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[No.143] 古文書〝ドグラマグラ〟の解読中に学芸員が、また発狂

 21日、帝都図書館内において、未知の言語で書かれた古文書〝ドグラマグラ〟の解読かいどく作業にあたっていた学芸員の男性が、突如とつじょとして発狂はっきょうした。


「頭の中でチャカポコチャカポコ音がする……」


 と、うったえたあとに絶叫。頭を激しく壁に打ちつけるといった自傷行為におよび、火系魔法の詠唱えいしょうに入って古文書を燃やそうとする挙動に出たため、同室にいた別の学芸員らが彼の身柄を取り押さえた。詠唱完了前に魔法封じの口枷くちかせを装着させたため、魔法の発動にはいたらず、焼失はまぬかれている。


 古文書〝ドグラマグラ〟は、数年前に帝都図書館内で見つかったものだ。


 図書の管理作業中だった職員が、認識タグの取り付けられていない書物が本棚に並んであるのを偶然に発見。年季ねんきの入った羊皮紙ようひしが重ねられた分厚いページ、固定ベルト付きの焦げ茶色のハードカバー。その外装は、魔導書を彷彿ほうふつとさせる仕様だった。


 確認のため開き見ると、表紙ページには精霊語で〝ドグラマグラ〟と書かれてある。だが、読めた文字はそれだけだった。次のページからびっしりと書き連ねられてあったのは、精霊語でもなければ人語でもない。読み取ることのできない言語文字で記されてあったのだ。


 文字列に混じって、多くの挿し絵も見受けられた。動植物の図鑑になっているようなページ。何人もの人々が集団儀式的に、浴場で入浴しているような光景。〝またのぞき〟の呪術行為をする女性の、突き出されたお尻の陰部いんぶだけがなぜか黒塗りにされている人物画。手のひらを上げかざして魔法を使用しているような場面。


 帝国軍は、未知の言語で書かれた魔導書らしいものが見つかったと報告を受け、暗号解読にけた調査団を学芸員として図書館に派遣した。そうして解読作業が開始されたのであるが、すぐに一人目の発狂者が出たのである。


「音が聞こえない? ポンチキポンチキポンチキチって……」


 写本しゃほんしていた女性学芸員がペンを動かす手をとめて、そう訴えた。


 まわりの学芸員たちには、何も音が聞こえない。表現として使われた擬音ぎおんには妙な響きがあり、彼らが顔を見合わせて首をかしげていると、その女性学芸員が今度は脈絡みゃくらくもなく大声で笑いだしてしまった。


「アハハハハハハ、オホホホホホホ、イヒヒヒヒヒヒ!」


 よだれを垂らし白目をむきながら、腹を抱えて笑い転げる様子は、完全におかしくなったような異常さ。文字を写し取っていた紙を手に取り、「物を考えるところはのうずいじゃない! 物を考えるところは脳髄じゃないの!」と笑いながら繰り返し口ずさんで紙をビリビリに破いてしまう。彼女が〝ドラグマグラ〟の原本オリジナルに手を伸ばそうとしたところで、呆気あっけにとられていた仲間が制止に入って取り押さえた。


 このように、学芸員たちが解析作業に着手していると、そのうちの誰かひとりが決まって、奇妙な音が聞こえると訴えたあと、錯乱さくらん状態におちいってしまい、原本を破壊しようとする奇行きこうに走ってしまうのである。そのため作業が一向にはかどらず、内容は未解読のままだ。執筆されていた年代や作者も不明で、図書館に誰が置いていたのかさえわからないのである。

 

 発狂した学芸員は、正気に戻る者もあれば、狂ったままになってしまっている者もいる。写本作業をおこなった場合に症状が深刻化するようで、一番最初に異常をきたした女性学芸員は、数年がたった現在でも、精神病棟にいる。回復にむかうきざしはなく、担当医を許嫁いいなずけと思い込み、「お兄さまお兄さまお兄さま!」と迫っていくようなキチガイになれ果ててしまっているのだそうだ。


 この〝ドグラマグラ〟という古文書には、なにか恐ろしいのろいがかけられてあると思う方もいるだろう。しかし原本からは呪いの魔法反応は一切うかがえず、災いを招くような術はほどこされていないのだという。


 であるならば、なにが学芸員たちを狂わせているのだろうか。


 そして、記載されている本の中身とは、いったい……。


 帝国軍当局では今後も、あたしです、あたしですよ。


 お兄さまはお忘れになったのですか?


 ……ブ――――ン……


 ……ブ――――ン……


 ……ブ――――ン……


 なだろう? あああたまのなかでおとがきこれ




(※本記事の担当記者から送られてた手紙はここで途切れていました。その後、記者とは連絡が取れない状況が続いています。編集会議の結果、弊社ではこれ以後、この古文書〝ドグラマグラ〟解読に関連しての続報掲載はおこなな……あ――ア。モヨコモヨコ。チチチチチチチ……クリクリクリクリクリクリ……チチ……)

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