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[No.141] 養殖スライム窃盗団を逮捕 〝〇一スライム〟の転売目的

 19日深夜、《ブロチコネン町》の自警団員3名が町内の巡回警備にあたっていたところ、スライム養殖ようしょく業者の敷地内に不審な幌馬車ほろばしゃが停車しているのを発見した。


 幌馬車が止まっているのは、涅舎くりしゃ(スライム飼育用の畜舎ちくしゃ)の出入り口前。御者ぎょしゃだいには、レインコートを着込みフードを目深にかぶった人物が一人座っているが、あかりは消されている。荷台にだい周囲にも同様の格好をした人影が数名分動いていたが、こちらもひとりとして灯りを手にしていない状態だった。


 この養殖業者の涅舎では、今月に入ってから二度のスライム窃盗せっとうにあっており、重要警戒対象になっていたところだった。


 自警団員らが状況を確認すべく近づいていくと、「人が来た、逃げるぞ!」と男の声で慌てる声が聞こえてくる。人影が次々と荷台へ飛び乗った直後、馬にムチが入れられた。居合わせた自警団たちには、疾走しっそうしてくる馬車を止める手立てがなかったため、魔道具を使用した照明しょうめい光球こうきゅうを上空に打ち上げ、仲間に合図を送る。


 町の出入り口の警備についていた別の自警団たちが、道路封鎖を要請する黄色の光球を見届け、すぐさまくいを組み合わせた防馬柵バリケードを道脇から引き出して設置。そこへ無灯火むとうかで滑走してきた馬車が気づくことなく激突したことで、5名の窃盗団を一網打尽に取り押さえることに成功した。


          ○


 捕らえられた窃盗団は二十代後半の男女。一名いる女が御者ぎょしゃを務め、残りの四名の男は運び役だった。


 彼らが涅舎くりしゃから密かに持ち出していたのはもちろん、養殖中のスライムである。バリケードに突撃してひっくり返った馬車の荷台には、色とりどりのスライムが閉じ込められたかごが山積みされていた。壊れた籠の中から数匹が逃げ出したため、自警団らは、窃盗団を縛り上げたあとに、ぽよぽよと跳ね回るスライムまで捕まえるはめになったという。


 尋問によれば、転売目的の窃盗だったとの話である。


 スライムの生皮は、その優れた防水性、伸縮性、耐久性、薄さなどが着目され、現在では、性感染症の防止や避妊ひにんに用いられる便利アイテム〝スラドーム〟の素材として活用されている。


 スラドームは、名前が示すように、100%スライム製。半透明の色合いをした薄膜うすまくの外観は、もろに生皮。そのため『かわ』を差す単語の〝スキン〟という隠語で呼ばれることもある。独特の匂いがあって、それはスライムの体臭そのものだ。


 野生のスライムが出没する町村では、スラドームの認知度は高いものの、「あんなキモい魔物の生皮を付けるなんてどうかしてるぜ」「そんな魔物臭のするものをれるなんていやよ」と、まだまだ拒絶反応が根強く、ほとんど受け入れられていない。


 一方、普段スライムの姿を見かけることのない集合型都市では、抵抗感が薄く、「嫌な臭いさえ我慢すれば素晴らしいアイテムだ!」と生活必需品にまで上り詰めている。


「うちで育てたスライムを盗むなんて許しちゃおけねぇが、窃盗団のやつらの目のつけどころは、めてやってもいい」

 

 と語るのは、今回窃盗未遂の被害にあったスライム養殖を営む男性・コンサックさん(41)だ。

 

「うちのスライムたちは、皮の薄さが、ほかとは大違いなのさ。なんたって長年の交配研究によって、男たちが待望していた厚さ0.01ミリを実現させたんだ。何も付けて無いのと変わらないような快感が得られるんだよ」


 他業者のついずいを許さない薄さと品質をほこっているため、コンサックさんが育てた個体には〝〇一(ゼロイチ)スライム〟という特級の血統が付き、加工業者へ高額販売されているのだそうだ。


 窃盗団はこのことを承知した上での犯行に及んでいたようである。彼らは今月二度に渡って発生していたスライム窃盗についての関与も認め、深く反省しているらしい。ブロチコネン町の自警団は今後も窃盗団の拘束こうそくをつづけ、スライムの横流しに使っていた裏ルートなどを追求していく方針だ。

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