて、口々に「オサマムペ! オサマムペ!」と言って喜び、手をうち叩いて小躍りしました。それを見ていた人々が「オサマムペという言葉はきっと縁起のいいものに違いない」と思い込み、拝借して村名にしたのです。
しかし、長年の月日が流れ、コロポックルたちと交流が深まった頃になると、村民たちは青ざめました。
オサマムペの「オ」は人語で「尻」を指し、「サマムペ」にいたっては、あろうことか「婦人の局部」をモロに指す言葉と判明したからです。
ようするに意訳すれば〝女尻〟ということ。
コロポックルたちは川にあった岩石を見て、その造形から、「女の尻があるぞ! 女の尻があるぞ!」と言って面白がって馬鹿騒ぎしていただけなのでした。その意味を理解しないまま村の名前などにしてしまったから、さあ大変。
「どどど、どうする村長!? オラたちの村の名前、相当ヤベぇべさ! 名前の由来聞かれて、コロポックル語で女のアソコだぁ、なんて、オラは恥ずかしくてとてもじゃねぇが答えられねぇ……」
オサマムペという名は、すでに国内に広く知れ渡った頃になっており、今更変えるわけにはいきません。
そんな中、物々交換の品物として、村民が、魚のカレイを、コロポックルたちに渡したときでした。
「サマムペ! サマムペ!」
彼らはカレイを指差して、生殖器だ!、と言うのです。
カレイを、横向きにではなく、尾びれを上に頭部を下にした、縦向きで見た姿かたちは、なるほど、女性の外性器にかなり似たものになります。尾びれが陰核周辺部分、左右対象に近い背びれと腹びれが小陰唇を開いたような形、楕円の胴体にある胸びれ付近がちょうど膣口というような位置づけ。
だからコロポックルたちは、女性の局部を模しているようなカレイに対しても、おんなじに「サマムペ」という言葉を使って呼んでいるのです。
「よし……魚のカレイが村名の由来ということにしよう! 近くの山に降った雪が溶けるころにカレイの形に残るから、って理屈で、どうだ?」
「それはちょっとこじつけにしても――……いやもうそれでいこう!」
という背景があり、オサマムペ村の由来は現在、表向きには、カレイということになっているのです。
脈々と受け継がれるであろう名前をつけるときには、語源をよく調べてることが大切ですね。
¶関連記事¶
▼カレイ
[No.54] 【実録】釣られた釣り人