表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/170

[No.14] 無人漁船漂着 乗組員はセイレーンに魅了された?

 《ポルーフェン港》近海の岩礁がんしょう地帯で、中型帆船はんせん一隻が座礁ざしょうしているのが見つかった。帆船は、同港から出航して戻らなくなっていた漁船とみられる。


 発見時、乗組員はひとりも乗船していなかった。船体に損傷はなく、マストやセイルも航行こうこうに支障がない良好な状態。船内は荒波にまれた形跡もない。物という物は整っており、厨房ちゅうぼうには食べ物がせられた食器類が並べられたままになっていた。見つかった生き物はといえば、釣り上げられた魚介類だけである。


 まるで、食事の最中に乗組員全員がこつぜんと姿を消してしまい、無人となった船が海を漂っていたような有様ありようだ。


「こいつは〝セイレーン〟の仕業しわざさ。他のバケモノに襲われたんなら、船体がこんなに綺麗に残るわけがねえ」


 と、同港で漁師をしているマーロンさん(39)が語ってくれた。


「セイレーンは、船に乗った奴らをかどわかす魔物だ。体は魚と鳥が混じったようになっててな、翼もあって飛びまわりやがる。首から上は人間の女のつくりとうり二つさ。厄介なのは、そいつの歌声なのよ。おそろしく心地良い歌声でよ、聞けば魅了みりょうされちまう。わけがわからなくなって海に飛び込んじまうのさ。そしてそのまんまお陀仏だぶつよ」


 地元漁師の間では、漁に出る際、吟遊詩人ぎんゆうしじんを雇って乗船させるのが通例となっている。セイレーンは竪琴たてごと旋律せんりつを嫌うためだ。


 吟遊詩人は、船員が漁を行っている間や寝ている間に竪琴をかなで、セイレーンけを行うのである。仮眠をとっているときにも片時も竪琴を離すことはないハードワークで、給料が高くなったり、遠出する場合などには数名を雇う必要がある。


「この船の船長は、経費削減とかぬかして、吟遊詩人を雇ってなかったのさ。それがこのざまだ。削っちゃならねえとこ削っちまうと、命を落とすハメになっちまうんだよ」


 マーロンさんは、かつてセイレーンと遭遇したことがある。


 海の真っ只中で、女の歌う声ようなが聞こえてきたかと思うと、気分が安らぎ頭がぼーっとなった。それから、ハッとなってえたとき、自ずから甲板かんぱんの手すりを乗り越えようとしていたところだった。近くでは吟遊詩人が竪琴を弾いていて、メインマストに止まっていた女の頭をした奇妙な鳥が空の向こうへ飛び去って行ったのだという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ