[No.130] 帝共両軍 一ヶ月たっても にらみ合い続く……
今月9日を迎え、我が帝国軍の第38山岳師団(通称:サンパチ師団)を主力とした陸軍部隊が、敵対隣国である《セネショア共和国》の陸戦郡と、急転直下のにらみ合いに突入してから、はや一ヶ月が経過した。現在においても、セネショア共和国軍(以下、共軍)は、帝国極東に位置する我が国固有の領土《ドライエート山》の一部区域に、大軍団を率いて全力で居座り、不法占拠を続けている。
当新聞社では、先月の事件発生一週間後にこれを把握、すぐさま従軍特派員を送り、連日取材を行って皆様にお伝えしてきた。しかし、吉報をお届けするには至らず。完全な膠着状態におちいって、解決する糸口が未だに見えてこない様子を、たんたんと伝えるだけの日報と化してしまっている。
「どうして軍は何もしない!」
「領土を侵されているのに!」
「はやく共軍を追い返して!」
山麓にある《タシモカイド村》の住民をはじめ、国境付近に暮らす人々への取材では、共軍への怒りはもとより、解決の具体案を一向に示さない帝国軍部に対する憤りの声が、日に日に多く聞かれるようになってきている。
非難の声がつのるなか、帝国軍は「対応策を検討中」とし、ドライエート山付近の町村部の住民には、冷静を失わない辛抱強い忍耐を呼びかけ、これまで通りの生活を継続するように、とだけに留めている。
今回、従軍特派員よるインタビューが許可され、現地で指揮補佐の任に就いているラシッド・ノア伍長(22)に、いくつか話をうかがうことが出来た。
――武力での排除には踏み切らないのですか?
伍長「現時点において、武力行使による陣地奪還と強制退去は、選択肢にない。あくまで話し合いによる平和的な解決手段を模索している」
――その道筋は立っていますか?
伍長「早期解決に向けて善処している。にらみ合いが長引いている状況にあるが、小競り合いも生じていない良好な状態を保っている。共軍にはこれ以上の侵攻をともなう目立った動きも見られない。国民の皆様は焦ることなく落ち着いて欲しい」
――空軍に出動を求める市民の声も出ているようですが?
伍長「航空竜騎兵団が空を舞って威嚇に出れば、共軍側も航空部隊を動員すると考えられる。強大な戦力である航空兵同士がぶつかり合えば、たんなる散発的な武力衝突にとどまらず、人魔大戦後初の〝対人戦争〟へ発展してしまう可能性が大いに憂慮される。よって、帝国空軍の参入は妥当ではない。ただ、不測の事態に備え、主力のワイバーン部隊をはじめとした各種飛行部隊は、いついかなる時であってもスクランブルできるように待機している」
――〝エルフ〟の兵員が共軍に所属しているというのは事実ですか?
伍長「相手増援部隊にエルフと人間による混成歩兵部隊を確認している。エルフが戦闘員として実動している姿を観測するのは、今回の一件が初めてである。エルフと聞いて恐怖する方もおられるかもしれないが、重ね重ね、共軍に目立った動きは見られないので、どうかご安心を」
――今回の領土侵犯は、帝国国内で行われている『亜人撲滅強化月間』に端を発したもので、亜人との融和を掲げている共国が抗議として敢行に踏み切ったという見方も囁かれていますが?
伍長「それは噂に過ぎない。共国側の思惑は依然として明らかになっていないのが現状。不確定な情報の流布は、無闇に混乱を生じさせる原因となるため、やめていただきたい。帝国軍広報部の公式発表を待ち、惑わされることのないように」
――最後にもう一度、国民への呼びかけはありますか?
伍長「我々帝国軍は、事態の解決に向け、全身全霊の努力を続けています。共国による不当な侵犯行為に義憤を覚え、困惑し、不安に感じている方々がおられることは十々承知しています。しかし、皇帝陛下は、『人と人とが剣を交える武力衝突はあってはならないこと』とお考えです。是が非でも回避しなければなりません。今しばらくの辛抱を、ご理解のうえ、どうかご協力ください」
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